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31話 望むこと









―――――――――――――――








「ふむ。かなりの数であるな………」


塵塚怪王は城壁の上から外を見る。


そこには大軍を率いた“劉”の旗が見えた。


「ふふ。ちゃんと私が隙を見せたら攻めてきたわね」


「何やら嬉しそうであるな、華琳」


塵塚怪王の隣に立ち、劉備の大軍を目の前に不敵にも笑う曹操だった。


曹操はこうなることを知りながらも、わざと城を手薄にしていた。今、城に居るのは将が李典、そして軍師は荀イクと程イクの二人だけだった。


「えぇ、嬉しいわ。英傑との戦いですもの喜ばしいことよ」


「ふむ。その好奇心が己が首を絞めぬようにな」


「あら?誰に言ってるのかしら?」


塵塚怪王の言葉に更に笑みを増す曹操。


「ふむ。ならば、良いのだ………」


と塵塚怪王は外を見つめる。


「それで貴方は今回はどうするのかしら?」


「………我輩は人の争いには関わらぬよ」


「そう。なら、後方での支援を任せるわ」


「うむ。尽力はするが、限りはあるぞ?」


そう言うと塵塚怪王は塀から降りて、李典の下へ向かうのだった。










戦況は魏が押されていた。


最初はなんとか受け止めた魏だったが、そこから徐々に押されて、今や明らかに不利となっていた。


「怪王、桂花から増援の要請が………」


「無理であるな。これ以上割けば、こちらが落ちるぞ」


「せやな、だけど送らなあっちが落ちてまう。どないしたらええねん!?」


李典は頭を抱える。元より李典は知将ではない。絡繰に関しては才はあるが武や知はそこそこである。


ここまで保ち堪えたことは褒めるべきであった。


「ふむ。どうしようもないである」


「そんな………。あかんて、このままやと大将が……」


「華琳はそれを承知の上でこの戦いを挑んだのであろう?それならば覚悟はしているはずだ」


「………怪王」


すがる様に李典は塵塚怪王を見上げる。


だが…………。


「―――我輩は何も出来ぬよ」


「そんな………怪王は大将がどうなってもええんか!?」


「…………」


李典の言葉に一切答えず、ただ戦場を見つめる塵塚怪王。








戦場の最前線で曹操は鎌を振るっていた。


(まさか、私自ら鎌を振るうとはね………)


今や完全に孤立しつつある部隊の中で曹操は果敢に鎌を振るう。


「曹操!私が相手だ!」


そこへ関羽が現れる。


「関羽か。面白い……」


それに鎌を構え直す曹操。


そしてお互いの得物が交差し合う。


(ッ!?……流石は関羽ね。大陸に名が通るだけはあるわ。後何合、保てるかしら……)


しかし、曹操はここで引きはしない。


それは己の信念を曲げることだと考えているからだ。


だが、それが自身を更に窮地に陥れることとなる。


「………見つけた」


呂布の登場だった。


(くっ!?不味いわね、関羽だけでも厄介だって言うのにその上呂布までも………)


両者に挟まれる形となった曹操。正に絶体絶命であった。


(私の覇道もここまでなの………)


と曹操が諦めかけた時――――。





「―――諦めるのであるか?」





そんな声が聞こえた。


「まさか、怪王ッ!?」


曹操が声のした方に目を向けると………。


「あはははっ。騙されたかな?」


そこに居たのはペロリと舌を出した鬼一口と虎の面を被った鵺だった。


「……………………」


「おぉ!?凄く睨んでくるゾ!?」


物凄い形相で睨む曹操に鬼一口がおどけて言う。


「あはははっ。曹操、君は怪王に何を期待するんだい?」


鬼一口は曹操を見る。


「前にも言ったはずだけど………あぁ、憶えていないんだっけね。じゃあ、改めて言うよ。君と怪王は違うモノだゾ。決して相容れないものだゾ。信頼も期待も本来するべきじゃないんだよ」


目の前に居るのは自分たちより小さな子供だと言うのに、その雰囲気に場の者は曹操も含めて呑みこまれていた。


「それで、曹操。君は怪王に――――――――何を望むんだい?」


そう言う鬼一口は笑っていた。


口が裂けんばかりに横に広がり、笑っていた。


「アレに破壊を求めるのかい?それとも救いを求めるのかい?それはおかしな話だ。アレも言っていたはずだよ。ボクら、妖者の力は絶対じゃない。君たち、人から見れば異様に見えるかもしれないけど。ボクらは弱いのさ。弱くて、もろくて、脆弱なのさ」


鬼一口の眼だけが光る。


「ボクら、妖者はある一点にのみ特出している。そのある一点を除けば全てが人より劣る。だからボクらはそのある一点を活用できる場を作り、そこに留まるのさ」


知っているはずだゾ?、と鬼一口は笑みを増す。


「だから、ボクらを使うときはその場に合った者を使うのさ。怪王もそうしてきたはずだゾ。諜報なら闇の中に住まう者、戦闘ならその場で最も力を発揮する者」


「…………」


「もし、この場に怪王を呼んだとしても力を発揮できると思うかい、曹操?」


横に裂けた口から舌がチロリと出る。


「この場で最も力を発揮できるのは誰だと思う?この圧倒的数で押されるこの状況を“ひと呑み”で覆せる者は誰だと思う?」


赤い舌が上下に揺れる。


「さぁ、ボクと契約しよう。……うん?怪王との契約かい?そんなものは破棄してしまえばいい。契約者たる君なら簡単なことさ」


さぁ、と曹操に手を差し出す。


「君の前に立ち塞がるものは全てこのボク、鬼一口が……いや、この饕餮とうてつむさぼり、喰らい尽くしてあげるゾ」


それは蠱惑的ないざない。それは神の助けか、悪魔の囁きか…………。


「…………」


曹操はその手を見つめ、そしてゆっくりとその手を――――。



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