43話 貪る口、鳴らすは拍子木
―――――――――――――――
魏の城内にて各重臣たちが集まり、今後の方針について話し合っていた。
「既に大陸には我ら魏、そして孫策の呉、劉備の蜀。この三つの国に分かれました」
進行役の郭嘉が現状を報告する。
「そう。私の覇道ももうすぐ成就するのね。皆、一層の精進を頼むわよ……」
と曹操たちが話し合っている中、塵塚怪王はというと………。
「ふぁ~あ、眠いの。用があるなら、さっさとしてほしいの。自分は寝るのに忙しいの」
「いつも寝てるじゃないか。寝太れ、この馬鹿女」
「あ、ひぃちゃん酷いんだぁ。お姉ちゃん、悲しいの」
「騒がしい……」
「それでご用件は何でしょうか?」
高女、鬼一口、蛟に火車。竜の子どもたちが集まっていた。ちなみに蜃気楼は欠席だ。
「うむ。主らには残りの者を探してきてほしいのだ」
塵塚怪王はそう四人に告げた。
「残りの者って………」
「蒲牢、ヘイカン、蚣蝮のことかい?」
それは残りの竜の子どものことだ。
「うむ。おそらく近いうちに華琳たちは大きな戦をするであろう。それに渾沌が絡んでくるであろう。そのために我輩の元に集めておきたいのだ」
「分かりました。怪王様の命でしたら、必ずや………」
火車が意気込む。
「了解しました」
蛟も了承した。だが…………。
『………』
高女と鬼一口は無言だった。
「どうしたのだ、貴様ら?まさか、嫌だと言うのか?」
火車が二人を見る。
「うん?別にいいゾ………」
「まぁ、自分も別にいいの」
と何故か素直に頷く二人。いつもならふざけて軽口の一つは叩くはずなのだが………。
「うむ。では、火車と蛟にはヘイカンを、高女には蚣蝮を、鬼一口には蒲牢を、それぞれ探してきてほしい」
『はっ』
とすぐに消えた火車と蛟とは違い、その場に残る高女と鬼一口。
「どうかしたのか、主ら?」
「それはこっちの言葉だゾ?キミらしくもない」
「我輩のどこがらしくないと?」
「どこって、その焦り具合なの」
「いつもはもっとドンと構えているゾ。それにキミ自身が赴かないのはどうしてだい?ボクの時も、高女の時もキミ自身が来たはずだゾ」
「…………」
無言の塵塚怪王。
「まぁ、別にいいけどね。それじゃ、ボクも行ってくるゾ」
「すまぬな」
「構わないの。自分は自分の安眠のために働くの」
と二人も消える。
(全くらしくないゾ、塵塚怪王……)
鬼一口は中庭を歩きながら思う。
(キミがそんなんでどうするんだい……)
「―――い」
(ボクを負かした者がああも弱々しくあってもらっては困るんだゾ)
「―――おい、鬼一口!!」
「………へ?」
物思い更けていた鬼一口は目の前にいた送り拍子木に気づかず、目の前に振りかざされた拍子木でやっと気づく。
「やぁ、送り拍子木。どうかし―――痛ッ!?」
「無視してんじゃねぇよ」
鬼一口が気づいても振りかざされた拍子木は止められることはなかった。
「イタタタ。相変わらず容赦ないね、送り拍子木は」
「ふん………」
笑いながら頭を擦る鬼一口。
「テメェが呆けてやがるからだ」
悪態を吐く送り拍子木。
「………何があったんだよ」
悪態を吐きながらも、鬼一口を心配している送り拍子木だった。
「……あはは」
それに対して鬼一口は乾いた笑いしか出てこなかった。
(これじゃあ、どっちが“らしくない”だよ、全く………)
「まぁ、なんだね………。ボクはちょっと出掛けてくるよ。数日は戻らないから、よろしく」
と鬼一口はそれだけ言うとその場を後にした。
「―――それで、なんでついてきてるんだい、送り拍子木?」
「べ、別にいいだろがそんなこと!」
鬼一口と送り拍子木は洞窟の前に立っていた。
「―――高女に何か言われた?」
「ッ!?」
「はぁ~……」
露骨な反応に鬼一口はため息を吐く。
「全く、いつもは堕落三昧のくせに、妙なところで動く………お節介なやつだゾ」
だから嫌いだ、と鬼一口は言う。
「帰りなよ、送り拍子木」
いつもの調子ではなく、真剣な口調で言う鬼一口。
「あまり首を突っ込むことじゃないゾ」
「………嫌だ」
そんな鬼一口に送り拍子木は首を横に振る。
「………はぁ。あまり会わせたくないんだけどな、蒲牢には。アレは高女以上に厄介なんだよ」
とは言うものの送り拍子木の意思は固く、揺るがないと分かると再び深いため息を吐く鬼一口。
「どうなってもしらないゾ」
と鬼一口は洞窟へ入っていく。それを後ろからついていく送り拍子木。
暗く、しっとりと湿った空気の中、二人は歩く。歩く音か反響して響き渡る。
「そういえばさ、送り拍子木……」
「な、なんだよ?」
今まで無言だった鬼一口が送り拍子木に話しかける。
「送り拍子木はさ、送り犬の性質も持ってるのかい?」
「は?いきなり何を言ってんだ?」
「怪王から聞いた話だと、送り犬ってのは道行く人の後ろを歩いて、その人がつまずくと襲うそうだゾ?」
クルリっと後ろを振り返り、送り拍子木の顔を見る。
「もしボクがつまずいたら送り拍子木はボクを襲うのかい?」
「なッ!?な、ななな、何を言ってんだよ、お前は!?そんな破廉恥なことするか!?」
顔を真っ赤にして言う送り拍子木。
「破廉恥?いや、意味が…………。あぁ、そっちかい?」
どうやら鬼一口と送り拍子木の『襲う』は別の意味らしかった。
「あはははっ。まぁ、確かにそれも良いかもね。ボクは受けではないけど、送り拍子木とならそれもアリかな」
「ッ!?――///////」
更に顔を真っ赤にする送り拍子木。心なしか煙まで出ている気がする。
と雰囲気が和み始めた頃――――。
「だ~れだッ!」
突然、鬼一口の目元を隠すように手が伸びてくる。
「ッ!?」
送り拍子木は警戒するように拍子木を取り出す。一方、鬼一口は…………。
「はぁ~」
ため息を吐いていた。
「久しぶりだね、蒲牢」
「いやぁん、ちゃんと蒲牢お姉ちゃんって言ってよぉ~、饕餮ちゃん」
鬼一口の後ろから現れたのは青い服に、鯨の絵が刺繍された女性だった。
「全く変わらないな、その性格は……」
「うふふ。饕餮ちゃんに褒められちゃった」
頬に両手を添えて、恥ずかしがる蒲牢。
「褒めてないゾ……」
「もう!そんなに恥ずかしからなくてもいいのに~。饕餮ちゃんの照れ屋さん」
と鬼一口の頬をつつく。
「可愛すぎて食べちゃいたいくらいよ」
「饕餮たるボクを食べるなんて笑えないね」
「いやぁん、ただの例えよ。お姉ちゃんがそんなことするわけないじゃない。それよりも“イイコト”しましょ?」
と体を密着させる蒲牢。
「は、はは、破廉恥だ!!」
そこへ割ってはいる送り拍子木。
「お前!?姉弟でそ、そそ、そんな破廉恥な!?」
「何故、ボクが批難されるんだい?」
鬼一口を指さし言う送り拍子木。
「うっさい!兎に角、お前がわる――――」
「―――誰、その女?」
送り拍子木の言葉を遮り、蒲牢が言う。
「ねぇ、饕餮ちゃん?誰、その女?」
「アンタには関係ないだろ……」
送り拍子木はキッと蒲牢を睨む。
「五月蝿いわね!お前には聞いてないのよ!私は饕餮ちゃんと話してるのよ!邪魔をするな!!」
いきなり激昂したかと思うと送り拍子木に掴みかかろうとする蒲牢。
「ッ!?」
送り拍子木は驚き、身構える。だが………。
―――ガシッ。
『え?』
「その娘には手を出さないでもらえるかな、蒲牢?」
蒲牢の腕は送り拍子木に届く前に鬼一口が掴み、止める。
「と、饕餮ちゃん?」
「その娘はボクの大切な人だゾ」
「え?あ、え?」
鬼一口の言葉を聞くとよろよろと後退る。そしてぺたりと座りこむ。
「大丈夫かい、送り拍子木?」
「あ、あぁ………」
鬼一口は送り拍子木を見るとこくんと頷く。
「――――嘘よッ!!」
座りこんだまま蒲牢が叫ぶ。
「嘘よ嘘よ。私の饕餮ちゃんがそんな………。いいえ、これは夢よ。だって饕餮ちゃんはいつもお姉ちゃんが守って………え?何、これ?違うわ、違うのよ。これは嘘なのよ、そうよね、饕餮ちゃん。だって饕餮ちゃんをこんなにも愛しているのよ、お姉ちゃんは。それなのに他の女なんて……。そうよ、饕餮ちゃんは悪くないわ。悪いのは饕餮ちゃんをたぶらかすその女!そうよそうよ。私と饕餮ちゃんとの間に割って入った泥棒猫。そんな女に饕餮ちゃんは渡さない。饕餮ちゃんは私のもの。私だけの饕餮ちゃん。可愛い可愛い饕餮ちゃん。私だけを見てくれる。私だけに話しかけてくれる。私だけを愛してくれる。私だけを見つめて?私だけに話しかけて?私だけを愛して?私も饕餮ちゃんだけを見るよ?饕餮ちゃんだけに話しかけるよ?饕餮ちゃんだけを愛してるよ?―――私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを私だけを―――――――――――――許さない。赦さない。私の饕餮ちゃんに手を出す全ての女を私は―――ユルサナイ」
ユラリっと立ち上がる蒲牢。
そして、光の無い眼で送り拍子木を睨む。
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない――――」
ブツブツと呟く蒲牢。
「ちょッ、なんだよコイツ……」
と送り拍子木はあまりの異様さに鬼一口の袖を掴む。しかし、それが蒲牢の逆鱗に触れる。
「―――私の饕餮ちゃんに気安く触れるなぁぁぁぁぁ!!!!!」
送り拍子木に飛びつく蒲牢。
「チッ。逃げるゾ、送り拍子木」
鬼一口は送り拍子木の手を引き、洞窟の奥へと走る。
「絶対に――――ニガサナイ」




