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38話 登場シーンは割と重要







―――――――――――――――






蜀と魏の国境にある定軍山の森の中。


「くっ………やられたな」


蜀が国境付近で怪しい動きがあると偵察に来た夏侯淵と典韋は兵を引き連れて来たのだが………。


それは蜀の策略であった。


待ち伏せに遇い、連れてきた兵も散り散りとなってしまった。


「秋蘭様………」


「あぁ、分かっている。どうやら、もう打って出るしかないようだな……」


森の中にいては、闇討ちに合うだけと判断した夏侯淵は森を抜けて、打って出ることを決断した。


だが、それすらも蜀の策略の内であった。


「ッ!?」


森の出口では黄忠と馬岱が待ち構えていたのだった。


「………流琉」


「はい。分かっています」


夏侯淵と典韋が目を合わせる。


その目には覚悟が現れていた。


それは正に決死の覚悟だった。


「ただでは死なぬ。一兵でも多く道連れに………」


そう言って夏侯淵が弓を引き、典韋は得物を構える。


それに呼応して黄忠たちも得物を構えるのだった。


一触即発。今、火蓋が切って落とされるその時――――。






――――カンッカンッ。


両者の間に突如として少女が現れ、拍子木を打ち鳴らす。


「この子は一体………?」


黄忠たち蜀の兵はいきなり現れた少女に不思議な顔をする。


「送り拍子木?何故、このような所に?」


夏侯淵たちも同様に不思議な顔をした。それは彼女のことを知っているからこそ不思議に思うのだ。


送り拍子木が打ち鳴らす時は2つだ。それは釣瓶落としたちの定期便が来たときだ。だが、こんな山奥に彼らが商売に来るとは考えられない。


もう1つは釣瓶落としたちを呼びたい時だが、それでも塵塚怪王の持つ飴を用意しなければならない。


自発的に送り拍子木が打ち鳴らすなど今まで一切なかった。


と両者が戸惑っていると送り拍子木の居る場所に段々と影が落ちてくる。そして………。


――――ズトンッ。


送り拍子木の居た場所に巨大な真四角の箱が落ちてきた。


そしてそれは…………。


――――ゴゴゴゴゴッ。ガガガガガッ。


轟音を鳴らしながら、次第に亀裂が入り、伸びたり、くっ付いたりして……………………………。


「―――塵塚怪王、参上なのである」


と天を指差す塵塚怪王が出来上がった。


『……………』


周りが唖然とする。


「うぬ?どうかしたのか、汝ら?」


当の本人は首を傾げて分かっていない。


「………怪王。一応、訊くが……何なのだ、それは?」


と箱の破片を指す夏侯淵。


「うむ。我輩は考えたのである」


と塵塚怪王は胸を張る。


「どうやら我輩の姿は馴染みつつある。そこでだ。我輩は新たな自己表現として登場の仕方に目をつけたのだ」


ババーンッと効果音が付きそうな塵塚怪王であった。


「どうだ、秋蘭よ。我輩は妖者らしかったか?」


と、まるで100点のテストを見せた子供のように夏侯淵へと訊く塵塚怪王。


それに頭を押さえる夏侯淵。


「まさか、それだけの為に来たのか?」


「否である」


と塵塚怪王はガサガサと懐を探る。


「秋蘭よ。汝、替えの下着を忘れていったであろう?故に我輩がこうして届けに………」


――――ドスドス。


と下着を取り出した塵塚怪王の頭に二本の矢が刺さる。


「うぬ?何ゆえ、我輩が射られなければならぬのだ?」


「く、空気を読め!?」


顔を真っ赤にする夏侯淵。それはいきどおりからか、羞恥からか………。


「何を怒っておるのだ?我輩は汝を心配して………おぉ、安心するが良い。汝の下着の中でも比較的一般的であろうものを持ってきたのである。なにやら向こう側が見えるようなものや、際どいものは………」


――――ドスドスドス。


追加で三本。


「―――それ以上、何か言い残すことはあるか?」


「う、うむ。いや、特にはない……」


鬼の形相で塵塚怪王を睨む夏侯淵。


「うむ、分からぬな。我輩は春蘭に言われて持ってきたのだが………」


「姉者………」


再び頭を押さえる夏侯淵。


「貴方は確か、塵塚怪王さんよね……」


「うぬ?」


とほったらかしにしていた黄忠が声をかけて、塵塚怪王は黄忠たちの方を見る。


「うむ。我輩は塵塚怪王である。汝は確か西涼で………」


「えぇ。私は黄忠と言いますわ」


と挨拶を交わす二人。


「怪王さん!たんぽぽも居るよぉ~」


「うむ。久しいであるな、蒲公英よ」


手を上げて自己主張した馬岱に塵塚怪王が言う。


「うぬ?ところで汝らは何故、ここに居るのだ?」


ようやく、本題に入った塵塚怪王であった。


「あ、えぇと……それは………」


馬岱が言いよどむ。


「うむ?…………」


すると塵塚怪王は夏侯淵たちと黄忠たちを交互に見る。


「………おぉ!?」


ポンッと手を打ち、理解した顔をする。


「宴会であるか!」


「違う!」


―――ドスドス。


二本の矢が刺さる。計七本の矢が塵塚怪王の頭に刺さっている。


「うむ。最近、華琳に似て我輩への扱いが些か乱暴であるぞ、秋蘭よ。それに――――何故、黄忠、汝まで射るのであるか?」


「あら、ごめんなさい。つい、流れで………」


おほほ、と上品に笑う黄忠。


「怪王、少しは空気を読むことだ。我らは今………」


「―――争い、であるか」


「そ、そうだ。分かっているのなら………」


塵塚怪王の空気が一瞬で変わる。


「うむ。我輩は人の争いには手は出さぬ」


「………なら、帰ってもらえるか。そして、華琳様に我々のことを伝えてくれ」


夏侯淵もまさか今更助かるとは思っていない。ただ、自分らの最後を伝えてほしい、そういう意味で言ったのだ。


「華琳様に、覇道のお手伝いができなくて申し訳なかったと伝え――――」


「――嫌である」


それを塵塚怪王は拒絶した。


「ッ!?怪王、何を言って………」


「我輩は人の争いには手は出さぬ………。だが、汝らが“ここで”争うのは見過ごせぬのだ」


「どういう意味だ?」


「これ以上、この地を汚してはならぬのだ。ここには―――」


とうコツが眠っているのだ、と塵塚怪王は言う。


「大方、また渾沌の策略であろうな」


と塵塚怪王は森を見る。


「我輩もいつまでも後手に回っているわけにはいかぬからな」


そして、塵塚怪王は黄忠たちを見る。


「汝らには悪いが、ここは退いてもらうぞ」


塵塚怪王の雰囲気を読み取り、臨戦体勢となる蜀の兵たち。


「ふむ。では、あまり時間をかけても意味もあるまい。箒神よ、頼むである」


と塵塚怪王の手から一本の箒が出てくる。


「さて、余計なものは掃除しようぞ」


そして、それを一振りする。すると…………。


――――ガシャン。


兵たちの武装が“全て”解除される。


つまり――――全員、素っ裸。


『―――きゃあぁぁッ!?』


「これで汝らは何もできま―――」


―――ボカッ。


「こら、石を投げるでない!」


全女性兵から石を投げられる塵塚怪王。


「うぬぬぬ………。ふんぬぅあぁぁ!!汝らいい加減にするのである!!」


「いい加減にするのはお前だ、怪王!何故、私たちまで武装を解除するのだ!?」


と夏侯淵たちからも石を投げられる。


「何を言うのだ。汝らだけが武装していては争いの種になるであろうが、故に我輩は全員の武装を解除したのだ」


「なら、お前のも解除しろ、怪王」


「我輩は武装してはおらぬ。我輩のこれは、汝らのいうところの裸である。故に我輩と汝らは対等だ」


『納得いくか!!』


何故か魏と蜀の兵たちの息はピッタリだった。










と、色々とあったが、塵塚怪王の介入で戦いは有耶無耶になり、両軍とも国に引き上げていった。


「ふむ………」


そして一人森に残る塵塚怪王。


「出てくるである、羅刹女らせつじょ


「気づいているわよね、流石に……」


と森から女性が現れる。服から出ている四肢には刺青の入っていた。


「あれだけ殺気を放たれては誰であろうと気づくのである」


「ふ~ん、それを知っていた上で、“その状態”で残ってたのね」


羅刹女の言う、その状態とは箒神による武装解除の状態だ。


妖者の武装解除は身体的なものではなく、その力を一時的に使えなくするものだ。


つまり、今、塵塚怪王はその力を封じられている。塵塚怪王はそこまでして檮コツの眠りを醒ますことを是とはしなかったのだ。


「檮コツの復活に人の争いを利用する策は失敗したわ」


ガサリと羅刹女は一歩前に出る。


「でも、私たちの邪魔をする者が無防備な状態で目の前に居る。これって好機よね、異国の妖者さん?」


羅刹女の爪が鋭く伸びる。


「我輩らに死は無いぞ」


「知ってるわ。でも………動けないくらいにバラバラにして私たち、渾沌の前に晒すことはできるわ」


また一歩と、塵塚怪王との距離を詰める。


「うむ。確かにな……」


「あら、意外と諦めがいいのね。なら―――さっさとバラバラになりなさいッ」


と塵塚怪王に飛びかかる羅刹女。







「だが、断るッ」








ガキンッと羅刹女の爪は鉄扇に阻まれる。


「なにッ!?」


「何を驚いておるのじゃ?怪王一人でこの場に居るとは誰も言うておらぬのじゃ」


羅刹女の爪を阻んだのは一目連だった。


「ちッ。だが、この気を逃しはしない」


と再び体勢を整えようとした羅刹女。


「―――そうはさせないのよん♪」


「なッ!?」


急に足に力が入らず、膝をつく羅刹女。


「な、何故、お前があちらについているのだ―――妲己!?」


「ノンノン。私は飛縁魔よん♪間違えないでほしいわ」


羅刹女の後ろには妖艶な笑みを浮かべた飛縁魔。


「くっ……。異国の妖者にたらしこまれたか………」


「あらん、心外ね。私は別にあんな絡繰男なんて興味ないわよん。私はお姉様のために、ここに居るのよん♪」


飛縁魔は塵塚怪王の後ろに靡く白い布にウィンクをする。


「モテモテじゃの、白容裔よ」


「………知らぬ」


姿は現さず、声だけで答える白容裔。


「私は分かったのよ。いいえ、目が覚めたのよん。お姉様のお仕置き(ごほうび)でねん♪」


「目が覚めたというか、目覚めたじゃな、それは……」


飛縁魔たちの登場で一気に形勢は逆転した。


「くっ。ここは退くしか………」


「あらん?させると思っているのかしらん?貴女も一緒にお姉様にお仕置き(ごほうび)を貰いましょ。きっと気持ちいいわよん?」


飛縁魔は羅刹女を通せんぼすると手を伸ばすが、それは空を切る。


「――それは遠慮願おうか」


いつの間にか羅刹女は塵塚怪王たちから離れた所にへたり込み、側には導師の格好をした男が居た。


「太歳星君、助かったわ……」


「あら、惜しかったわねん」


「異国の妖者よ、この場は私が預かる。異論は認めん」


「構わぬよ。我輩の目的は檮コツを目覚めさせぬことであるからな」


「そうか……。では、失礼する、異国の妖者………いや、“梵天の落とし種”よ」


羅刹女と太歳星君は雲のように消える。


「あららん、逃がしちゃったわん。お姉様、ごめんなさい。どうぞ、お仕置き(ごほうび)を………って、居ないわ。まさか、放置!?そういう趣向がお望みですのん!?ゾクゾクしゃうわ!!」


と飛縁魔を残して、塵塚怪王たちも早々にその場を後にした。


一人残った飛縁魔はクネクネと体を揺らし、時折ビクンッビクンッと痙攣していた………かは、ご想像にお任せしよう。


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