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41話 闇、動く









―――――――――――――――






「怪王、居るかしら?ちょっと頼みたいことが…………」


曹操が塵塚怪王の部屋を訪ねる。と、そこには――――。


「だぁ」


「うぬ?華琳であるか。何か用であるか?」


塵塚怪王と………赤ん坊がいた。


「…………」


―――ぎー、ばたん。


思わず扉を閉めてしまう曹操。


「―――って、誰よ、その子ッ!?」


曹操のノリツッコミが炸裂する。


「まさか、貴方の子なの……?」


「いや、違うのである」


「じゃあ、なんでこんなところに赤ん坊が居るのよ!?まさか、拐ってきたんじゃないでしょうね?」


「それも違うのである。いつの間にか部屋に居たのである」


「はぁ?そんなわけないじゃない」


怪訝そうに塵塚怪王を見る曹操。


「華琳よ、見た目は幼児であるが、この者も立派な妖者であるのだよ。おそらくは、ぬらりひょんであるな」


と塵塚怪王が説明をしようとしたその時、二人目の訪問者がやってくる。


「華琳様、至急確認したいことがありまして…………」


それは荀イクだった。書簡を持ちながら部屋へと入ってくると曹操に目がいき、そして塵塚怪王の抱える赤ん坊に目がいく。


――――バサバサ。


「ま、まさか、その子は華琳様との………。い、いやぁぁぁぁ!!華琳様が怪王に汚されたぁぁぁぁ!!」


「ちょ、桂花!?人聞きの悪いことを口走りながら走らないで!?」


叫びながら走っていった荀イクを止めにいく曹操。


「なにやら騒々しいであるな」


「だぁ……」


そんな二人を見守る塵塚怪王と赤ん坊のぬらりひょん。







「――――それできちんと説明してくれるかしら?」


荀イクの行動により城中は一時大混乱であったが、曹操が収めるために各重臣たちを玉座に集め、塵塚怪王に説明を求めた。


「うむ。だが、説明といっても大したことはないであるぞ。ただ朝、この赤子が我輩の部屋にいた、それだけである」


「それは捨て子って意味ですか?」


塵塚怪王の説明に典韋が手を挙げて発言する。


「否。この者はそういう妖者なのだ。ぬらりひょん、他者の家にぬらりと現れ、飯を食らい、ぬらりと帰る」


塵塚怪王は全員に説明する。


「故に我輩の下で少しばかり預かっておくことにしたのだ」


「だぁ!」


塵塚怪王の言葉にぬらりひょんも手を挙げて、同意を示す。


「まぁ、そういうことよ」


と曹操が区切り、緊急の召集は解散した。







「だぁ~!」


塵塚怪王の肩に乗るぬらりひょん。


そうしている姿は子供をあやす父親のように見える。


「なんやそうしてるとホントに親子みたいやな」


「うむ?霞か………。調練であるか?」


「そうやで。なんや怪王は散歩かいな?」


「うむ」


「だぁだぁ」


「なんや?興味あるんか?」


ぬらりひょんが張遼の槍に興味を示す。


「だぁ!」


「ほな、ちょいと見てくか?」


「良いのか?」


「構へんよ。ただ、少し危ないかもしれへんけど……」


「それは我輩がいれば問題あるまい」


と三人は調練場へ向かう。








「だぁ!だぁ!」


大はしゃぎのぬらりひょん。


「なんや、おかしな坊やな。まぁ、怪王の知り合いやしそないなもんか……」


そんな赤ん坊の姿を見ながら、張遼が呟く。普通、赤ん坊はこんな喜びはしないのだ。


「ほな、ウチもそろそろやるかな………」


と自分の得物を取る張遼。


「………?」


だが、その得物に違和感を覚えて、それを凝視する。


「って、これ模擬刀やないやないか。危な、もし気づかず使っとたらえらいことになっとったで………」


いつの間にか調練用の刃が抜かれた模擬刀が本物と入れ替わっていたようだ。







―――――ちっ。








「あれ?怪王さん、お食事ですか?珍しいですね」


次に塵塚怪王が訪れたのは厨房だった。そこには典韋と許緒がいた。


「うむ。なにやらぬらりひょんがこちらに来たがってな………」


と背中のぬらりひょんを見る塵塚怪王。


「そうなんですか?お腹が減ったのかな?」


典韋はぬらりひょんを見る。


「流琉~、ボクもお腹減ったよ~」


「もう季衣たら……。怪王さんも座ってて下さい。一緒に作っちゃいますから」


「うむ。すまないな」


「いえ、どうせ多めに作る予定でしたから………さぁ、まずは下拵えから―――」


と典韋が食材に手を伸ばそうとしたその時………。


「コケェ!!」


「ひゃッ!?」


食材の鶏が鳴いた。


「………え?」


そしてバサバサと逃げていった。


「って、季衣!鶏、捕まえて!」


「なんで生きてるのを使ったのさ!?」


「いや、ちゃんと処理済みのを買ってきたはずなんだけど………」


バタバタと厨房を走り回る二人。








―――――キャッキャッキャ。







その後、ぬらりひょんを連れた塵塚怪王は様々な所を回っていた。


ある時は、張三姉妹の興業を見たり……。


「ちょッ!?誰よ、舞台設備の接続が甘いじゃない。倒れてきたらどうするの………って、キャアァァ!!」


「ちぃちゃん、大丈夫!?」


「うん、なんとか……」


「釘が甘かったのかしら?」







ある時は警羅隊の見学をして……。


「ちょッ!?なんで縄が絡まっとんねん!?」


「取れないの~」


「こ、こら、沙和!動くな、縄が変なところに――ひゃんっ」


何故か、捕り物用の縄が三羽烏に絡みついていた。







また、文官たちの執務室を覗いたり……。


「ちょっと、誰よ猫なんて入れたのは!?大切な書簡が台無しじゃない!」


「か、華琳様への報告書が!?」


どこからか入った猫が書簡の上に足跡を残していた。


なんとも騒がしい日々だった。








―――――キャッキャッキャ。








「うむ。なにやら皆、忙しいみたいだな」


「だぁ!だぁ!」


「うぬ?今はどこも忙しく我輩らの相手はしてもらえぬよ」


「だぁ………」


と中庭に佇む塵塚怪王。


「………あ。怪王さん」


そこへ古戦場火と鵺がやって来た。


「怪王さん、こんなところで何を――――ッ!?」


二人は塵塚怪王の肩に掴まるぬらりひょんを見る。


「灯火ちゃん……」


「鶫ちゃん……」


なにやら顔を見合わせる二人。そして、トテテっと塵塚怪王に近づく。


「………だめ」


「そこはだめ………」


塵塚怪王の周りでぴょんぴょんと跳ねて、ぬらりひょんを下ろそうとするが高さが足りず、和やかな雰囲気だった。


「どうかしたのであるか、主らよ?」


塵塚怪王も二人の意図が分からず、困惑する。


「……そこはだめなの。そこは……」


塵塚怪王の足をギュッと掴む古戦場火。


「うぬ?……………うむ」


「……わっ!?」


「か、怪王さん!?」


塵塚怪王はぬらりひょんを頭に移動させ、古戦場火と鵺を両肩に乗せる。


「よく分からぬが、これで機嫌は直るか?」


「うわぁ………」


「高いです………」


「うむ。どうやら良かったようであるな……」


そのまま塵塚怪王は城内を散策したのだった。








「今日はありがとうございました」


日も暮れて、辺りを闇が支配し始める頃、鵺は塵塚怪王の肩から降りて、お辞儀をした。


「またね、灯火ちゃん」


「……うん、また」


二人は手を振り合い、鵺は闇の中へと帰っていった。


「うむ、では我輩たちも戻るとするか……」


と塵塚怪王が部屋に向かおうとすると、ぬらりひょんが頭から頭から降りる。そして、ドロンっと煙がぬらりひょんを包み込むと、そこには古戦場火に良く似た少女がいた。ただ、違うのはその髪の色が闇より深い漆黒なところだ。


「主も帰るのか?」


「そうでしゅよ。大いに楽しませてもらったでしゅ、“異国の妖者ひと”」


少女はニヤリッと笑う。それは子供とは思えないほど、深く悪意に満ちた笑みだった。


「ふむ、そうであるのならば我輩も案内した甲斐があったというものであるな」


それに対して塵塚怪王はあっさりと流す。


「また、いつでも来るがよい、ぬらりひょん、いや――――渾沌よ」


「やっぱり、分かっててやってたんでしゅね」


ぬらりひょん――――渾沌は更に笑みを深くする。


「まぁいいでしゅね。目的は果たせましたから……」


「目的?」


「そうでしゅ。一つはキミに会いに来たんでしゅ。やっぱり硝子越しでなく、自分の目で見るのが一番でしゅからね」


そしてもう一つ、と渾沌は塵塚怪王から古戦場火へと視線を移す。


「そこの怪火ちゃんにも会えましたしね……」


「ッ!?」


渾沌の視線に古戦場火は塵塚怪王の影に隠れる。


「渾沌はその名が示す通り、混沌を司る者でしゅ。この大陸で生まれた“異成る者たち”は全て把握してましゅ。でも、最近この大陸に把握していない“四つ”の影が現れたのでしゅ」


渾沌は塵塚怪王をその闇より暗い目で見る。


「それはキミでしゅよ、異国の妖者。それにキミの後ろにつく二柱の別国津神ことくにつかみ、そして――――」


キミだ、と渾沌は古戦場火を見る。


「――――え?」


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