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5話 塵芥の王と覇王








―――――――――――――――







曹操は村に来て、少し違和感を覚えていた。


曹操も夏侯淵たちだけで賊が片付くとは思ってはいない。夏侯淵たちはあくまで先遣隊だ。夏侯淵たちは曹操たち本隊が着くまで村を守らせていたのだ。殲滅は本隊が引き受ける手筈になっていた。


そして実際にそうなっていた。今、夏侯惇が銅鑼を鳴らし、賊の掃討に向かっている。


だが、何かが曹操の中で引っ掛かっているのだ。


「………何かしらね。ふふ、何か面白い事があるのかしら?」


曹操は笑みを浮かべ、夏侯淵と合流するため、村へと向かった。







「秋蘭、無事かしら?」


「はっ」


村に着けば目的の人物は直ぐに見つかった。


「状況は?」


「はっ。北側以外は均衡しておりましたが、姉者や華琳様の部隊のお陰でこちらに傾いています」


曹操に聞かれたことをテキパキと答える夏侯淵。


「北側以外と言うことは北側はまだ苦戦していると言うことかしら?」


「いえ、それが……北側は華琳様が来られる前に終わっておりまして……」


「へぇ、貴女が指揮を取ったのかしら、秋蘭?」


「それはそうなのですが………」


いつもと違いなんだか歯切れの悪い夏侯淵に曹操は疑問を抱く。


「詳しい話は中で、華琳様に会わせたい者たちがいるのです」


と夏侯淵は間借りしている商家の中へと曹操を連れていく。









「秋蘭、お前が会わせたいと言っていたのはこの三人なのか?」


途中で合流した夏侯惇がそう訊ねた。


曹操の目の前には楽進たち三人娘がカチコチとなっていた。


それもその筈、将軍である夏侯淵ですら緊張していた三人がその君主である曹操を目の前にして普通でいられるわけがなかった。


「そうだぞ、姉者。華琳様、この者たちはこの村で義勇軍を率いているもので、私が見たところ磨けば光る素質があるかと………」


「あ、ボクからもお願いします。ボクは一緒に戦ってましたから………」


と夏侯淵と許緒からの推薦を受けて、三人娘が曹操陣の末席に加わった。


「それともう一人推挙したい者が………」


「あら、まだ居るのかしら?」


それは嬉しそうに言う曹操。


「はい。………李典、アイツはどうした?確か来るようにと言っておいたはずだが……」


「怪王のことですか?それなら呼べば来ると思いますよ」


「はぁ?呼べばって……」


「嘘やないですって。呼んでみましょか?」


「あぁ、頼む」


半信半疑で李典に頼む夏侯淵。


「では失礼しまして………」


と息を一息吸い込み。


「………。怪お――――」


「邪魔をするのである」


と今まさに李典が呼ぼうとすると扉を開けて普通に入ってくる塵塚怪王。


「うぬ?どうかしたのであるか?皆して我輩の顔をまじまじと見るとは………」


曹操と夏侯惇はその珍しい風貌を、他の者はなんと言う間の悪さかと驚いていた。


「うん?真桜、どうしたのだ?そのような格好で止まって、それではまるで我輩を呼ぼうと張り切ったのにも関わらず我輩が普通に登場したかのようではないか」


『(確信犯かッ!?)』


今、この場にいる全員(塵塚怪王は除く)の心が一致した瞬間であった。









「それで、貴方、名はなんというの?」


「他者に訊ねる時は先ず自ら名乗れと教わらなんだか?」


「貴様ぁ!華琳様になんて口を聞くのだ!?」


塵塚怪王の不遜な態度に夏侯惇が怒り、手に得物を持つ。


「春蘭、止めなさい。すまないわね。私は曹孟徳。陳留で刺史をしているわ」


「我が名は塵塚怪王である」


「塵塚怪王?変わった名ね」


「ふん。人の理では分からぬ名だ」


「……?それはどういう意味―――」


――――カーン、カーン。


曹操が言おうとした時、木を打ち鳴らす音が聞こえた。


「なに?もしかしてまた賊が出たの?」


「あぁ!そういえば今日は来るはずなの!」


「せやった。急がない売り切れてまうで」


首を傾げる曹操たちを余所に于禁たちが部屋から出ていってしまった。


「なんなの?賊ではなさそうだけど?」


と曹操は残っている塵塚怪王に聞く。


「自身の目で確かめれば良かろう」


塵塚怪王は曹操たちを外へと促す。








曹操たちが外に出ると、村の者たちが広場に集まっていた。


その中心には一対の木の棒を鳴らす少女が居た。


「何かしら。旅芸人でも来ているのかしら?」


「当たらずとも遠からず。上を見よ」


と塵塚怪王に言われるまま曹操たちは空を見上げた。


そこには雲ひとつない蒼天が広がっていた。………いや、その蒼天に二つの黒い点があった。


初めは鳥かと思われたそれは次第に大きくなっていく。


「………え?何か、落ちてくるわよ!?」


「華琳様、お下がりください!」


夏侯惇たちが曹操を庇うように立つ。


「心配は無用だ。あれが落ちるのはそこだ」


と塵塚怪王は未だに木を打ち鳴らす少女を指さす。


そして……………。





―――――ドスーンッ。





砂煙を上げて、それは確かに少女の元へ落ちていった。


そして砂煙が晴れると中から…………。


「へい。らっしゃいらっしゃい。釣瓶落とし運輸だよ」


「いらっしゃいませ~。たんたんころりん商店ですよ~」


髭を蓄えた男と愛想の良さそうな女が店を開いていた。


そしてそれに村の者が一斉に集まっていったのだった。






「あれは何………?」


「見て分からぬか?あれは旅の行商者で………」


「空から降ってくる行商者なんて聞いたことないわよ!?」


「だからなんだ?汝はこの世の理全てを理解しているとでも言うのか?この世には汝の知らぬことなど数多ほどあるぞ」


「………確かにそうね。でもあれは普通ではないでしょ」


「他者に迷惑をかけないのであれば普通である必要はなかろう。それにあれは我輩と同じものである。人の理から外れているのは当たり前である」


「貴方と同じ?どういうことかしら?」


「あぁ……。まだ言っていなかったな。我輩は塵塚怪王。人成らざるもの―――妖者である」








曹操は呆気にとられる。この目の前の男は自らを妖者と呼ぶ。あやかしの類いだと自ら言うのだ。


まるでそれが誇りであるかのように堂々と………。


曹操はその真偽を確かめるかのように目の前の男を凝視する。


背丈は確かに人としてかなり高い。


(と言うかなんか見下げられてるみたいで不愉快だわ)


そんな個人的感情を抱くが、それを抜きにしても目の前の男がよく分からなかった。


そもそも男であるのか?顔は被り物で見えない。声も籠って判断材料にはならない。もしかしたら頭は飾りで体の中に本人が居るのでは?と考える曹操。


「―――居らぬぞ」


と曹操の思考に塵塚怪王が横やりを入れる。


「中に人なぞ居らぬぞ」


「………別に私は何も言ってないわよ」


「ふん。汝らは先ず同じことを考えるからな、言わずとも分かる」


とそれだけ言って塵塚怪王は曹操へと手を伸ばす。


「ッ!?……何かしら?」


一瞬たじろぐがそこは流石は覇王。すぐに持ち直す。


「汝は多くの者に恨まれているようだ」


塵塚怪王の腕は曹操の肩の後ろへ伸びていく。


「……ふん。しょうけら、か」


塵塚怪王が腕を引き戻すと手に一匹の虫がついていた。


「何かしら、それは?」


「しょうけらだ。汝らの知る言葉で言うなら三尸さんし、蠱毒と言ってもよかろう」


「三尸?………蠱毒は確か呪術の一つだったかしら」


「うむ。その程度の知識はあるのだな」


「ふん。馬鹿にしないでちょうだい」


「これが汝についていたものだ。最近体の不調などはあったのではないか?」


「……えぇ」


それはとても些細な頭痛であった。だがそれは一向に治る気配がなかったものだった。


「それが原因だと?」


「そうでもあるし、そうとも言えんな。我輩たち、妖者は人の認識で存在している。それほど大事にはなっていないところを見るに汝はこういった類いを信じておらぬだろう?」


と手の中で動くしょうけらを見る。


「だが、己に向いている敵意には気づいておった。それで微細ながらも症状が出た、そんなところだ」


それはある意味自己催眠のようなものだ。


「そう。でも意外ね。貴方、他者を助けるようには見えないのだけれど……?」


「ふん。その認識は正解だな。我輩にとって我が眷属以外はどうでもよい。だがな…………真桜たちが仕えると決めた者が早々に死なれてはあれらが困るのでな。関心はないが、恩義に背くほど我輩は不道徳ではないのだよ」


そう言って塵塚怪王は手に持つしょうけらを放す。しょうけらはこそこそとどこかに行ってしまった。


「あれはどこに行くの?」


「決まっておろう。人を呪わば穴二つ、使役者の下へ帰ったのだよ」


「ふふ、貴方、面白いわね。どう、真桜たちと一緒に私に仕えてみない?」


「……我輩は妖しいぞ」


「知っているわ」


曹操は塵塚怪王を真っ直ぐと見つめる。


「ふん。変わった人間であるな、汝は」


「才持つものなら私は誰でも引き入れるわよ。それが例え人外であってもね」


「ふはははっ。うむ、汝は面白い。いいだろう。我輩と契約しよう、曹孟徳よ」


「契約?」


「そうだ。我輩は人の争うに自ら介入するわけにはいかぬからな」


手をスッと前に出す。


「我が名は塵塚怪王。人に捨てられたものを統べるもの、妖者たちの王である。我輩は汝の求めに応えよう。だが、忘れるな。我らにとって契約は絶対だ。それは以上でも以下でもない。それでも我が力を行使するか、曹孟徳よ?」


そのふざけた風貌からは思いもよらぬ重圧が曹操へと向けられる。


だが、曹操はそれを真っ向から受ける。


「えぇ、いいわよ。その力、私が存分に使ってあげるわ」


と塵塚怪王の手を取り、契約を交わす曹操。





こうして覇王は三羽烏と共に塵芥の王の力を手にした。


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