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29話 当たるも八卦、当たらぬも八卦





―――――――――――――――







「おや、あれは何かしら?」


曹操が廊下を歩いていると、中庭にある休憩小屋に何人か集まっていた。


曹操は気になり休憩小屋の方へと歩いていく。





「珍しいわね……」


曹操が小屋まで行くとそこには魏の主だった臣たちが集まっていた。


「か、華琳様!?こ、これは違うんです!」


と旬イクが曹操を見つけると慌てたように言う。


「別に構わないわよ。ちゃんと仕事をしてくれればそれでいいのよ」


それで、と集まった面々を見る曹操。


「何をしていたのかしら?」


「それはですねー、華琳様」


と程イクが答える。


「怪王さんが占いをしてくれると言うのですよー」


程イクはそう言いながら真ん中に座る塵塚怪王を見る。


「貴方、そんなことも出来るの?」


「うむ。まぁ、正確にはちがうのであるがな。汝らにとっては同義であろうよ」


曹操は塵塚怪王に問うとそう答えた。


「正確には汝らに憑く妖者を見るのだ」


「私たちに妖者が憑いてるの?」


意外そうな顔をする曹操。


「うむ。人が生まれただけ妖者も生まれるのだよ」


「なんや守護神みたいなもんかいな?」


張遼がそう訊く。


「うむ。間違いではないな」


「妖者のアンタが神を見るとはね……」


「桂花よ、神も妖者もほとんど同じなのだぞ?人に信仰されるモノを神とし、捨てられしモノを妖者とするのだ」


「まぁ神でもなんでもええやん。早よ、占ってや」


「霞、意外とノリ気なのだな」


「当たり前やん、秋蘭。ウチかて乙女やもん。こういった話題は大好きやで。皆もそうやから集まっとるんちゃうんか?」


張遼が全員を見ると誰も否定はしなかった。


「では始めるとするか」


塵塚怪王は懐から鏡を取り出す。


「それは?」


「こやつは雲外鏡うんがいきょうという。これを通せば汝らにも妖者の姿を見ることができるのだ」


それは雲をあしらった飾りが付いた鏡だった。


「で、誰から見ればいいのだ?」


「ならば私からだ!」


と真っ先に手を挙げたのは夏侯惇だった。


「ふむ。では雲外鏡を覗いてみるがよい」


言われた通りに鏡を覗き込む夏侯惇。


「うん?何も変わらないぞ。私がいるだけだぞ」


「そう焦るでない。すぐに見えてくるのである………」


塵塚怪王のその言葉通りに今まで夏侯惇を写していた鏡が次第に雲がかかったように曇りだす。


それが晴れてくると鏡には夏侯惇にどこか似た単足単眼の者が写し出されていた。


「なんだ、これは!?」


「うむ。一本踏鞴いっぽんだたらであるな」


塵塚怪王は写し出された者の説明をする。


「単足単眼の者で製鉄・鍛治の神の眷属であるな」


汝に似合いであるな、と塵塚怪王は付け足した。


「それは私の“これ”のことを言っているのか?」


と夏侯惇は自分の眼帯を指す。


「ふむ、それもあるが………。汝は魏の“大剣”であろう?それに憑くが鍛治の神の眷属とは正に似合いであろうよ」


「ふふ。確かにそうだな」


「……次は誰を見ればよいのだ?」


「では次は私でいいか?」


次は夏侯淵が挙手する。


「うむ、秋蘭か………。では覗くがよい」


夏侯淵が鏡を覗き込むと鏡には巨大な鳥が写し出された。


「ほう。私は鳥か………」


「ふむ。以津真天いつまでんであるな」


「以津真天………」


「巨大な怪鳥である。矢により落とされた者だな。ふむ、それが弓使いたる汝に憑くとは中々面白いのである」


「なぁなぁ、次はウチでええか?」


塵塚怪王と夏侯淵の会話に張遼が割り込む。


「うむ。では………」


と塵塚怪王は張遼へと鏡を向ける。


「ウチには何が憑いてるんやろな、楽しみやわ~」


ワクワクしたように鏡を覗き込む張遼。


そして写し出されたのは牛のいない牛車だった。


「なんや?乗りもん?」


「ふむ。朧車おぼろぐるまであるな」


「朧車?」


「うむ。荷馬車の付喪神と認識で良いぞ。神速の用兵術と謳われる汝だからな。この者が憑いたのであろう」


「へぇ、なるほどな~。よう分からんけど速いってことやろ?」


「その認識で良いぞ」


塵塚怪王の説明にニカッと笑う張遼。


「じゃあ、次は私たち~」


と次は張三姉妹が手を挙げる。


「何かな、何かな~?」


と三人が覗き込む。


そこには美しい美少女が写し出された。


鈴彦姫すずひこひめである。鈴の付喪神であるな。歌い手である汝らとは良い相性と言えよう」


「へぇ、私たちは鈴か……。なんか良いわね」


張宝も満更でもない顔をする。


「風はやないのですか?」


「そうですねー。稟ちゃんと一緒なら良いですよー」


と郭嘉と程イクが二人で鏡の前に立つ。


「ふむ。稟が白澤はくたくで風はばくであるな」


白澤は知識を象徴とし、獏は人の悪夢を食うとされる者だ。


「流石、稟ちゃんですねー」


「風こそぴったりですよ」


と二人で笑うのだった。


「…………」


「何だ、桂花も気になるのか?」


荀イクが鏡を見ていることに気づいた夏侯惇が言う。


「べ、別に……たかが占いでしょ?気にならないわよ」


「まぁ、桂花の場合はオチが見えとるし、あんま面白ないしな」


「ちょっと霞!?それってどういう意味よ!?」


「いや、桂花やし。どうせ、猫又とか化け猫とかやろ?」


張遼の言葉に皆が頷く。


「な、何よッ!?私だって別にこんなもの………」


と荀イクがむきになり、叫ぼうとしたその時。


「いや、そうとは限らぬよ」


と塵塚怪王は言う。


「なんや、違うんかいな?」


「うむ。違うものであるよ」


張遼の言葉に塵塚怪王は荀イクを見て、言う。


「へぇ。ほな、桂花も試してみやええんとちゃう?」


「だから私はこんなのに興味ないわよ!」


「あら、別にいいじゃない」


「え?華琳様?」


「私も見てみたいわ」


「え、あ、いや………」


「見てみたいわ、桂花?」


あたふたとする荀イクに曹操は笑顔で言う。


「………はい」


と諦めたように鏡の前に立つ荀イク。


そして、鏡に写し出されたのは………。


「―――猫じゃない……」


猫だった。


キッと塵塚怪王を睨む荀イク。


「否。この者は猫ではないぞ」


「なに言ってるのよ!?どう見ても猫じゃない!?」


「見た目に惑わされてはならぬよ。この者の名は五徳猫ごとくねこ


と塵塚怪王は言う。


「この者は五徳の付喪神である」


五徳とは囲炉裏などで鍋などを置く器具のこと。


「つまりは似非えせ猫ちゅうことかいな?」


「ふむ。まぁ言葉は乱暴であるが……良いだろう」


と塵塚怪王もそれを肯定する。


「確かに単に猫又よりは桂花にはお似合いやな」


「なによ……」


張遼は荀イクのフードを見るのだった。


「それじゃ、私も見ようかしら?」


曹操も鏡を見る。すると……。


「あら?これは誰かしら?」


そこに映し出されたのは茶色の髪に鳶色の瞳、整った顔立ちをした男が映し出されていた。


「うむ。それは我輩であるな……」


『…………え?』


一同が塵塚怪王の顔を見る。


「うぬ?言っていなかったか?我輩は華琳に憑いておるのだぞ?」


「そこじゃないわよッ!?貴方、こんな姿をしていたの!?」


曹操は鏡を指差し言う。


「あぁ、そこなのであるか。それは我輩のもう一つの姿であるな」


「なんでこの姿で居ないのよ。そっちの方が………」


「うぬ?この方が妖者らしいではないか」


意外にもイメージを気にする塵塚怪王であった。





今日も賑やかな魏であった。


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