33話 夜に行く塵芥の王
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「毎度、お届け物です」
「うぬ?我輩は何も頼んでおらぬが……」
釣瓶落としが窓から現れる。
「へい。それは承知しております。今日は手紙のお届けです」
「手紙、であるか?誰からである?」
「へい。それは――――」
「華琳、すまぬがまた暇をもらいたいのだが………」
「今度はどこに行くのよ?」
玉座の間で塵塚怪王は曹操と対話する。
「別にね、貴方が抜けても代わりの者を置いておくならいいのよ?でもね、その代わりの者が仕出かしたことの責任は貴方が取るのよね?」
前回、鵺の頼みで遠出に付き合った際、塵塚怪王は自分の代理として鬼一口や古戦場火を置いてきたのだが、鬼一口は公費で食べ物を食い漁り、古戦場火はあの性格で上手く回らず、結果曹操たちの負担が大きくなったのだった。
「う、うむ。しかし、困ったものであるな……」
「それにもうすぐ私たちも遠征をするのよ。私たちの留守の間、貴方にここを守ってもらいたいのだけれど?」
「いや、我輩も急ぎであるのだが……」
「そんなに急いでどこに行くのよ?」
「うむ。少しばかり涼州へな」
「あら、奇遇ね。私たちも涼州へ遠征よ」
「うぬ?」
「それで結局はこのプチ怪王を連れていくことになったのよ」
「うむ。その通りであるな」
曹操の頭の上でミニチュアサイズの塵塚怪王が頷く。
「はぁ。それはよろしいのですが……」
と説明を聞いた臣下たちを代表して夏侯淵が言う。
「そのように頭に乗せられていては華琳様の威厳が半減しますと言いますか、可愛らしいと言いますか………」
「…………」
曹操は無言だが、若干耳が赤い。
「あと、風と被っているのですよー」
と程イクがそこに突っ込んだ。
と言うかこのプチ怪王が喋って動いていることには誰も突っ込まないのは、塵塚怪王ならそんな不思議でもアリだと認識しているからだろうか。
「それにしても華琳よ。何故、涼州なのであるか?」
「涼州には歴戦の勇士、馬騰がいるのよ」
「ふむ……。なるほどな、華琳のいつもの癖であるか」
「あら?こんな乱世の時代に生を受けたのですもの。英傑と相見えたいと思うのは本能よ」
と曹操は堂々と宣言する。
「……で、あるのか。……うん?華琳よ、何か来るのである」
「え?」
プチ怪王が何かを感じとった時、前から伝令が走ってきた。
「報告します!前曲にて敵の横撃があったと」
「奇襲ね」
「はいー。西涼の皆さんは霞ちゃんと同じく騎馬主体ですからね。機動力を活かした奇襲はあるだろうと予想はしてましたが……こんなにも速く来るとはー」
「それで、手は打ってあるの?」
「はっ。前曲には霞の指導の下、騎馬への対処を訓練した者を多く配置してあります。我らが着くまでは持ち堪えれるかと」
「そう。なら、急ぐわよ」
と馬を走らせる曹操。
「うぬ?華琳よ、そう急いでは我輩が落ちて―――ッ!?」
とプチ怪王が言いかけた時、揺れによって曹操の頭から転げ落ちてしまう。
だが、運がいいことに後ろにではなく、前に落ちたため、馬から落ちることはなかった、が……………。
――――ポスンッ。
端的に言うならプチ怪王は曹操の胸に落ちた。
「ちょっ!?何してるのよ、貴方は!?」
「う、うぬ?前が見えぬである………」
「ひゃんっ!?ちょっと変な所を触るんじゃ……やん!」
プチ怪王を取り出そうとした曹操だったが、プチ怪王が動いたことにより敏感な所に触れて悶える。
「怪王、動かな……やっ、そこは駄目ぇ」
「うぬ?我輩はどこに落ちたのであるか?何やら―――“硬い”のだが、鐙の隙まであるか?」
――――プチッ。
何かが切れる音が聞こえた気がした。
「そこまで平らじゃないわよッ!!」
「のう、華琳よ」
「なによ」
「もうそろそろ解いてはもらえぬか?そろそろ削れてきたのだが………」
只今、プチ怪王は縄に縛られ、馬で引き摺られていた。
「そのまま私の胸のように平らになればいいんじゃない?」
「……う、うむ」
曹操の威圧感に黙るしかないプチ怪王だった。
「敵襲!敵襲!」
夜営を張っているとそんな声が聞こえた。
「だぁ!!何回目やねん!?」
「うぅ、寝不足はお肌の敵なの~」
李典と于禁がその声に悲壮な声を出す。
「うむ。汝らは大変であるな」
「怪王さん、スゴく他人事なの」
「まぁ、我輩は睡眠を必要とせぬし、戦いにも参加はしないであるからな。正しく他人事である」
「うぅ、今の怪王なら弄くり回しても追いかけられる心配が………」
「こら、真桜。遊んでないで迎撃に向かうぞ」
睡眠不足で頭が緩くなった李典を引き摺っていく楽進。
「うむ。…………さて、もうそろそろ我輩も動くとするか」
そう言うと塵塚怪王がてくてくと歩いて…………。
―――ぐしゃり。
「うん?季衣、今何か踏まなかったか?」
「え、そうですか?気のせいじゃないですか、春蘭様」
「そうだな………。では、行くぞ」
「はい!」
「………小さき器は大変なのである」
ボロボロになりながらも、目的の場所に着く塵塚怪王。
「うん?そこに誰かおるのであるか?」
塵塚怪王がやってきたのは近くの林の中だった。
そして茂みの一つに目を向ける。
そこには…………。
「お姉様、上手くいってるみたいだよ」
「そうだな。でも、やっぱしアタシはこういうやり方は………」
「まだ言ってるの?しょうがないよ、こうでもしなきゃたんぽぽたちに勝ち目なんてないもん」
馬超と馬岱がいた。
「うむ。やはり、馬超に蒲公英であったか……」
『え?』
塵塚怪王の声に振り向く二人。だが………。
「あれ?今、怪王さんの声が聞こえた気がしたような」
「ま、まさか幽霊とか………」
なにやら青ざめた顔の馬超。
「いや、それはないよ、お姉様。怪王さん、どこにいるの?」
「汝らよ、少し視線を下げてはもらえぬか?」
塵塚怪王は目の前にいるのだが、なんせ元は見上げるほどの背丈だ。自然と探す視線は上へといく。
「え?下って…………」
馬超と馬岱は言われた通り、視線を下に向けると、足下に小さな塵塚怪王を発見する。
「うむ。久しぶりであるな、馬超、それに蒲公英よ」
片手を上げて、挨拶をする塵塚怪王。
「わぁ!なにこれ!?可愛いぃ!小さな怪王さんだぁ!」
「ぬ?」
馬岱は塵塚怪王の体を持ち上げ、目を輝かさせていた。
「何をするのだ、下ろさぬか」
ばたばたと体を揺らす塵塚怪王だったが体格差がありすぎ、意味をなしていなかった。
「いや、たんぽぽ。怪王って……そんな小さかったか?………まぁ、いいか」
馬超は頭を捻るが、すぐに納得する。
(……ふむ)
塵塚怪王は馬超を見やる。
「あれ?そういえば何でここに怪王が居るんだ?お前は確か、曹操の、ところ……って、そうじゃないか!お前は曹操の所の将じゃないか!?まさか、アタシたちの邪魔を………」
馬超はそう言って、得物を構えようとする。
「――否」
塵塚怪王は馬超の言葉を否定する。
「蒲公英よ、少し下ろせ。………いや、地面にではなく、そこの石の上に下ろすのだ」
馬岱は塵塚怪王に言われて、塵塚怪王を下ろそうとすると塵塚怪王が目線を合わせるために場所を指定する。
「馬超よ、我輩は汝らの邪魔をしに来たわけではないぞ」
「なら、何でここに居るんだよ?」
「我輩はとある者に呼ばれて来たのだ。華琳たちがこの地に来ると聞いて一緒には来たが、ここからは別行動のつもりである」
「とある者って………」
「それは――――」
「―――自分です、翠お嬢」
と茂みから西涼の鎧を着た兵が出てくる。
「お前は―――馬休!?なんでお前が怪王と知り合いなんだ!?」
「…………」
男―――馬休は目を逸らす。
「まさか、お前……曹操に内通してるんじゃ!?」
「ち、違います!自分は……見ず知らずの自分を拾ってくれた馬騰殿に恩義を感じてます。裏切るなんてありません!」
「なら、なんで!?」
「自分は馬騰殿をお救いするために……」
「うるさい!裏切り者の言葉なんて誰が聞くか!?アタシはお前のことを本当の兄弟のように……」
馬超へ必死で説明をする馬休だが、それが伝わることは容易ではなかった。
「翠お嬢………」
「ッ!?……気安くアタシの真名を呼ぶんじゃない!」
得物を構える馬超。
「すまないが馬超よ、その者の話を聞くかぎりでは我輩たちは急がねばならぬのだ。言い争いは後にしてもらおうか」
と二人の間に入る塵塚怪王。
「邪魔しないでくれ。これはアタシたちの問題だ!」
「―――否。これは我輩の問題でもあるのだよ」
「……ッ!?」
塵塚怪王の言葉に息を飲む馬超。
姿は小さいが、その身から発せられる威圧は大きい頃となんら変わりない。
「では、我輩たちは急ぐのである」
そして塵塚怪王は馬休を連れて、その場から消える。
「…………」
「気になるのであるか?」
馬休は塵塚怪王を手に持ちながら、走っていた。
「いや、あの………すみません、怪王殿」
「いや、構わぬよ。それだけ、お主があの者らを思っているのてあろう」
「はい……」
「うむ。それは良いことである。では行こうか―――夜行よ」
そう塵塚怪王が言うと馬休―――夜行は足を速める。それはまるで馬の如く速かった。




