23話 ある雨の日に……
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反董卓連合は洛陽へ“何の障害もなく”入った。
だが既に洛陽には董卓は居らず、城内はものけの空だった。
そして反董卓連合はそこで解散となり、各諸侯は各々の土地へ帰っていった。
反董卓連合から数日後のとある雨の日。
―――ガシャガシャ。
廊下を塵塚怪王が歩いていた。
「あれ?怪王さんなの~。どこか行くの~?」
「うぬ?沙和であるか。少し野暮用でな」
「外は雨なの」
「うむ、知っておるよ」
于禁の言葉に塵塚怪王は空を見上げる。
曇天からぽつぽつと雫が降り注いでいた。
「大丈夫なの?」
「何がである?」
「だって雨に濡れたら、その顔ふやけちゃうの」
とビシッと塵塚怪王の頭、段ボールを指差す于禁。
「問題はない」
「そうなの?でも湿気とか吸っちゃうからちゃんと替えを用意しとかないと駄目なの」
「ふむ。そうであるな…………って、我輩のこれは被り物ではないぞッ!?」
「…………うむ」
塵塚怪王は空を見上げる。
雨が未だにしとしと降っていた。
「これ、塵王よ。あまり頭を傾けるでないわ。妾が落ちてしまうであろう」
とそこで塵塚怪王の頭の上から声がする。
「おぉ、すまない」
塵塚怪王は頭を戻し、そう言う。
「全く。妾を乗せていることを忘れるでないわ」
ひょこりと塵塚怪王の頭の上から拳ほどの大きさの少女が現れる。
小さな(物理的意味で)少女はまるで雛人形のように小さな十二単を着ていた。
「申し訳ない、一目連殿」
塵塚怪王は頭の小さな少女―――一目連に謝る。
「よいよい。妾は心が広い故………」
一目連は小さな扇を開きながら言う。
「では、早う、参ろうぞ」
ビシリと扇で正面を指す。
雨の中、塵塚怪王は傘を差さずに歩いていた。だが、雨に濡れる様子はなかった。
まるで雨が自ら避けていくかのように塵塚怪王の頭上には雨が降りはしなかった。
「ふむ。助かるのである、一目連殿」
「よいよい。塵王にはこうして世話になっておるのじゃ。その礼ということじゃ」
どうやらそれは頭の一目連がしているようだった。
「それにしても良いの、雨は」
と一目連がキャキャッと笑う。
「のう、塵王もそうは思わぬか?」
「うむ。我輩はこの体故、あまり外は歩けぬが、雨の日の空気は澄んでおり良いと思う」
「そうでじゃろ、そうでじゃろ。雨とは大地を潤す恵みなのじゃ。感謝こそされ厭われるものではないのじゃ」
塵塚怪王の言葉を聞き、一目連は笑みを浮かべる。
「だが、それにも加減があると我輩は思うのであるが………」
「……うん?なんじゃ、塵王よ。何が言いたいのじゃ?」
「一目連殿。こうも雨が続いては人が働けぬのだよ。晴耕雨読、晴れておるときに人は主に働くのである。こうも長く降り続いては働けず、飢えてしまうかもしれないのだ」
「ふむ、人とは難儀じゃの………」
「……であるからしてそろそろ雨を止めてもらえぬであろうか?」
もう雨が降り続いて、丸7日。一週間も雨が降り続いては川の氾濫などの心配もされる。
それが今、大陸全土で起こっているのだった。
「一目連殿。今日、お呼びしたのはその為なのである」
「…………」
「頼めぬであろうか、一目連殿?」
「………ふむ、仕方ないのじゃ。妾もお主に頼まれては断れんのじゃ」
ふわりと一目連が塵塚怪王の頭の上から浮かぶ。
「じゃが、タダではしないのじゃ、塵王」
「うむ。それなりの対価は払おう」
塵塚怪王は一目連を見上げて言う。
「そうじゃの………饅頭でもいただくのじゃ。とびっきり甘いやつじゃ!」
「流琉に頼み、最高の饅頭を供えよう」
「ふふふ。楽しみにしておるぞ」
そう言うと一目連は空へと高く昇っていく。
すると曇天がみるみる内に晴れていくのだった。
「美味なのじゃ!」
はむはむと自分の体ほどもある饅頭に文字通りかぶり付く一目連。
「ふむ。気に入ったようで良かったのである」
塵塚怪王は椅子に座り、机の上に乗る一目連を見ながら言う。
「うん?なんだか美味しそうな匂いがするゾ」
饅頭の匂いに誘われて鬼一口がやって来る。
「あ、美味しそうだね。ボクも一ついただくよ」
と鬼一口が饅頭に手を伸ばすと…………。
「これ!この戯けが!これは妾への供え物じゃ。勝手に手を出すでないわ!?」
それを扇で打つ一目連。
「………なに、この小さいの?ムカつくゾ」
「なんじゃ、貪口風情が妾を小さいの扱いとはいい度胸しとるの………」
バチバチと火花を散らす二人。
「鬼一口よ。こっちに我輩のものがある。これを食べれば良いだろう」
「本当かい?じゃあいただくゾ」
塵塚怪王から饅頭を受け取ろうと鬼一口が手を伸ばすと…………。
「隙ありなのじゃ!」
それを横から一目連がかぶり付く。
「なッ!?」
「ふぇふぇふぇ」
もぐもぐしながらも笑う一目連。
「な、なな、何してるんだよ!?」
「……ぐもぐも、ゴクン。全ての饅頭は妾のものじゃ」
「なに、このチビ!?ムカつく!!」
やはりバチバチと火花を散らす二人。
「何をしているのであるか………」
「………もぐもぐ」
呆れる塵塚怪王に密かに饅頭を頬張っている古戦場火。
「随分と騒がしかったな」
「中々楽しいものじゃな、こういうのも」
屋根の上に首にマフラーを巻いた少女とまるで雛人形のような少女が座っていた。
「まさか貴女があそこまで羽目を外すとは思わなかったぞ」
「妾とて羽目を外したい時くらいあるのじゃ」
それに、と小さな少女―――一目連は言う。
「そなたの半身は中々に良いものじゃからの。つい妾も調子に乗ってしまったのじゃ」
「………そうだな」
それにマフラーを巻いた少女―――白容裔も頷く。
「私もあれには期待をしているのだ」
「………ほほう」
「な、何なのだ?」
「いや、妾の友がここまで変わるとはの思わなかったのじゃ」
「ふん。変わらねば何のために国を離れて、ここまで来たのか分からぬではないか……」
一目連の言葉にそっぽを向く白容裔。
「そうじゃったの………。なに、あやつならきっと上手くやってくれるのじゃ」
「そうだと良いのだかな」
「まぁ、今宵は旧き友の再会を祝うのじゃ」
といつの間にか手に持った盃を掲げる一目連。
「いつ以来かの?そなたと酒を交わすなど………」
「あの引きこもりが天の岩戸に閉じこもって以来だな」
「そうじゃったか。ならば随分と久しいのじゃな」
「ふん。私ら神代の者らにとって悠久の刻だろうと、刹那の刻だろうと同じであろう」
「違いないのじゃ……」
そんな会話が風に流されていくのだった。




