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4話 塵芥の王は憤怒する









―――――――――――――――







于禁の知らせを聞いて、急いで様子を見に行く夏侯淵。


「何故、あのような少女が外に!?」


そしてその光景を見て、驚愕する。


今まさに戦場となっている村の外に一人ぽつんと立つ少女が居たのだ。


「ふむ………」


隣で同じ光景を見ている塵塚怪王はただ静かにそれを見ていた。


「いたく冷静だな、塵塚怪王。あの子はお主の身内ではないのか?」


「身内、というのは正確ではないな。眷属だ」


塵塚怪王は腕を組み、古戦場火の方を見ながらそう答える。


「それが主のことわりか、古戦場火よ」


そこには戦場には不釣り合いでありながらもまるで初めからそこに居たかのように自然にそこに立つ古戦場火。


その毛先の橙の部分がゆらゆらと揺れている。


「戦場において、死者を弔う怪火……」


それはまるで人魂のように、陰火いんかのように………。


「我が眷属の晴れ舞台、とくと見守ろうぞ」







だが、それも長くは続かなかった。


「………ぬッ!?間を解せぬとは……」


不粋である、と怪王が呟く。






「なんだ、この餓鬼いつからここに居やがった?」


賊の一人が古戦場火に気づくのだった。


それは霊感の強いものだったのだろうか……。普通では気づくはずのない古戦場火に気づいたのだった。


そして一人に認識されてしまえば全てに認識されてしまう。


――――ボッボッボ。


古戦場火の周りに火の玉が灯る。


「な、なんだ、こいつ!?気味悪ぃ!」


それを見て、賊の一人が言う。


「ふん。これは汝らを弔う為のものだというのにその反応とはな………」


―――ガシャガシャ。


「な、なんだ!次から次へと訳が分からねぇ奴が出てきやがって!?」


古戦場火の後ろに現れた塵塚怪王を見上げながら賊がおののく。


「古戦場火よ、このような奴らをおもんぱかる必要はないぞ」


「………」


フルフルと首を振る古戦場火。


「それが主の理か………」


塵塚怪王の問いにコクコクと頷く古戦場火。


「………そうであるか」


古戦場火の頭に手を置き、撫でる塵塚怪王。


「なんか分からねぇけど、コイツらを人質にすればいいじゃねぇか?」


賊たちは手に得物を持ち、塵塚怪王たちを囲む。


「ふん。我輩は見逃してやろうと言うのにかかってくるとは………命は要らぬようだな」


そんな賊たちに睨みを利かせる塵塚怪王。


「再度言うぞ、人間よ。見逃してやる、さっさと我輩の前から消えるが良い」


「テメェ、立場が分かってんのか!?」


「ふん。我輩の言葉の意味も解せぬとは下等な知能しか持たぬか」


「うっせぇ!テメェら、やっちまえ!!」


賊が塵塚怪王に襲い掛かるが、塵塚怪王は一歩も引かずに仁王立ちしたままだ。


ズブッと塵塚怪王の胴に剣が刺さる。


「へ、へへ。どうだ、思い知ったかよ」


「――何を思い知れば良いのだ?」


「なッ!?」


胴に剣を刺さりながらも平然としている塵塚怪王に賊が後退る。


「ふん。下らぬことを――――」


「キャッ!?」


「へへへ。これで形勢逆転だな」


と賊が古戦場火を捕まえてそう言う。


「こ、これでテメェも手出しは――――」


そこで塵塚怪王の雰囲気が変わる。


「おい、貴様ら。もし我が眷属に手を出してみろ………骨も残さず消し去るぞ」


まるで地の底から唸るような声が響く。


『―――ッ』


背筋が凍るような感覚が賊たちに走る。


「び、ビビることはね、ねぇよ、ハッタリに決まってらぁ!」


賊の一人がそう言うが言っている本人も震えていた。かなりの濃度の殺気が辺りに流れていた。


しかもそれは目の前の男からだけではなく、辺りからそれは流れてきていた。まるで世界の全てが敵に回ったかのような感覚だ。


その殺気に動けずにいれば、それで良かった。だが、それは悪い方向に働いてしまった。


殺気に震えて、賊の剣が古戦場火の頬に触れてしまったのだ。頬から赤い液体が流れる。


その時、周りの空気が変わる。


殺気なんて生易しものではない、それは凶気。


「―――我輩は忠告したぞ、人間」


腹の底から吐き気が吹き上がってくる。


今にも意識を手放してしまいたいのにそれすら許されないその凶気。








「なんだこの殺気は………」


塵塚怪王から離れている夏侯淵たちの所までその凶気は届いていた。


「あ、あそこなの!怪王さんから来てるの!」


「なんてやつだ………。こんなもの華琳様でも感じたことがない」


その凶気は覇王の覇気をも上回るのか………。










「な、何なんだよ、これは!?」


賊たちの周りに煙が立ち込める。


「火車、みずち………」


『はい、お呼びでしょうか?』


塵塚怪王の左右に左右対称の女性が現れる。


片方は紅蓮の朱、もう片方は氷雪の蒼。


「喰らえ」


『御意』


赤の女性は身の丈が大人二人を越える獅子へ、蒼の女性は同じく大人二人を越える大蛇へと変わる。


「ひ、ヒィ!?」


「………」


獅子と大蛇が賊たちを次々と喰らっていく。その様子をただ無言で見る塵塚怪王。


「………邪魔が入るのは好かぬ」


と塵塚怪王は手から小さな麻袋を取り出し、中身を地面に落とす。


中から出てきたのは、拳程の大きさのあるはまぐりだった。


「新たに目覚めよ、我が眷属よ」


塵塚怪王はその蛤に手を向ける。


「ひふみよいむなやこともち、ろらねしきる、ゆゐつわぬ、そをたはくめ、か、うおゑにさりへてのます、あせえほれけ…………」


カタカタと揺れだす蛤。


「…………ふるべゆらゆら、ゆらゆらとふるべ」


―――カタリッ。


「産声上げろ、新たな眷属よ。………顕現けんげんせよ、“蜃気楼”」


蛤から大量の煙が放射される。それは一瞬だけ人の形になり、また霧散する。


「煙々えんえんらは賊を逃がすな。蜃気楼は他者をこの場に入れるな」


塵塚怪王の言葉を聞き、二種類の煙が動く。


「さぁ、悔い改める時すら貴様らには与えはせぬぞ。死してなお償いきれぬ罪と共に逝くがいい…………」












北側に突如として現れた霧は賊と塵塚怪王たちを包み込んだ。夏侯淵や于禁たちが助けに行こうとしたが、霧のためか前がよく見えず、直ぐに外に出てしまい塵塚怪王たちとは合流出来ないでいた。


だが霧は現れた時同様、いつの間にか消え、そこには塵塚怪王と古戦場火の姿しか居らず、数十人は居た賊が忽然と消えていたのだった。


何があったのか、と塵塚怪王に問いただしても、知らぬ、の一点張り。真相はまさに霧の中だった。


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