最終話 届かない想いを手紙に託して
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こんにちは。古戦場火です。
今、貴方はどうしているのでしょうか?
もう届かない所にいる貴方に向けて、手紙を書こうと思いました。少しでもこちらの状況が伝わればいいなぁ、とそう思ったからです。
あの赤壁での一件から10年の月日が流れました。私の背や髪も伸びてきました。曹操さんを追いこすのも時間の問題です。胸だって、だんだん膨らんで―――。
……コホンッ。私たち妖者からすれば、それは短い歳月かもしれませんが、人にとってはそうではありません。……って、こんなことは貴方が一番ご存じでしたよね。
あの後、曹操さんたちの決着がどうなったのかは分かりませんが、今では皆さんとても仲良しです。三国の人々はそれぞれで力を合わせて大陸をより良くしています。
それから曹操さんが私たち妖者のことも考えてくれています。
今は試験段階で正式ではないのですけど、政にも妖者が参加しています。私たちの代表では渾沌さんや火車さんたちが参加しています。
私も少しだけお手伝いをさせてもらうこともあります。
あ、たまに一目連さんもやって来ます。……ただ、あの方はお茶請けのお饅頭が目当ての気がしますけど。
今日は久しぶりのお休みなのです。
外を散歩しようと思っています。
――――タッタッタッ。
私は今、町を走っていた。町の中にもちらほらと妖者の姿を見ることができる。
私は言われた通りに渾沌さんの手伝いで、今、都の警備の任に就いています。
妖者見廻組です。
都での警備を妖者を率いて、見廻りをしたり、妖者絡みのいざこざを解決するのがお仕事です。
ズバッと参上!ババッと解決!です。
「あ!古戦場火ちゃん居たの!」
と私に声をかけてきたのは于禁さんでした。
「お休み中なのにごめんなの。でもちょっと来てほしいの!」
「え?あの……あわわわ!?」
私の手を取ると、引っ張っていく于禁さん。私は突然のことに引っ張られるままに連れていかれてしまいます。
私が于禁さんに連れてこられたのはとある市でした。そこには…………。
「そっちがぶつかってきたのん。なんで私が謝らなくちゃいけないのかしら?」
「あぁ、ヤダヤダ。居るよね、こういうの。自分の不注意を他人のせいにするやつ。全く傍迷惑だゾ」
そこには飛縁魔さんと鬼一口さんが口論をしていました。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてや」
『外野は黙っているんだゾ(のん)』
仲裁に入っていた李典さんを一喝する二人。二人とも息が合っていて仲良しさんです。
「古戦場火ちゃん、お願いなの。あの二人を止めてほしいの。沙和たちじゃ、あれは無理なの~」
「そういうことでしたか。はい、分かりました」
于禁さんたちも警備隊の隊長さんです。比較的大人しい妖者相手なら大丈夫なのですけど、鬼一口さんたちでは私たち、妖者見廻組の出番です。
「お二人とも止めてください。こんな所で言い争っていては皆様にも迷惑ですよ」
「外野は……って、古戦場火ちゃん?何でこんな所にいるんだゾ?」
「こんにちは、鬼一口さん。たまたま休みでこの辺りを通りかかったら于禁さんに呼ばれたんですよ。あまり揉め事は困ります、鬼一口さん」
「ボクは基本的に人畜無害さ。この我が侭なやつが突っかかってきただけだゾ」
「あらん、私のせいにするつもりなのん?私は先ず人にぶつかったら謝る、と当たり前のことを言ったまでよん」
どうやら衝突事故のようです。
「だから、それは謝ったゾ。それにいちゃもん付けてきたのはそっちじゃないか」
「いちゃもんなんて人聞きが悪いわねん。ただ、あんな誠意の無い言葉を謝罪とは認めないだけよん」
「とりあえず、落ち着いてください」
と私は飛縁魔さんを落ち着かせることにします。先ずは両方の意見を聞いて…………。
「煩いわねん、このちんちくりん」
「ッ!?ちょッ、おまっ!?」
「何よん?」
「馬鹿か、お前は!?古戦場火にそんなこと言ったら……」
「――――ふふふ」
ちんちくりん?私が?そりゃ、私は皆さんに比べれば小さいかもしれない。でも、最近は膨らみ始めているんですよ。先日だって貧乳党の皆さんから脱党命令がきてましたから……。貧乳党なんていつ入ったのでしょうか?
「や、やばいゾ。古戦場火から炎が漏れているゾ」
最近、私も段々と力の使い方が分かってきたんですよ?勿論、火之迦具土神の力ですよ?
「こ、これはお仕置き(ごほうび)って量じゃありませんのん……」
二人が私の炎を見て、頬を引きつらせています。そういえば前に教えてもらった言葉にこんなのがありました……。
「――――喧嘩両成敗」
『あぁぁぁぁぁ!!!』
「……ふぅ。お二人とも、あまり迷惑をかけてはいけませんよ?」
『……は、はい』
二人とも、とても反省されていました。私は何も言ってないのに正座で聞いてくれていました。
「助かったの~、古戦場火ちゃん」
于禁さんが嬉しそうに私の手を握ります。他人の嬉しそうな顔を見ると私も嬉しい気持ちになります。
「それじゃあ、私はこれで……」
と私は于禁さんにお辞儀をしてその場を後にします。
「イタタタ……全くヒドイ目にあったゾ」
「それはこっちの台詞なのん。とんだとばっちりなのん」
「なんだい?やるかい?」
「望むところなのん!」
「沙和~、もういっぺん古戦場火ちゃん連れてきてや~」
「分かったの!」
『勘弁してほしいゾ(のん)』
李典の言葉に二人が土下座をする。それほどまでに火之迦具土の炎はきついものらしい。
「それにしても古戦場火ちゃんは随分と変わったものだゾ」
「確かになぁ、前は俯いとる子やったのに今じゃハキハキとよう喋るし、性格も明るくなったと思うで。やっぱ、怪王の跡目を継いだって気持ちがそうさせるんやろか」
「まぁ、そうかもしれないわねん」
「愛の成せる技なの」
四人は古戦場火の方を見て微笑む。
「ところで、鬼一口」
「どうかしたんだゾ?」
鬼一口に李典が言う。
「後ろ……」
「後ろ?…………あ」
そこには送り拍子木が立っていた。
「テメェはいつもいつも道草食いやがってぇ……」
「ま、待つんだゾ、送り拍子木!?これには理由があるんだゾ!?」
「理由?聞かせてもらおうじゃねぇか……」
「いや、飛縁魔が突っかかってきて……」
「飛縁魔?どこに居るんだ?」
「どこって、そこに………居ないッ!?」
鬼一口は飛縁魔のいた方を向くが、そこには誰も居なかった。
「あいつ、逃げやがった……じゃあ、李典なんか言って………って、あいつらも居ないッ!?」
李典たちもその場から消えていた。
「………もう言い訳はいいのか?」
「ちょっ、待つんだゾ。先ずは話し合いから………」
「―――問答無用だ!コノヤロー!!」
「ぎゃあぁぁぁ!!」
「全く。遊んでないで、早く帰ってこいよ…………この馬鹿亭主」
送り拍子木は鬼一口の首を掴み、引っ張っていく。
鬼一口。この10年で家庭を持って、一児の父となっているのは余談であった。
町の外れまでやって来た私。
そこは私にとって思い出深い場所。町の外れにある森の奥の小さな河。
河の水面に私の姿が写し出される。短かった髪は伸びて、腰まである。最近では沙和さんたちと一緒に買い物に行って衣服にも気を遣っている。
「怪王さん………」
私はここであったことを思い出します。
怪王さんを探して、迷い込んだ私。
それを探しに来てくれて、頭を撫でてもらったこと。
そして、渾沌さんに初めて会った後のことは…………今でも恥ずかしいです。
でも、あれが私の本心なんです。赤壁の後、皆に質問攻めにあっちゃいましたけど……。
そういえば、鶫ちゃんとは今でも仲良しです。
鶫ちゃんは、とあるお家のお爺さんのお手伝いをしています。とても可愛がられているそうです。たまに届く手紙に書いてあります。
「怪王さん、私は上手くやっているでしょうか?」
怪王さんがいなくなってから、私が皆をまとめる役です。
怪王さんはああ言いましたが、渾沌さんは基本的に放任主義なので、大きなことでない限り関与しない方針です。
だから、私が小さなことの処理に当たっています。
これが渾沌さんを助けるってことですよね?
「怪王さん…………」
私は再び、水面に呟きます。
「―――なんであるか?」
「へ?」
そんな声が後ろから聞こえて、私は振り返ります。
「………なんてな。よう、灯。こんなとこで何してんだ?」
そこには茶色い髪に鳶色の瞳をした背の高い男の人が立っていました。
「あ、怪お………じゃなかった、創さん」
「もしかして、出迎えに来てくれたのか?」
「はい。今日は休みだったので……」
「そうか、あんがとさん。これ、土産な」
「あ、持ちます」
「ん、サンキュー」
よく分からない言葉を言って、手に持った荷物の小さな方を渡してくれる創さん。
「今度はどこまで行ってたんですか?」
「うん?ちょい東。海を越えた所の島国にな」
「え!?海を越えてたんですか!?」
「まぁな。片輪車が飛ばすもんで体のあちこちが痛ぇよ」
「帰ったらお風呂ですか?」
肩を鳴らす創さんに私は訊ねます。
「そうだな、頼む」
「はい!」
そうして私たち二人は家路に着くのです。
そんな近況報告です。貴方がどこにいるかは分かりませんが、今、創さんは楽しそうです。
貴方がどんな思いで創さんを助けることにしたのかは知るよしもありません。
前の塵塚怪王さん―――というのが正しいのかは分かりませんけど―――貴方は今の創さんをどう思うのでしょうか?
これは貴方の望んだ創さんの未来に進んでいますか?
そうであったら嬉しいです。
「どうかしたのか、灯?なんか嬉しそうだな」
「え?顔に出てましたか?」
恥ずかしいです。
「いや、なんとなく雰囲気っつぅか……なんとなく思っただけだけどよ」
頬を掻く創さん。若干頬が赤く染まってます。
「あぅ………」
私まで赤くなってしまいます。
「それにしても驚きじゃの」
道行く二人を後ろから見守る影があった。
「まさか、あの怪火の嬢ちゃんが塵王の妖者の部分たげを殺すとはの」
キャッキャッと笑うのは一目連。
「ふん。元々あれは神殺しの力である。塵王の人の部分には効かぬのも当たり前であろう」
もう一人は白容裔だった。
「とはいえ、かなり驚いてようじゃったの、お主は」
「ふ、ふん………」
そっぽを向く白容裔。
「それにしても見事に人の部分だけが残ったの。妾もあれには驚いたのじゃがな」
「だが、おかしなものだ。塵王の人の心などとうに捨てられたはずだが………」
「そりゃ、あれじゃろ。自分で“捨てた”モノでも統べれたのではないかの?」
「そんなご都合主義な………」
「良いではないか。塵王も満更でもなさそうじゃぞ、ほれ」
と二人を見る一目連。
「ふん。全く緩みきりおって……」
「お主の頬もじゃがの」
「ふ、ふん」
「ほっほっほっ。まぁ、あやつにはあの方が良いのかもしれぬの。妖者としての力を殺され、再び人として歩む」
「アレが望んだのは妖者になることではなく、妖者として人と妖者との間を繋ぐことであったかもしれぬな」
二人は手を繋ぐ創と古戦場火を見る。創と古戦場火。二人の関係がこの世界の縮図となることを二人の神は祈ることにした。
というわけで一気に最終話まで投稿です。
ご意見、ご感想お待ちしています。
では、またお会いできることを願っています。




