37話 恋する乙女は忙しい
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一際、豪勢な造りの建物。そこの門前に数人の少女たちがいた。
「ここが春悠楼………」
と火車が言う。
「本当に入るの?」
鵺が火車を見上げながら言う。隣の古戦場火も見る。
「そ、そうだ……。ここはあの方の行きつけの店だと聞いたのだ。もしかしたら、ここにはあの方のお、おも……想い人がいるのかもしれない」
「………それは誰から?」
思い詰めたかのような表情の火車に古戦場火が訊く。
「高女と鬼一口、それに曹操も言っていた……」
明らかに冗談の可能性が高いのだが、真面目な火車には判断つかない。
「それ、絶対嘘だろうがよ……」
そして、何故か連れてこられた送り拍子木が言う。
「いや、ここには確かに綺麗どころが集まっている。楼主たる九尾を始め、絡新婦や毛倡妓などがいるのだ。可能性も否定できない」
「くそ、駄目だな、コイツら……」
「どこに行くのですか、送り拍子木?」
「帰るに決まってんだろ。くだらねぇことに付き合ってられるかッ」
「いいんですか?」
「何がだよ……」
帰ろうとする送り拍子木に火車が言うのだった。
「ここには鬼一口も来るそうですよ?」
「ッ!?……な、何でそこでアイツの話が出てくんだよ!?」
鬼一口の名前に反応する送り拍子木だった。
何だかんだと言いながらも意識してはいるようだ。
と門前でゴチャゴチャとしていると春悠楼から子供が出てくる。
「あれ?古戦場火ちゃんに鵺ちゃん?どうしたですか?」
と子供は古戦場火たちに目を向けるのだった。
「大禿ちゃん………」
「あ!?もしかして、手伝いに来てくれたのですか?良かったのですよ、丁度人手が手一杯になってしまったのですよ」
と子供―――大禿は古戦場火と鵺の手を取ると、店の中へ引き入れようとする。
「そっちの人たちもなのですか?助かるのですよ。今、お姐様方に言ってくるのですよ」
と、店の中へ戻っていく大禿。
そして……………。
「何故、こうなっているのだ?」
火車たちは豪勢な衣装に身を包み、春悠楼へ来た客の接客をしていた。
「おや?新しい子がいるね」
「はいぃ。最近、忙しいでありんしょう?だから、人手を増やしたんでありんす」
楼主、九尾が客に説明をしていた。
「でありんすから、粗相などがあるやもしれませんが、ご容赦してくなはれや」
「はっはっはっ。構わないよ、葛葉さん。儂らは楽しみに来とるんじゃ。粗相なぞ、気にはせんよ」
初老の男が快活に笑う。
流石は大店、春悠楼だ。客の質も他より群を抜いて高いのだ。
「ほれ、新人さんもこっちへ来て、楽しまな、損じゃぞ」
「え!?あ、いや私は…………」
「ダメでありんすよ、火車ちゃん。お客はんの誘いを断っては。今日は新人も飲み食いできるんでありんすから」
絡新婦に引っ張られる火車。
「さぁ、そっちの隅っこの嬢ちゃんもこっちに来るでありんす」
「…………けっ、なんでこんなことしなくちゃいけねぇんだよ」
「………(ふるふる)」
端っこに固まる送り拍子木たちも加わり、大宴会が開かれる。
「………主ら何をしているのであるか?」
「あはははっ。なんだか面白いことになっているゾ」
宴会を乗り越え、ぐったりとしている火車たちの前に塵塚怪王と鬼一口が現れる。
「え?あ、か、怪王様!?」
と火車たちは塵塚怪王の姿を見るや、乱れていた自分たちの服装を直して、何故か正座した。
「え、あ、これは………しゃ、社会勉強です!!」
と見苦しい言い訳を言う火車だった。
「おぉ!!そうであるか。うむ、中々に良い心がけであるな」
それを信じる塵塚怪王もアレだが………。
「………怪王さんは何でここに?」
古戦場火が塵塚怪王を見上げて言う。
「うぬ?あぁ、少し九尾に用があってな……」
(まさか、怪王さんの想い人は………)
(九尾さん………!?)
「あ、塵塚の兄さん。おいでやす、“また”九尾の姐さんにご用ですか?」
毛倡妓が塵塚怪王に気付き声をかける。
『(また!?)』
「うむ。よろしく頼むのである」
「あ、あの………」
「どうかしたのであるか?」
古戦場火が塵塚怪王を見る。
「そ、その………」
「怪王さんはよくここに……?」
古戦場火に続いて鵺までも訊きながら詰め寄る。
火車も後ろで気にしたように塵塚怪王を見ていた。
「う、うむ。そうであるな、ここは贔屓にしているぞ」
「……もしかして、怪王さんは九尾さんのこと………す、好きなの?」
古戦場火は勇気を振り絞って言う。
「うぬ?そうであるな――――好きであるな」
『ッ!?』
塵塚怪王の言葉に三人が目を見開いた。
「それに絡新婦に毛倡妓も好きであるし、勿論、古戦場火や鵺、火車も我輩は好きであるよ」
『………え?』
塵塚怪王の言葉の続きを聞いて、三人が今度は呆けた声を出す。
「それって………」
「……好き違い」
三人は安堵に肩を下げるのだった。
「怪王さん………」
と古戦場火が塵塚怪王に抱きつく。
「……私も」
それに続くように鵺も抱きつく。
「わ、わわ、私もッ!!」
火車も顔を真っ赤にしながら抱きつくのだった。
「全く、何をやってるんだろうね、彼女たちは」
「………お前は何しに来たんだよ?」
会話の外から鬼一口が言うと隣にいた送り拍子木が呟く。
「え?………」
「だ、たから!お前はここに何しに来たんだって訊いたんだ!?」
「え、いや、ご飯を………」
「…………は?」
「だから、ご飯だゾ?ここの賄いをもらいにたまに来るんだゾ」
鬼一口の言葉に目が点になる送り拍子木。
「うん?………あはっ。なんだい、もしかして心配してたのかい?あはははっ、大丈夫さ。ボクはキミ一筋だよ、送り拍子木。さぁ、抱きついても構わないゾ」
鬼一口は合点したかのように言う。そして手を広げて待つ。
「………れろ」
「うん?」
「わ、わわ、忘れろぉぉぉ!!」
鬼一口の周りに送り拍子木たちが現れる。
「ちょ!?それは八つ当たりっていうんだゾ!?」
「塵塚の兄さん、葛葉姐さんの準備が………って、何してはるんです?」
毛倡妓が戻ってくるとその場はなんだかよく分からないことになっていた。
三人に抱きつかれている塵塚怪王に送り拍子木から私刑にあっている鬼一口。
「どうかしたのでありんすか、華?」
絡新婦が様子を見に来ると…………。
「あぁ!わっちも~」
塵塚怪王にもう一人抱きつく者が増えたのだった。




