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24話 打つ拍子木






―――――――――――――――







「ヤダヤダッ!食べたいって言ったら食べたいのぉ!」


「もう天和姉さん、あまり我が儘言わないでくれる?」


ここは張三姉妹の事務所である。


興行の合間のたまの休みの日。


なにやら中が賑やかな様子だった。





「一体何を騒いでいるんだい?外からまる聞こえだったゾ」


扉が開いて、中に入ってきたのは鬼一口だった。


張三姉妹の世話役は塵塚怪王の仕事なのだが、塵塚怪王が忙しい時にはこうして鬼一口が代理として来る事が度々とあるのだった。


「あら、鬼一口さん。もう打ち合わせの時間だったかしら?」


「いや、まだ早いゾ。ボクは暇だからね。こうして早く来ることもあるんだゾ。それにしても何を騒いでいたんだい?」


「はぁー。それが天和姉さんのいつもの我が儘なのよ……」


と張梁はため息を吐く。


「だってお姉ちゃん、あそこの桃まんが食べたくなったんだもん!」


張角が腕を振り上げて言う。


「桃まん?それなら買ってこればいいんだゾ?そんなにお金に困っていたのかい、キミたち?」


カクンと首を傾げる鬼一口。確かに今は曹操の元で雇われてると言ってもそれほど裕福ではないが桃まんくらいは買えると思う鬼一口。


「それがちがうのよ」


張宝が鬼一口に言う。


「姉さんが言ってる桃まんってのはちぃたちがまだ旅芸人だった頃に立ち寄った村のものなのよ。結構昔の事だからどこの村だったかも分かんないし。それにちぃたちは華琳の土地しかいけないから、もし遠くだったら行けないのよねぇ。あー、なんだか話してたらちぃも食べたくなってきたじゃないのッ!!」


「それをボクに言われても困るゾ!?」


と鬼一口は言う。


「へぇ、でもそんなに美味しいのかい、その桃まんは?」


「そりゃ、美味しいのなんのって言ったら……」


と二人がごくりと唾を飲み込む。


「確かに今まで食べたどの桃まんよりは美味しかったわね」


張梁も首を縦に振る。


「そうなのかい。なら一度食べてみなければ鬼一口の名折れだね」


鬼一口はぺろりと口を舐める。


「でもそれがどこのか分からなくちゃ取り寄せもできないのよ?」


「分からないなら知ってそうなやつに聞けばいいんだゾ、人和」


「人に聞く?でも誰に?」


「季衣ちゃんや流琉ちゃんとか?」


「いや、ボクの知り合いにもっといいのを知ってるゾ」


と鬼一口は事務所から出て行く。三人もそれに続いていく。





「さて、十分な余地はあるし大丈夫だね」


と事務所から少し離れた開いた場所まで来ると鬼一口は止まる。


「なに?もしかして穴でも掘って、そこから桃まんが出てくるわけ?」


張宝が冗談めかして言うと………。


「おしいゾ、地和。地面ではなく、空だゾ」


と空を指差す鬼一口。


「はぁ?空って………」


三人は空を見上げるがそこにはただ蒼天が広がっているだけだった。


「本来は定期的に来るものなんだけど、こうして急ぎの時はこちらから呼べるんだゾ」


鬼一口はそう言うと懐から一粒の飴玉を取り出す。


それを開いた場所に放り投げる。ポトンと地面に落ちるソレ。


「あぁ、勿体ない~」


「いや、キミはいつから食いしん坊キャラに路線を変えたんだい?ボクの専売特許を取らないでほしいゾ」


張角に呆れたように言う鬼一口。


そんなことをしていると…………。


――――カーン、カーン。


乾いた木を打ち鳴らす音が聞こえてきた。


「え?なになに?」


「あれ?あそこに女の子が居るよ?」


とさっき鬼一口が飴玉を放り投げた場所に少女が立っていた。若干右頬が膨らんでおり、何かを口の中でコロコロと転がしているのは気のせいなのか……?


「鬼一口さん、あれは何?」


「あれかい?あれはね、送り拍子木さ」


「送り拍子木?」


「まぁ、あれは本命の前の前座みたいなものだよ。本命は………ほら、来たゾ」


と上を向く鬼一口につられて三人が上を向くと、そこには変わらず蒼天があった。


………いや、蒼天の中に黒い丸が見えた。それは次第に大きくなり――――。


「―――って、何か落ちてくるッ!?」


ズドーンッと土煙が舞い上がる。


「な、何なのッ!?」


と土煙が段々と晴れてくるとそこには………。


「へい、毎度!ご利用ありがとうございます、鶴瓶落とし運輸です!!」


ねじり鉢巻きをした男と………。


「ご利用ありがとうございます~。たんたんころりん商店です~」


いかにも商家の娘のような女性が姿を現す。


『…………』


唖然とする三人。


「やぁ、ご苦労様だゾ、二人とも」


『ッ!?』


二人は鬼一口の姿を見ると肩を震わせる。


「ど、どどど、どうも、鬼一口さん。きょ、今日はどんなご用ですか……?」


「あ、あの~、きょ、今日はそんなに食べ物の在庫は………」


何故か恐縮している二人。


「何したのよ、アンタは……?」


「うん?ちょっとお腹が空いたから………ね?」


と鬼一口はぺろりと舌を出す。


「今日は別にそういうのじゃないゾ。実は…………」


と状況を説明する鬼一口。


「美味しい桃まんですかい?たんたんの、知ってるか?」


「う~ん、どの辺りとか大体の場所でもいいので、分かりませんか~?」


「確か駆け出しの頃だから、大陸の西側だとは思いますけど……」


たんたんころりんにそう答える張梁。


「でもこれだけじゃ無理ですよね?」


「――――大丈夫ですよ~」


『……え?』


「むしろ大陸中を探さなくていいだけ助かります~」


「なんだ、西側だけでいいなら簡単だな」


と二人は顔を見合わせて言うのだった。


「え?探せるの?たったそれだけで?」


「お安い御用ですよ~」


驚く張宝にたんたんころりんは笑顔で答える。


「私たち商人にとって情報は命ですから~。それではお取り寄せでよろしいですね?」


「うん。頼んだゾ」


『毎度』


と二人がそのまま走ってどこかに行ってしまう。


そこに残っているのは未だ、頬の内側でコロコロと飴を転がしている送り拍子木だけだった。






「これで良し、っと……」


「すごいわね、あの人たち。普通あんな大まかな情報で請負ったりしないわよ」


「そうなのかい?まぁ、普通はそうなんだろうね……」


と鬼一口は意味ありげに言う。


「それでどれくらいかかるのかしらね?二、三ヶ月はかかるとして……」


と張梁がそう言うと………。


――――カーン、カーン。


飴を頬張っていた送り拍子木が再び木を打ち鳴らし始めた。


「え、まさか………」


三人は空を見上げる。とそこには先ほど見た憶えのある黒い点が近づいてきていた。


「お待たせしまして~。たんたんころりん商店です~」


「ご依頼の品お届けにあがりました」


再び釣瓶落としとたんたんころりんが降ってきた。


「え?もう見つけてきたの?」


「へい、こちらになります。ご確認を……」


と釣瓶落としが熱々の桃まんを張角に手渡す。


「………はむ。うぅん~!?これこれ、これだよ!お姉ちゃんが食べたかったのは!」


一口食べると頬を緩ませる張角。


「ホントに!?………もぐ。あ、ホントだ」


張宝と張梁もそれを頬張ると目を見開く。


「もぐもぐ。うん、確かにこれは美味しいゾ」


鬼一口もそれを頬張るのだった。


「本当にあの短時間で探して、持ってきたの?」


「お客様の要望に応える。それが商人ってもんだからな」


「素早く、的確に~がモットーです~」


二人はそう言って胸を張る。


「凄いわね……」


「それでは御代はこちらになります~」


とたんたんころりんが紙切れを鬼一口に渡す。


「もぐもぐ……。はい、人和ちゃんよろしく」


それをすぐさま張梁に渡す鬼一口。


「………ッ!?ゴホンッゴホンッ」


それを見て、咳き込む張梁。


そこには一般的な桃まんの値段の数倍の値段が書かれていた。


「ちょっと、これ値段間違えてませんか?」


「いやいや、間違いはありません」


「いや、これはちょっとおかしく………」


「内訳としましては桃まん自体の値段がこれくらいです~」


そろばんを取り出して、値段を示すたんたんころりん。


それは一般的な桃まんよりも安かった。


「それに加えて、お取り寄せの手数料が合わさりまして~、これくらいですね~」


「それも妥当ね……」


その値段も一般的なものだった。


「これに各個数分を掛け合わせますと~………」


そしてここからが問題であった。


「張三姉妹の方が各二個ずつと――――鬼一口さんが五十個でこの値段となります~」


「!?」


そこで張梁は鬼一口に振り返る、が………。


……………………。


そこには誰も居なかった。


――――クイックイッ。


そこで張梁の袖を送り拍子木が引っ張り、紙を渡す。


そこには…………。


『ご馳走様、だゾ』


と書かれていた。


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