表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/51

45話 開戦の狼煙は上がる








―――――――――――――――





魏から赤壁へと続く道。


万全の準備を整えた曹操は大軍を率いて、呉の建業へと進んでいた。


そして、その軍には塵塚怪王も同行していた。


「…………」


険しい顔で軍が進む先を見つめる塵塚怪王。


「どないしたん、怪王?」


そこへ李典がやって来る。


「いつになく険しい顔やで?」


「うむ。…………何故であろうか、どうも久々に言葉を発している気がするのだが?」


「なんやのいきなり。船に酔ったんか?」


「いや、我輩の気のせいであろう。少し懸念があるのでな、それで顔にも出ていたのやもしれぬ」


「いやいや、顔にって……。怪王の顔、落書きやん。変わらへんて……」


「ちょっと待て、真桜よ。汝が険しい顔と言ったのではないか?」


「えぇ!?言うてへんよ」


「いいや、言っておったぞ!」


「そない過去に囚われとったらアカンで、怪王」


「ついさっきなのである!?」


「小さいことは気にしたらあかんよ」


「うむ?小さきことで思い出したぞ。汝、我輩の顔を落書きと申したであろう!?」


「へ?言ってへんよ?」


「ふんぬぅぅ!」


「ちょ!?だから、顔近いねんって!」


久しぶりに二人の追いかけっこが始まった。









「はぁはぁはぁ」


「ふん……」


息を荒げる李典に鼻を鳴らす塵塚怪王。


「やっと、いつもの怪王やな……」


「うぬ?」


「なんや最近、張り詰めとったやろ、怪王?」


「真桜……」


「見くびったらあかんで?こっちとらこない小さな時から怪王と一緒におんねんから」


と二本の指で隙間を作りなが言う李典。


「沙和や凪かて気ぃついてんで?」


「そうであるか………」


「でも、安心したで。いつもの怪王や」


「………我輩もまだまだであるな」


「ん?なんか言うたか?」


「いや、なんでもないのである」


そう言った塵塚怪王の顔はなんだか清々しい顔だった。







「こんにちわでしゅ、異国の妖者」


「うむ。久しい……というほどではないな」


塵塚怪王の目の前に渾沌が現れる。


「どうやら、忠告は聞いてないみたいでしゅね」


「これが我輩の在り方であるからな」


「キャッキャッキャッ」


渾沌は笑う。


「消滅を選ぶとはやっぱり面白いでしゅね。でも、決死の覚悟でも全てを集めることは出来てないみたいでしゅね?」


そう。今、塵塚怪王の手元にいる竜の子は3つ。火車、蛟そして高女は戻ってきていなかった。


「ふん。まだ主との決着には時間はある。我輩は我が家族を信じておるよ」


「ふ~ん、なんだか吹っ切れたみたいでしゅね。………面白い」


ニヤリと笑う渾沌。


「それでこそ取り込み甲斐があるものでしゅ」


そして闇の中へと消えていく。


「…………」


塵塚怪王は一人仁王立ちのまま動かない。


「………ふっ」


微かに笑う塵塚怪王。しかしそれはいつもの豪気な笑いではなく、どこか自嘲をはらんだ笑いだった。


(我輩が………いや、俺が信じるか……)


塵塚怪王は目を瞑り、想う。


(全てを捨てた俺がまた新たに何かを得ようと足掻く、か………)


段ボールに開けられた穴から、鳶色の目が覗く。遥か高い蒼天を見上げる塵塚怪王。


(なぁ、お前から貰ったこの名と力、俺は上手く使えてるか?)


――――なぁ、塵塚怪王。














「―――あぁぁあああああああッ!!」


針金のように細い体は簡単にバラバラになった。


ぼろ布が散り散りに宙を舞う。


「全く迷惑な妖怪だ。ダイヤが乱れるじゃないか」


駅員のその一言をきっかけに創の意識が途切れる。


そして気づいた時には創は真っ赤な世界の真ん中で倒れていた。


「俺、は何、を…………」


「―――ふん。全てを捨てたのだ」


創の前に女性が立っていた。


絹糸で作られた古めかしい服に身を包んだ妙齢の女性だ。


「あん、たは……?」


「ふん。全く口の聞き方のなっておらぬな」


どこか不遜な態度で女性は鼻を鳴らす。


「何故、私がこのような者を………」


女性は創を見下す。


「あんた、は一体………?」


創は身を起こし、周りを確認する。


それは見覚えがあるようで、しかし初めてみるような光景が広がっていた。真っ赤な世界とは比喩だ。正確にはそこら中が赤く塗られた世界だった。。


「ここは、どこだ……?」


「ふん、覚えてないのか。都合のいい頭をしているな」


女性は創の言葉にさらに目を細めて、鋭い目付きになる。


「ここは―――お前の住んでいた世界だ」


「……は?何言ってんだ?こんな世界知らねぇ」


「全く……。ここはお前が―――――壊した世界である」


「―――ッ!?」


「忘れておるなら、思い出させてやろう。主があの後、何をしたのか……」


スッと手を創の目の前に出す。


そして目の前に見えたのは自分の手だった。


ソレは近くに居た駅員の頭へと伸びて、そして――――――地面に叩きつけた。グシャリとかゴキリとか音と感触が伝わる。しかし、手はそれだけでは止まらない。近くに居た人間を次々と近くの壁や床に叩きつけていく。


その度に周りが次第に赤く染まっていく。それでも手は止まらない。自分の意思とは関係なく……いや、自分の意思に忠実に動く。躊躇も手心も罪悪感も何一つ感じることはない。いや、例え感じたとしてもこの手は止まらないだろう。そんな客観的に感じていた“感覚”だけがあった。


その後のことはまるでコマ送りでも見ているように断片的なものだった。


逃げ惑う人々。それを手が掴まえて赤く染める。次の現れたのは警察だったか自衛隊だったか分からない。ただ、それを赤く染めるだけだった。





「俺が全て……?」


「理解したか?」


「そんなはず……。俺はただの学生だ。こんなこと……」


「だから、言ったのだ。主は全てを“捨てた”のだと」


「捨てた?」


「そうである。感情を、想いを、罪悪感を、道徳を――――ヒトであることを」


女性は端的に言う。そこに何の感情も無い。


「それで俺はどうなるんだ」


「うむ。意外と冷静だな。……いや、それも当然か。全てを捨てているのだから、な」


女性は創を見つめる。


「お前はどうしたい?この何も無い世界で……」


「何もしたくねぇよ……」


「このまま死を待つのであるか?」


「それも悪くないな」


「ふん。そんなものは無いぞ。主は全てを捨てたのだ。それは死すらも例外ではない」


「なんだよ、それ……」


創は口の端を上げる。乾いた笑みだった。


「まぁ、それでもいいかもな……」


パタリとその場に倒れる創。


そこへ女性が顔を覗き込み、影を落とす。


「なんだよ。まだ何かあんのか?てか、最初から言ってっけど、あんたは一体何者だ?」


「ふん。全く私としては不本意極まりないのだがな。これもアイツの願いだ」


とそこで創と女性との距離が無くなる。


「ッ!?」


拙い接吻。触れあうだけの一秒にも満たないキス。


「……んッ。何を飲ませやがった!?」


だが、ただのキスではない。女性の口から創の口内に何かが流れ込んできたのだった。


「全く」


離れてため息を吐く女性。その姿はいやに艶っぽかった。


「私の名は伊斯許理度賣命いしこりどめのみこと。主を殺す者だ」


「くっ!?」


その瞬間、創の意識は途切れる。


「これで良かったのだな?」


「うん、手間をかけさせるね」


女性―――伊斯許理度賣の隣に手足の細い男が現れる。


「後は創次第だね。彼が何を望むのか、それとも望まないのか……。まぁ、ボクらには見ていることしかできないんだけどね」


男は笑う。とても楽しげで、そして愛しげに。


「それで良いのか、お主は?」


「うん、いいよ。例え彼が望んだことでボクが消えるとしてもね」


「………そうであるか。一つ聞いてよいか、“     ”」


「うん、何だい?後、ボクは塵塚怪王だからね。そんな忘れ去られた名は要らないよ」


「………。何故、あの人間にそれほどまでに固執するのだ。私たちがそこまでする必要は――――」


「違うよ、それは。あの子に限ってはね、ボクの責任だからね」


伊斯許理度賣の言葉を遮って、男―――塵塚怪王は言う。


「本来なら彼も普通の生活があったかもしれない。ボクが関わらなければこんな未来を選択しなくて済んだのかもしれない」


「そんなことは………」


「ないとは言い切れないんだよね、これが」


と塵塚怪王は創を見る。創の体が次第に消えていく。


「さて、そろそろかな。後は頼んだよ、伊斯許理度賣」


「全く。人使いが荒いのであるな」


「ごめんね、後で何か奢るよ」


「ふん。そんな気もないのに口約束をするものではないな」


「あはは。…………じゃあ、頼んだよ。ボクの愛しい子どもを……」


「ふん。言われるまでもない」


とそこで世界は消える。創も伊斯許理度賣も塵塚怪王も全てが無に帰す。











「――――怪王、何をしているのッ!?」


「うぬ?華琳?」


塵塚怪王の意識は曹操の声で浮上する。


「そんなところで棒立ちしてると焼け死ぬわよ」


塵塚怪王が辺りを見渡すと周りは火に包まれていた。


「黄蓋が火を放ったのよ。今、凪たちや桂花が消火に当たっているわ。この船も長くはないわ。早く移動しなさい」


「負けたのか?」


「ッ!?…………まだ負けてないわよ」


拳を握る曹操。


「余計なお喋りなら後になさい。貴方、そんな燃えやすい格好なんだから早くしなさい」


「ふむ。だがな、華琳よ。我輩に人の火が移ることはないのだが」


「………貴方、足下を見なさいよ」


「うぬ?」


曹操の言われた通りに足下を見ると、プスプスと足が燃えていた。


「うむ。燃えているな」


「貴方ね、よく冷静でいられるわね」


「ふん、この程度の小火であれば………」


と塵塚怪王は懐から何かを取り出す。


「ヒッ!?」


取り出したものに曹操が息を飲む。それは手のひらからはみ出る程の竈馬かまどうまだった。


「貴方、またそんなものを持って………というか何で懐に仕舞っているのよ!?」


「うむ?可愛いではないか?ほれ」


「ちょっ!近づけないでって言ったでしょ!?」


「むむ。解せぬか……まぁ良い。火間虫入道よ、頼むのである」


巨大な竈馬はピョンッと塵塚怪王の手のひらから飛び降りると足下に広がる火を吸い込み始めた。


「………まさかそれも妖者なの?」


「うむ」


塵塚怪王が頷くと曹操は頭を押さえる。


「華琳よ、我輩は言ったはずである」


「えぇ、確かに妖者は数多くいるとは聞いてるけど………」


「いや、そうではない。華琳は我輩が守ると………」


「ッ!?………ば、馬鹿ッ!こんな時に何を言い出すのよ!?」


「うぬ?場面としては間違いはないはずだが?」


「あぁ、もう!ほら、さっさと行くわよ」


「待つのである、華琳よ。何故、そうも不機嫌なのであるか?」


「誰が不機嫌よ、誰がッ!?」


曹操がズカズカと進むのを後を追う塵塚怪王だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ