まか不思議
特に会話もなく姉貴の家に着いた。
カチャ 姉貴が慣れたかんじで鍵をあける。
「まことー おかえりー」
部屋の奥から能天気な声とともに、ダダダダっと足音がしてきた。
やはりあいつと一緒に暮らしていたんだ。
「ツッ たけるがいるにゃあー」
俺に似たあいつは、満面の笑みで姉貴に抱きついてたきたが、俺を見た途端、目を大きく見開いて舌ったらずな声で叫んだ。
その後ビクっとして姉貴から離れたが、姉貴があいつの手をひいて抱きしめるような形で胸のなかにおさまった。
「大丈夫よ」
背中をさすって頭を撫でて、子供に言い聞かせるように何度も言った。
俺は靴を履いたままその様子をみていた。
「とりあえず、上がって」
姉貴に言われ靴を脱ぐとワンルームの部屋の角に座った。
女性の部屋というのに殺風景で、必要最低限のものしか置いてないような寂しい部屋だった。
「料理とかするの?」
「失礼ね、その料理本見て作ったりするんだから」
姉貴は『日本食の基本からアレンジ』というタイトルの本を指した。
「で?こいつが虎次郎だって?」
本題にはいった。
「まこと たけるにいったにゃ」
ガキのような言い方であいつは首をかしげた。
俺と同じ顔なんだけど、そうなんだけど小さいガキのような落ち着きがない動きをする。俺と目があえば怯えたようにビクッとするくせに、チラチラとこっちを何度もきにしてくる。
「虎次郎、まだ健は信じてないけど、見られてしまったし、もう内緒はできないの」
また子供に話すように姉貴が俺に似た奴に向かって話しかけた。
あいつは みゃーだったかにゃーだったか、頭を掻きながら悲しそうな猫のような鳴きかたで返事をした。
何も言わない俺に
「虎次郎、もどって」
と姉貴が合図した。俺はそんなこと起こるわけないと思ったが、このとき猫の姿に変わるのを期待していた。
何分かたった、そんなに時間はたっていないが待っていると長く感じる。
あいつはウニャーとかムムムゥっとうなったリしていてそれの繰り返し。だんだん固唾をのんで見守っていることが阿呆臭くなってきた そのとき、
「たける きがえるからあっちむいて」
はじめて あいつ が俺を見た。
「ああぁ」
あいつがはじめて俺にしゃべったことで、また緊張感がもどり、俺は言われるまま後ろを向いた。
きがえ?頭に残ったが、すぐに後ろを振り返りたい衝動で消された。後ろを向いて30秒もたたないうちに
「健、いいわよ」
姉貴の声で、俺は勢いよく振り向いた。
「え・・・」
そこには 見慣れた 猫 がいた。
灰色っぽい毛色に、黒い毛の混ざったサバトラ猫。何年も知ってる 顔 があった。
「とら じろう・・・」
息を飲んだ。あの短い時間で・・・手品なんかじゃない ここで起こったことは。
本当にあいつは 虎次郎だった。