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3話 妖者の理








―――――――――――――――







「―――賊か………」


塵塚怪王は慌ただしい村の様子を見ながら呟く。


「………賊?」


「うむ。他者から物を奪うものをそう呼ぶのだ」


塵塚怪王の隣を歩く古戦場火にそう説明する。


「だが我々には関係ないことだ」


「……いい、の?」


「人には人の理、我輩たち妖者には妖者の理があるのだ。それは不可侵な領域だ。助け合いは利害が一致するが、争うごとに首を突っ込むのは是に非ず」


塵塚怪王は古戦場火の手を引き、妖屋敷へ向かって歩いていく。









「随分と騒がしいみたいね、外は」


「そりゃ、賊が来てんだ当たり前だろ」


手負い蛇と鼬が家の中で話している。


「ここまで来ることはないのじゃろうな?」


二人の会話に小さな徳利が加わる。


「それはないだろうぜ、瀬戸大将。義勇軍が居るんだ、そう簡単には入ってこれねぇよ」


鼬が小さな徳利―――瀬戸大将に答える。


妖屋敷には人の形をしたものからそれ以外のものまで様々な人成らざるもの―――妖者が存在する。


流石に人の形を取れぬものは外には出はしないが………。


「人のような柔なものに守りを任せるのは些か不安じゃ」


「いや、アンタは床に落ちたら木っ端微塵じゃないのさ」


威勢よく菜箸を振るう瀬戸大将に手負い蛇が呆れたように言う。


「何を言うか、手負い蛇よ。我らにかかれば人など一捻りじゃぞ」


それに憤慨した瀬戸大将がカチカチと体を鳴らして怒りを示すが、大格差が四倍もある手負い蛇には玩具のような感覚であった。


「数の力は驚異であるぞ」


「あ、お帰りなさい、怪王」


塵塚怪王が帰ってくると、次々にお帰りと口にする妖者たち。


「うむ。今帰ったのである」


塵塚怪王に続いて古戦場火も家の中へと入る。


「瀬戸大将は小さき者であるが、その力は限りなきものである。手負い蛇、お主も再生を司る蛇の眷属であろう?」


塵塚怪王は椅子に座りながら言う。


「つまりは――――」


と不意に塵塚怪王は机の上に乗っていた瀬戸大将を指で突っつく。


「の、の?何をするのじゃ、塵つ―――」


と瀬戸大将が文句を言おうとするが…………。


――――ガシャン。


机の端から落ちて粉々になる瀬戸大将。


「………ッ!?」


その姿に息を飲む、古戦場火。だが、古戦場火が思うこととは別のことが起きる。


「なにをするのじゃ!?」


粉々になった瀬戸大将が変わらずに声を出すのだった。


「我輩たちに死は在らず」


そっと粉々の瀬戸大将に手を翳す。


「塵は積り、集まる。あくたつどい、積み重なる」


手を退けると元の形の瀬戸大将が居た。


「我輩たちに在るのは、名を失い、形を成さなくなる。それは消滅だけだ」


そして塵塚怪王は扉の方を見る。


「客人だ。皆準備をするがよい」


そう言って扉の方へ歩いていく。








「怪王さ………って、うわっ!?」


楽進が妖屋敷の扉を開けるとそこには壁が………いや、塵塚怪王が立っていた。


「うぬ?凪であるか……。我が屋敷に何用であるか?」


扉を潜り、外へ出る塵塚怪王。


「あ、そうでした。力を貸してください、怪王さん!」


「断る……」


「………え?」


「汝ら、賊の侵攻を止めるために我輩を利用としておるのだろう?」


「違ッ!?利用ではなく協力を………」


「―――同じであろうよ」


―――ガシャガシャ。


体から音を鳴らしながら近寄る。近づくとその体格差はハッキリと分かる。見上げるように高く、直下そそり立つ壁の如く。


「うっ。…………かもしれません。でもッ!村を守るにはそれしか………皆疲弊してもしまた賊たちがこれば村は………」


手を握り締める楽進。楽進自身も塵塚怪王にこのようなことを頼むのは良しとはしていない。しかしそうしなければ村が襲われてしまう。


「だが我輩が人の争いに首を突っ込むわけにはいかぬのだ」


「……そ、そうですか。すみません、ご無理を言って………」


肩を落とす楽進。


――――クイクイ。


そこで塵塚怪王の後ろから腕を引かれる。


「………怪王、さん」


そこには古戦場火がいた。


「………分かっているのか?」


「………」


黙って頷く古戦場火。


「待つが良い、凪」


帰ろうとしていた楽進を引き留める塵塚怪王。


「防護柵の配置はもう済ましたのか?まだであるなら、“いつも通り”大工仕事なら手伝っても良いぞ」


「怪王さんッ!?」


「我が新しき眷属の頼みである」


「ありがとうございます、怪王さん。それに古戦場火さん」


それぞれにお辞儀をする楽進。











「ホンマ助かりますわぁ。ウチらだけじゃ、次の襲撃に耐えられるか心配やったんです」


「いや、お礼を言うのは賊を退治してからにしよう」


李典が礼を言うと水色の髪の女性―――夏侯淵がそう答えた。


「それに我々が来たと言ってもまだ数ではあちらが優っているのだ。油断はできんよ。それで防護柵の配置はどうなのだ?」


「はいな、それは配置できてます。しかし………」


「うん?何か問題があるのか?」


「北の柵が材料が足りひんくって、強度的に他んとこより問題が……」


「そうか。ならば、北側には我々が向かおう。いいな、季衣」


「はい!賊なんてボクが片付けちゃいますよ、秋蘭様!」


夏侯淵が隣の許緒にそう言うと元気よく返す許緒。


「―――その必要はないのである」


『………え?』


すると三人の後ろから声がかかる。


『なッ!?』


そこには巨体を揺らしながら、歩いてくる段ボール男―――塵塚怪王がいた。


「な、何者だ、貴様!?」


その妖しげな風貌に得物を手に取ろうとする夏侯淵たち。


「怪王!?なんでアンタがここにおるんよ?」


「ふん、知れたことを。凪に“大工仕事”を頼まれたのだ。北の柵は我輩が補強した。これで他の所とは大差あるまい。それを踏まえて新たに配置を決めるが良い」


ガシャガシャと音を鳴らし、ながらそう言う塵塚怪王。


「李典、こやつも村の者なのか?」


李典に話しかける塵塚怪王の姿を見て、得物を仕舞いながらそう訊ねる夏侯淵。


「あ、すんません。見た目はアレなんですけど、悪い人ではないんです」


「うぬ?その二人は知らぬ顔だな。それにここに来る間にも知らぬ顔が幾人か見かけたが………」


「こちらは夏侯淵将軍に許緒将軍。陳留で刺史をしてる曹操様の命で援軍に駆けつけてくれたんよ」


「ふむ。そうであるか。我が名は塵塚怪王。この村で人成らざるものを束ねる者だ」


「は?人成らざる……なんだって?」


「あぁ、気にせんで下さい。そういう設定なんですわ」


「ぬ、真桜。だから何度言えば分かるのだ。設定などではなく………」


「はいはい。分かっとる分かっとる」


夏侯淵にそう説明する李典に塵塚怪王が食って掛かろうとするがあしらわれる。









「賊とはいえ、数の多さは侮れないな……」


北の側を守備する夏侯淵が呟く。


「数の驚異であるな」


「………一応、聞くが何故ここに居るのだ、塵塚怪王」


「ふん、知れたことを。我輩は柵の修繕に来たのだ」


夏侯淵が訊ねるとそう答える塵塚怪王。


「言っておくがここは危険だぞ」


「ふん。誰に向かってものを申しておるのだ、汝は」


そこでズズズイと立ち上がる塵塚怪王。


「我が名は塵塚怪王。人が不要としたものを束ね、導く。人ごときが我輩に傷をつけれるものか!」


と高々と宣言する。…………が―――。


――――ドスドス。


頭に流れ矢が刺さる塵塚怪王。


「うぬ?間を解せぬとは………不粋であるな」


「いや、貴方が立つから悪いのであって……。というか頭に矢が刺さっているのだが?」


頭部の段ボールに矢が二本刺さっていた。


「問題ない」


「そうか………本体は体の中に居るのだな」


まるで動じない塵塚怪王を見て、呆れたように呟く。


夏侯淵もまさかこの巨体の全てに人が収まっているわけがないと考え、何らかの方法で中から動かしているのではないかと考えていた。


「―――おい、娘。我輩は妖者だ。中に人など居らぬ。断じて、お・ら・ぬッ!!」


夏侯淵の顔に自身の顔を近づける塵塚怪王。


「うっ。わ、分かった、失言でだった……(そんなに拘りがあるのだろうか?)」


「ぬ?汝、まだ疑っておるのか?」


「いや、そんなことはない」


塵塚怪王の視線から目を逸らす夏侯淵。


「ふん、まぁ良い」


と体を離す塵塚怪王。


そこに于禁が慌てた様子で走ってきた。


「夏侯淵さーん、大変なの!?」


「どうしたのだ、于禁?」


「それが……あれ、怪王さんが居るの?」


「我輩が居ては悪いのか?」


「違うの、逆なの。丁度良かったの」


「うん?それはどういうことだ?」


「それが北側の外に村の子が……古戦場火ちゃんが居るの!!」


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