あれは俺じゃない
時間がとまったようだった。
すぐにでも「誰だよ」って問いただしたい気持ちと、まだこの状況に対応できない自分がいりまじり、一歩も動くことができなかった。
目の前の自分、いや、同じ顔の自分にそっくりなやつが何者なのか知りたい・・・
姉貴とは5歳の年の差があり、小さい時はままごとに付き合わされたり、着せ替え遊びで女装させられたりした。晴香が歩きだすと俺の世話係は異動した。
中学にはいる頃にはと父親が仕事で遅いせいで、男一人女三人が当たり前の家庭になっていて、俺はなにかにつけて集中砲火をあびていた。
俺はよく姉貴に歯向かって「かわいくない」と言われていたし、生活態度に文句をいわれ、この春から社会人になり家をでた時には晴晴したくらいだった。
だが、目の前のあいつは姉貴にべったりで。
声をかけようか考えたが、後をつけることにした。あいつが何者か探るために。
それに楽しそうに歩く姉貴との関係をあばいてやる。
世の中には3人同じ顔の奴がいる。
いつしかテレビで聞いたことがあったな・・・
でも、世界は広いのにこんな近くにいるものか。クローン技術の発達とか・・・いやいや難しいことは解らないし俺がそれに選ばれたとか。
姉貴は化粧品会社に就職したんじゃなかったかなぁ・・・まさか彼氏を整形で・・・お、俺の顔に
ブハハ
頭のなかでごちゃごちゃ考えてたら、姉貴が自分の彼氏の顔を、俺の顔に整形するとこまで妄想が膨らんで吹き出してしまった。俺ゼッタイ周りから変な奴だと思われてる。
どんな展開がまっているのか、頭はフル回転し心は飛び出したいほど躍っていた。
二人は仲良く何か話しながら、コンビニに入っていった。
待ってる間に少し落ち着いてきた。このまま姉貴の家に帰るとか・・・。
その後二人が向かったのは公園で、どうやら先ほど買ったものをここで食べるらしい。
ビールと、あれはチー鱈かな・・・
俺に似た奴は、姉貴にチョコモナカを差し出し開けてもらって、すごい勢いでかじったと思ったら冷たかったのか、顔をブルブルブルっとふってて姉貴に笑われてた。
姉貴はビール片手に俺に似た奴を優しく眺めてて。
俺に似た奴は落ち着きがない。
アイス食べかけで、つまみをかじり、牛乳の上を姉貴にあけてもらったら、ドボドボこぼしながら飲んで手で口をぬぐって舐めた。
ストローで飲めねーのかよ。
そいつは姉貴に頭を撫でられながら、気持ち良さそうに膝枕で寝ようとしだした。
見ていて飽きないその仕草についつい見とれていたが、ふと我に返った、もう限界だ、あいつが誰なのか姉貴に問いただそう。
姉貴に近づこうと隠れてた木の陰からでた途端、あいつは身体を起こしキョロキョロした。
「真琴、そいつ誰」
空気が凍りついたようだった。口を開けたまま姉貴を見るあいつと、俺をしっかり見て何も言わない姉貴と。
「そいつ、なんか俺に似てねー?」
ちょっと苦笑いで聞いてやった。
なにか言えよ、近くで見るとますます俺に似てる、いや俺だ。
ち、違う俺は俺なんだから、こいつは俺じゃない。
姉貴が沈黙を破るのを待つしかなかった。それはクイズの正解まちのようにハラハラし、少しの緊張と期待で鼓動が身体中を反響してめぐった。