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42話 塵王と怪火。そして……






―――――――――――――――





「……私が?」


「そうでしゅ、怪火ちゃん。キミはこの大陸で生まれた者じゃない」


渾沌ははっきりと言い放つ。


「え?でも、私は……怪王さんにこの地で拾われて……」


「それを訊きたいのはこっちでしゅね。なんでキミみたいな――――――強大な者が異国の妖者に従っているのか………」


「――――え?」


渾沌の言葉に目を見開く古戦場火。


「わ、私に力なんて………」


「自覚は無し、でしゅか……。それともキミが奪ったのかな、異国の妖者」


「…………」


「怪王さん……?」


渾沌の問に無言の塵塚怪王。


「まぁいいでしゅ。言葉にしなくてもキミの“弱り具合”を見れば、一目瞭然でしゅから」


渾沌は塵塚怪王を見て笑う。


「何を言っているんですか?」


「キミはおかしく思わないのでしゅか?捨てられたモノを操る異国の妖者が何故、滅多に自分の力を使わないのか?」


「……それは怪王さんが争いを嫌って……」


「それだけで?なら、何故、その器を小さくしたり、人間ひとの形をとったするのでしゅ?」


「そ、それは……」


答えを求めようと塵塚怪王を見る古戦場火だったが、依然として無言のままの塵塚怪王。


「異国の妖者は自分の力を他の妖者の存在を確定させるのに使っているのでしゅよ。だから饕餮とうてつ睚眦がいしといった本来は人間を襲う妖者が大人しくしているのでしゅよ」


全く物好きでしゅね、と渾沌は呆れたように溜め息を吐く。


「まぁ、キミのような強大な力を持つ者なら何千、何万との妖者の存在を肩代わりした所で問題はないんだろうけど……」


と渾沌は古戦場火を見る。


「もし、この渾沌と近しい、または同じくらい力を持つ妖者の存在を肩代わりしているなら、その弱り具合は納得いくものでしゅね」


「私が、怪王さんを…………」


渾沌の言葉にショックを受ける古戦場火。


「もし、これ以上他の妖者を抱え込むなら、キミの存在が崩壊するよ?」


渾沌は塵塚怪王に向けて言う。


「我輩の心配をしておるのか?」


今まで無言を貫いていた塵塚怪王はここで発言する。


「キャッキャッキャッ」


渾沌は笑う。


「キミは取り込んだ方が利用価値が高いのでしゅよ。その前に消滅されたら惜しい、ただそれだけでしゅよ」


と渾沌はニヤリっと笑う。


「じゃあ、そろそろ帰るでしゅ。今度はキミの敵として現れるから、よろしく」


深みのある笑みを浮かべたまま消える。









「………怪王さん」


渾沌が消えてから、数十分、古戦場火は初めて喋る。


「……私は怪王さんの………お、重荷になって……いるんですか?」


震えた声で塵塚怪王に訊く古戦場火。その目元は溢れそうなほどに涙が溜まっていた。


「……わ、私は……うぅ、ひぐっ……」


堪えきれずに涙が溢れだす。


「私のせいで……怪王さんが、ひぐっ、き、消え………消えちゃうの?」


嗚咽まじりで途切れ途切れな言葉の古戦場火。


「―――古戦場火よ、少し寄り道をしていかぬか?」


そんな古戦場火の手を取り、歩いていく塵塚怪王。







塵塚怪王が連れてきたのは、森の中にある小河だった。


「ここは………」


まだ若干目が赤い古戦場火は目の前に風景に見覚えがあった。


そこは昔、塵塚怪王を探していて一向に見つからずに、迷いこんでしまった小河だった。


「こっちへ来て、座るがよい」


いつの間にか川岸まで移動して、座りこむ塵塚怪王が古戦場火を手招きする。


「………ん」


古戦場火が隣に座ると塵塚怪王は古戦場火の頭を撫でる。


「古戦場火よ………」


月明かりに照らされた塵塚怪王。どこか儚く、おぼろ気な雰囲気が漂う。


「前に話したことを憶えておるか?」


「前に……。皆が一緒に暮らせる世界……」


「そうである。我輩はそのために皆の存在を肩代わり、否……存在を証明してきたのである」


小河に映る月を見る塵塚怪王。


「……怪王さん。でも、それじゃ……」


「我輩にはそうするしか出来ぬのであるよ、古戦場火」


いつもとは違う塵塚怪王に古戦場火は言い表せられない感情が胸に募る。


「我輩の力では何も為せぬのだ………」


「怪王さんッ!?」


「――古戦場火?」


不安に駆られ大声を出してしまう古戦場。


「………。怪王さんは前に言いましたよね。私たちに協力してほしいって……」


手を握りしめ、塵塚怪王へ詰め寄る。


「私は力が弱いかもしれないけど……。それでも私は……怪王さんを助けたいです」


真っ直ぐに塵塚怪王を見る古戦場火。


「………そうであるな。我輩には頼れる家族が居るのである」


「あ、家族……やっぱり、家族なんだ……」


「何か言ったか、古戦場火よ?」


「な、何でもないです!」


「そうであるか?うむ、では戻るとしようか」


「……はい」


「うぬ?やはり元気がないのではないか?」


「………うぅ、怪王さんの鈍感」


「うん?」


顔を覗き込む塵塚怪王に口を尖らせる古戦場火。そして意を決して、塵塚怪王を見る。


「………怪王さん」


「なんであるか?」


いきなり古戦場火の顔が近づいたと思うと、柔らかな感触が口に触れた。


――――チュッ。


「………へ?」


あまりの出来事に変な声が出てしまった。


「お、お休みなさいッ!!」


古戦場火は走っていってしまい、一人取り残される塵塚怪王。


「なんなのであるか?…………うん?」


塵塚怪王はそう呟き、自分の顔に触れると何故か熱くなっていた。











―――それは過去とも未来ともいえない時代。


そこでは科学の発展により、人々の生活は飛躍的に便利になっていた。


空には飛行機が飛び、海には船が浮かび、地には自動車や電車が走っていた。


だが、そんな世界に一つの綻びが現れた。


それは妖怪と呼ばれる者たちの出現だった。


当然、人はそれに困惑した。自分たちとは似ても似つかない異形のモノ。それは畏怖の対象でしかなかった。


そしていつしか、それは争いの火種となっていた。人間と妖怪の大戦争だ。


それは長きに渡り続いた。人間も妖怪も共に傷つけあった。両者が疲弊し始めた頃、妖怪側から終戦の申し出があったのだ。


話を聞くに、妖怪の側も自分たちが住んでいた場所に突然、人間とその技術によって作られた物が現れたのだと言う。


両者の学者たちはとある仮説を立てた。


自分たちの住むこの世界は一枚の透明なフィルムのようなものではないか。


そして隣接する別の世界との間には何らかの壁があり、それが各世界の干渉を防いでいたのではないか。


今回、その壁が何らかの理由でなくなり、互いの世界が見えてしまったのではないかと。


そこで両者は共存共栄の条約を結んだのだった。


それにより、人間と妖怪の大戦争は終結を迎えた。


ただ、それは表面上のものであった。


人間の中には妖怪に対する争いの火種は燻っていたのだった。


そんな緊張状態で数十年の時が流れ、人間の世界にも妖怪が馴染んできた時代。


駅のホームに一人の学生が電車を待っていた。


「はぁ……」


「また、ため息を吐いて。幸せが逃げてしまうよ?」


学生の隣には手足が細く、背が高い。着ている服は少しボロい男が立っていた。


「うるさいなぁ、別にいいだろう」


「はははっ」


陽気に笑う男。


「良くはないよ。ボクは君の友だちだからね、友だちの心配をするのは当然だろ?」


「はいはい、恥ずかしいからその笑顔止めろよ、塵塚怪王」


「なんだい、照れてるのかい?可愛いねぇ、はじめは」


「か、可愛いぃ!?止めろ、俺は男だぞ!?」


「知ってるよ。でもね、ボクからすれば君はまだ子どもだし……」


「そりゃ、人の何十倍も生きる、お前ら妖怪からすれば、俺はガキだろうけどよ」


「ううん?その言葉はいただけないよ、創。ボクたちは妖者さ。妖怪なんて、妖しいに怪しいだろ?どんだけ“あやしい”のさ」


「いや、十分あやしいよ………」


とお互いに軽口を言い合っているのはそれだけ信頼関係があることが伺える。


だが、そんな仲が引き裂かれることとなる。


「おや?そろそろ電車が来る時間じゃないかい、創」


「あぁ、そうだな」


と学生は隣に置いた鞄を取るために視線を塵塚怪王から外す。


「さて、面倒だか行くとするか。おい、塵塚か――――」


塵塚怪王を呼ぼうとしたその時、学生の目に映ったのは――――――塵塚怪王が駅のホームから線路に落ちる姿だった。


「お、おい!?なにしてんだよ!?」


「イタタタっ。………足を滑らしちゃったよ」


「いいから先ずは上がれよ」


と塵塚怪王に手を差し出す学生。


「全く、そんな急がなくても…………?」


だが、塵塚怪王は動こうとしなかった。


「何してんだよ!?こんなときにふざけてんのかよ!?」


「あぁ~、いや、どうも足が引っ掛かったみたいだよ」


と塵塚怪王は笑う。


「おいッ!?今、助けに―――」


「こら、君!何をしているんだ!?」


学生が線路に降りようとすると駅員に止められる。


「うるせぇ!離せ、この野郎!?俺はアイツを助けに!」


「なんだ、妖怪じゃないか……。全く迷惑な奴だ」


駅員は線路に落ちた塵塚怪王を見るとまるで汚物を見るように吐き捨てる。


数十年経った今でも妖怪を卑下する者は居なくなってはいない。


「なッ!?テメェ、それはどういう――」


学生は駅員に食いかかろうとした、その時電車が近づく音が聞こえた。学生は塵塚怪王を見ると………。


「これは無理だね」


いつもの調子でそう言うと笑うのだった。


「バイバイ、ボクの友だち」


そう言って塵塚怪王はバラバラに吹き飛んだ。


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