30話 竜の子たちは駄弁る
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「中々に面白いゾ」
鬼一口は屋根の上から中庭に集まる塵塚怪王たちを見て、笑う。
「アレは人と妖者の仲を繋いでいるんだゾ。君たちはそんなところに惚れたのかい?」
鬼一口は後ろにいる火車と蛟に振り返る。
『ふん……』
二人はそれにそっぽを向く。
「あははっ、全く素っ気ないゾ。お兄ちゃんは悲しいゾ」
「何が兄か。都合が良いときだけ兄面をするなよ、鬼一口」
「あははっ、全く蛟は手厳しいな」
蛟の言葉に笑みを浮かべてそう言う鬼一口。
「まだ根に持ってるのかい?怪王に牙を向けたことを………。君たちの怪王至上主義も中々だね」
「…………」
と二人が話している中、火車はずっと下の塵塚怪王を見ていた。
「うん?どうかしたのかい、火車?」
「いや、時々思うのだが、あの方は我々のことをどう思って下さっているのかと………」
「火車?どうかしたのか?」
と蛟は驚いたように火車を見る。
「いや、違うぞ。別にそういう意味ではない。私はあの方をお慕いしている。だが、あの方はどうなのだろうと、そう思ったのだ」
慌てたように言う火車。
「そりゃ、家族でしょ。いつも怪王が言ってるゾ」
「あぁ、知っている」
鬼一口の言葉にも火車の浮かない顔は晴れはしない。
「なんだい?もしかして火車はそれ以上になりたいのかい?おませさんだね~、火車は」
「ち、ちち、違う!!」
顔を真っ赤にする火車。
「あははは。動揺してるゾ。ただ口から火が漏れてるから気を付けるんだゾ?」
「……ッ!?」
咄嗟に口を押さえる火車。
「………あの方の望みは何なのだろうか?」
コホンッと咳払いをしてから火車は言う。
「望みねぇ……。それこそ分からないゾ。ボクらは所詮別の個体だからね。……あ。でも、同じ個体なら分かるんじゃないかな。ねぇ、白容裔?」
と鬼一口が視線を向ける先には全身を包帯で巻いてマフラーをつけた少女とも女性とも表しがたい中間の者がいた。
「ふん。私が答えるとでも思っているのか?」
白容裔は鬼一口たちと同じように塵塚怪王を上から見ながら答える。
「えぇ~、別にいいんじゃないか」
「否。確かに塵王は私の半身であるが、それでも他者であることな変わりあるまい」
と白容裔は言う。そして、それに……と付け加えて言う。
「お主らも薄々気づいておるのであろう?塵王は私たちのように純粋な妖者ではないのだよ。それこそ―――全くの別物だ」
白容裔の言葉に誰も驚きはしなかった。
「妖者が妖者を使役することなぞ、出来ぬのだよ。我が身を裂いて、眷属を創らぬ限りはな」
本来、妖者が他の妖者を従者とするなどあり得ない。それは鬼一口の言葉通り、眷属とは違い、別の個体なのだから。
言葉のあやとして塵塚怪王は家族や眷属と言うがそれは正確なものではないのだ。
故に、他の妖者を、ましてや他国の妖者を名で縛るなどあり得ないのだ。
「確かに私は塵王に我が身を多少は裂いてはいるが、塵王の大本は人の捨てし“モノ”なのだ」
「それはどういう意味だ?」
火車が白容裔に訊ねる。
「それは………」
「人の捨てた物、そして人の亡くした魂なの」
と白容裔の言葉を高女がとる。
「つまりは人の捨てた物があの形を成して、人の亡くした魂が人格を成してるの」
とそれを言い切るとふわぁ~、と欠伸をする高女。
「おいおい、今日はえらく喋るね」
冗談混じりに鬼一口が言う。
「そりゃね~、人が昼寝をしてる横で喋られたら誰でも起きちゃうの、“ひぃちゃん”」
「………は?」
「“おにひとくち”って長いの。だから、“ひぃちゃん”なの~」
とそれだけ言うと寝転ぶ高女。
「………ボクはこいつ苦手だゾ。お調子者はボクのお株だゾ。盗らないでほしいゾ、全く」
小さく肩を落とす鬼一口。
そんな二人は置いといて、火車と蛟、そして白容裔は塵塚怪王を見ていた。
「……塵王は塵王にしか成せぬことをことをするだけである」
白容裔は誰に言うでもなく呟く。
「妖者でも、ヒトでもないあの人が出来ること……」
白容裔の言葉に後ろから声をかけるのは………。
「……蜃気楼」
貝から出る煙が人の形を成した者――蜃気楼だった。
「それはなんだろう?あの人にはこの世界がどう写っているのだろう?」
蜃気楼はゆらゆらと揺れながら独白に近い言葉を言う。
「本当に今日は珍しいこと尽くしだゾ。怠け者の高女に引きこもりの蜃気楼まで出てくるなんて………」
「これも一重にあの方のお陰」
鬼一口の言葉に蛟が言う。
「あの方が居なければ、私たち兄弟姉妹が集まることなんてなかったはず」
火車も続けて言うのだった。
そしてその場の全員が塵塚怪王を見るのだった。
「これも怪王にしか出来ないこと、かもしれないね」
と鬼一口は皆の思っていることを代弁するのだった。
「ホント、見ていて飽きないゾ。………さて、ボクはそろそろ食事にでもするかな」
そう言うと屋根の上から降りていく鬼一口。
「………」
次に蜃気楼が貝の中に戻っていき、貝自体も煙のように消えていた。
『では我々も……』
シュタッと消える火車と蛟。
「ふん………」
そして残ったのは白容裔と…………。
「……お主はどうするのだ」
「ふわぁ~」
………高女だった。
「それで貴女は何を考えているの?」
高女は眠た気な目を白容裔に向ける。
「ふん。何故、それを訊くのだ?お主がそのようなことを気にするのか?」
「うぅん、別に。自分はただ高くて見晴らしの良いとこで昼寝できればそれでいいの。――――でも、いくら見晴らしが良くても荒れた景色は目覚めが悪いの」
その一瞬だけ、高女の瞳に鋭い光が宿っていた。
「………ふむ、それは心配要らんよ。私の望みがなんであれ、私とて荒廃した世界なんぞに興味ない」
「それを聞いて安心したの。これでぐっすり眠れるの………」
と今度は目を閉じて、本当に眠ってしまう高女。
「………さて、これからが正念場だぞ、塵王よ」
白容裔は塵塚怪王を見て、微笑む。それはまるで我が子を見る母のように慈愛に満ちた目だった




