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35話 親







―――――――――――――――







「………ん」


「うぬ?我輩にくれるのであるか、古戦場火よ」


中庭で塵塚怪王と古戦場火が端にある花壇を見ていると、一房摘んで塵塚怪王に渡す古戦場火。


「うむ。ありがとうである」


塵塚怪王はそれを受け取り、頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める古戦場火。


「………怪王さん」


すると古戦場火は塵塚怪王を見上げて言うのだった。


「……私は貴方のお役に立ちたい」


古戦場火の毛先の橙が大きく揺れる。


「私にできることは何でも言ってほしい……」


段々と自己主張ができるようになったとはいえ、生来の引っ込み思案は変わらない。それでも懸命に自分の意思を伝える古戦場火。


「そうであるな……。なら―――」


と塵塚怪王は続けて言う。


「――我輩の最後を看取ってほしいであるな」


「………えぇ!?そ、それはつ、つまり………」


と、なにやら頬を染めて、あたふたし始める古戦場火。


「あれ?キミたち、何をしているんだい?」


そこに鬼一口が現れる。


「うむ。花を見ていたのだよ」


「花かい?あぁ、ボクもよく見るゾ。美味しそうだものね」


「いや、それには同意しかねるのだが………」


塵塚怪王と鬼一口がそんな会話をしている横では古戦場火が顔から煙を出していた。


今日も平和な日々だった。







「……怪王さん」


「どうかしたのであるか?」


部屋の中で古戦場火が塵塚怪王の膝の上で言う。


「怪王さんはなんで私たちみたいなのを集めているの?」


「うん?」


「怪王さんは……何をしようとしているの?」


膝の上から塵塚怪王を見上げる古戦場火。


「我輩はな、古戦場火よ。妖者と人が手を取り合って生きていける、そんな世を目指しておるのだ」


「妖者と人が、手を取り合って……」


「そうである。人は我輩たちを忌み畏れる。それは我らの特異性にあるのだ」


人を襲う妖者は確かにいる。


「だがな、我輩たちは弱い生き物なのだ。人を襲う者はそうせねばいけないからだ。そうせねば、己の存在を示せぬものなのだ」


塵塚怪王は言う。


「悲しいことに人にはそれが悪に見えるのだ。それは些細な行き違いなのである」


「…………」


古戦場火は塵塚怪王の顔を見る。ダンボールの顔であるため、表情というものが無いはずなのだが、何故かその悲しみは古戦場火に伝わってきた。


「だから、我輩は妖者を、家族を集め、束ねているのだ。我輩が妖者たちの存在の証明となるために……」


そこには妖者でありながら、人より人らしい妖者がいたのだった。


「……うん。私も皆で暮らしたい。怪王さんと鬼一口さん、それに曹操さんや李典さんたちと……」


「うむ。いつか、そうなれば良いのである」


「……大丈夫です。私たちは死なないから……」


「……うむ、そうであるな」


(だがな、人はそうもいかないのであるよ……)


「――――というわけである。お主らも協力するのであるぞ?」


と塵塚怪王が扉に向けてそういうと扉から鬼一口や火車、蛟たちがなだれ込んでくる。


「あははは、やぱりバレてたかい?」


「すみません。盗み聞きなんて……」


悪びれもしない鬼一口にバツが悪そうにする火車。


「別に構わぬよ。どのみちお主らにも知っていてもらいたいからな」


「それはそうと、おやつはないの?自分は寝起きには甘いものが欲しくなるの」


と高女が寝台の上で横になりながら言う。


「寝て、食べて、寝ると太るゾ」


「大丈夫なの。ふくよかな女性もそれはそれで需要はあるの。ひぃちゃんみたいに可愛い男の子みたいにねぇ」


「怖いこと言わないでほしいゾ……」


「あら、知らないの?数え役萬☆姉妹の追っかけには貴方を見に来ている人もいるの」


塵塚怪王の代わりに鬼一口が三姉妹のライブを管理していることが多々あるのだ。


「…………マジ?」


「うん。マジ☆」


知らないうちに三国では男の娘ブームが到来していた。


「襲われないように気をつけるの」


「…………」


orzな鬼一口。


「さ、一番の大喰らいが沈んでいる内に甘いものを頂くの」


「うむ。確か、そこに饅頭があったはずだが……」


と戸棚を示す塵塚怪王。


「それを先に言うの~~」


とご機嫌で取りにいく高女。


「お饅頭ちゃん、ご対面~~」


と、扉を開けると…………。


「ぐもぐも…………なんじゃ、主は?妾は食事中じゃ、早う閉めるが良い」


中にはお饅頭を頬張る一目連がいた。勿論、雛人形のような小さな姿だ。


「それは自分のお饅頭ちゃんなの。帰すの!」


「なッ!?何をするのじゃ、この無礼者!!」


饅頭を頬張る一目連から饅頭を取り上げる高女。そしてそれにしがみつく一目連。


両者の間でバチバチと火花が散る。


一度、どこかで同じ光景があった気がするのは気のせいか……。


「では我輩たちほこの団子でも食べるであるか」


と塵塚怪王は懐から団子を取り出し、古戦場火たちに分け与える。


『少しはこっちも気にかけてほしいの(じゃ)!!』








――――すやすや。


あの後色々とあり、皆疲れ果て、部屋で集まって寝ていた。


「……うむ」


ただ一人、塵塚怪王だけが起きていた。


「――――少し話せないか?」


と中空に話しかける塵塚怪王。


「……外」


が、どこからか返事が返ってくる。





「こうやって話すのはいつぶりであるかな……」


外に出た塵塚怪王は一人で喋る。


「洛陽で会っている……」


だが、声は二人分だった。


「そうであったな。あの時は助かったのである」


頭を下げる塵塚怪王。


すると首下から一切れの布が出てくる。


それは塊となり、中から包帯で全身を包んだ女性が出てくる。


「別に構わない……」


と女性――白容裔は言う。


「あのままでは私も困るのだ、塵王よ」


「うむ。分かっておる、白容裔殿。我輩を創ってくれた貴女には迷惑はかけまいと思っておったのだがな……」


「それなら、その甘さを捨てるべきだ」


「……それは出来ぬ。これが我輩であるのだからな」


「知っている。だから、私は…………いや、なんでもない。それで私に用ではないのか?」


「あぁ、そうであったな。これを……」


と一輪の花を白容裔に渡す塵塚怪王。


それは赤い撫子なでしこの花だった。


「これは?」


「うむ。人の世には赤い撫子を母に渡す習慣があるという。我輩には母親というのは居らぬが、しいて言うならば白容裔殿が母となると思ってな……」


「そ、そうか……」


白容裔は撫子の花を見つめる。


「……礼を言うぞ、塵王よ」


「うむ。それでは急に呼んですまなかった」


と塵塚怪王は部屋に戻っていく。


「母親、か……」


残された白容裔の呟きは風に乗り、赤い花びらと共に流れていくのだった。



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