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19話 ぶらぶらと歩く。最終的には太陽に向かって走る編









―――――――――――――――









「…………だから、何故我輩は汝の陣内に居るのである?」


「えぇ~、良いじゃない。暇なのよ、私。冥琳も軍議から帰ってこないし」


椅子に座りながら首を捻る塵塚怪王に孫策は笑いながら言う。


「それは構わぬが、曹操の陣については………」


「あぁ、大丈夫よ。今、詳しそうな子に調べさせてるから」


「うむ………」


と腕を組む塵塚怪王。


「であるならば、汝に付き合うのが道理であるな」


「あら。義理堅いのね」


「否。義理や恩でなく、単なる対価。等価交換であるよ」


「ふふふ。やっぱり貴方は面白いわね。貴女もそう思うでしょ、趙雲?」


「そうですな、孫策殿」


と二人が笑うのを塵塚怪王は不思議そうに見ていた。


(やはり人とは様々であるな………)


「で、何をして汝の暇を潰せばよい?」


「そうね…………。貴方、武か―――」


「武官ではないぞ」


孫策に趙雲と同じ波長を感じ取った塵塚怪王は先回りして言う。


「あら、そうなの?」


孫策は趙雲を見ると、趙雲も頷く。


「えぇ!?それじゃ、つまらないじゃない!ブーブー」


とまるで子供のように膨れる孫策。


「そう言われても困るのであるな。我輩は曹操の矛である故、主なき今はただの鉄屑であるのだが。うむ…………」


何やら思案する塵塚怪王。


どんな名案が出るのか、と二人は塵塚怪王を見る。


「………飴でも食べるであるか?」


―――ズコッ。


二人が転ける。


「うぬ?どうかしたのであるか?」


口からポロリと二粒の飴玉を出しながら塵塚怪王は言う。


「やはり、怪王殿はおかしな人だ………」


呆れているのか、それとも納得しているのか、趙雲は薄く笑う。


「失礼しま~す」


とそこで間延びした声が外からかかる。


「雪蓮様~、曹操さんの陣の場所が分かりました~」


と入ってきたのは髪が両サイドに広がる少女だった。そして最大の特徴といえば、そのたわわに実る双丘!!少女が動く度にたゆんたゆんと……………。


「あら、穏。早かったわね」


「はい~。大急ぎでやりましたから~」


とゆっくりな口調で言う少女。


「紹介するわね。彼女は陸遜。ウチで軍師補佐をしてもらってるわ」


「どうもです~」


孫策に紹介されて頭を下げる陸遜。


「うむ。我輩は塵塚怪王である」


「趙雲です」


「ほへぇ~。大きな人ですね~」


塵塚怪王を見上げて、そう漏らす陸遜。


「それで穏、曹操の陣営はどこだったの?」


「はい~。こちらに~」


と陸遜は手に持っていた竹簡を孫策に渡す。


「あら、意外に近いわね」


それを確認する孫策。


「はい。これで帰れるわよ」


「うむ。手間を掛けさせたな」


塵塚怪王は孫策からそれを受け取り、頭を下げる。


「別に良いわよ。それに貴方に恩を売っといて損はなさそうだし………」


「何故、そう思うのである?」


「勘よ♪」


「ふむ。直感、であるか………」


塵塚怪王は孫策を見る。


「何かしら?」


「いや……。うむ、我輩からすれば汝らの方が実に面白味があると思うのだがな」


そして続けてこう言った。


「――――このように“同じ容姿”でこうも違った中身を持つのだからな」


『はぁ?』


「うぬ?何を呆けておるのだ、汝ら?」


「ちょっと、同じ容姿って………。全然違うじゃない」


「ぬ?そうであるか?頭部には目と鼻、口などの穴があり、そしてその下に胴部が付き、それに手足などが取り付いている。同じではないか」


と各部を指差しながら塵塚怪王は言う。


塵塚怪王にとって人の区別などつきはしないのだ。男女も、老若も見分けなどついてはいなかった。


「怪王殿、それではどうやって我々を見分けているのですか?」


「中身である、趙雲よ」


さも当然のように言う塵塚怪王。


「中身って………。気のようなものかしら?」


「うむ。そのような理解で良いよ」


『…………』


改めて塵塚怪王の異質さに驚くのだった。









「雪蓮様、ただいま戻りました」


と孫策の後ろに二人の少女が現れる。


「お帰りなさい、思春、明命。で、どうだった?」


「はい。まだ時間が掛かりそうかと……」


「そう。あーあ、早く戦いたいのになぁ」


と孫策は少女からの報告につまらなそうに答える。


「…………」


塵塚怪王は現れた少女たちを凝視する。


「あぁ、紹介するわね。この子たちは………」


「――――汝ら、何処から来た?」


塵塚怪王の口調が厳しいものとなった。


「?……大丈夫よ、この子たちは仲間で………」


「否、そういうことではない。この者らはどこから戻ってきたのであるかと聞いたのである」


塵塚怪王の鋭い眼光が二人を射抜く。いや、二人の後ろを見ているのだ。


「………軍議が行われている天幕よ」


塵塚怪王の雰囲気に呑まれて、孫策が言う。


「そうであるか………」


塵塚怪王は立ち上がり、入り口へ向かう。


「どこに行くのよ?」


「少々用が出来た。すまぬな、折角調べてもらったが無駄にしてしまい」


それだけ言って、塵塚怪王は振り向きもせずに天幕を出ていく。










「はぁ…………」


曹操は軍議の場で人知れずため息を吐く。


(全く。埒がないわね………)


軍議は停滞していた。


それは総大将を誰にするかという議題についてだった。


どう見ても袁紹がやりたそうにしているにも関わらず、自ら言うことがないのだ。他の者はそんな面倒な役はやりたくはない。


しかし、もし袁紹を推薦すれば、面倒事を引き受けることとなる。


それ故に軍議は全く進まず、停滞していたのだった。


「………桂花、この下らない茶番を終わらすいい策はないかしら?」


曹操は隣に座る自分の軍師に小声で意見を求める。


「………すみません」


だが、出てくるのは消極的な言葉だった。


(……何かしら、この違和感は?)


荀イクの言葉を聞いて、曹操は何か分からないものを感じた。


(どこかで似たような感覚を感じたような気がするのだけれど………)


と曹操が考えに更けようとした時………。




「邪魔をするぞ」






その声と共にガシャガシャと音が聞こえた。


そして見知った巨体が姿を現す。


「怪王?何故、貴方がここに?」


「ふむ。これは予想以上であったな」


と塵塚怪王は曹操の近くまで歩く。


「どうしたの、何かあったのかしら?」


「何かあるのはこの場である」


そう言うと塵塚怪王は周りを見渡す。


「洛陽にばかり目を取られておった。まさかこのような場からは手を出してくるとはな………」


憎々しげに塵塚怪王は呟く。


「なんなの?」


いつもの塵塚怪王とは少し違い、焦っているかのような口調に曹操は思わず、塵塚怪王を見上げてしまう。


「この場には震々(ぶるぶる)が取り憑いておる」


「震々?」


「臆病神の一種でな、人の不安や猜疑心を煽るのだ」


塵塚怪王は簡単な説明を済ませる。


「元よりこの場は腹の探り合いをしておったのであろう?それが更に震々に付け入る隙を与えたのだ」


「それのせいで軍議が遅れているの?」


「まぁ、そうであるな。元より遅れているものが更に遅れておる」


「それは困るわね。このままでは連合自体が自然崩壊しかねないわ」


塵塚怪王の言葉を聞き、曹操は考える。


「怪王。貴方、私の蠱毒の時のようにそれを取り除くことは出来ないの?」


「………無理であるな」


曹操は期待を込めて聞くが、返ってきたのは否定の言葉であった。


「先程も言ったが震々は“この場”取り憑いておるのだ。個人に取り憑いたものであれは容易だが、場全体では無理だ」


「そう………」


と次の策を考え出す曹操。だが、そこで今最も聞きたくない声が聞こえた。


「ちょっと華琳さん、そのみすぼらしい殿方は貴女の所の者ですの?勝手に軍議の場に入ってきて、礼儀がなっていませんわよ」


「………それは失礼したわね、麗羽」


と曹操は声のした方―――天幕の上座を見る。


そこにはたて巻きロールの豪勢な鎧を着けた女性が座っていた。


その女性こそ、連合の発起人、袁紹であった。


「………ほう。これは珍しきことがあるものだ」


塵塚怪王は袁紹を見て、驚きの声を上げた。


「な、なんですの?」


塵塚怪王に見られ、たじろぐ袁紹。


「いや、すまないな。人自体に金霊が取り憑いているとは思わなくてな」


「な、なな、何がわたくしに取り憑いているですって!?」


塵塚怪王の言葉に明らかに動揺する袁紹。


「で、でで、出鱈目でたらめなことを言うのはおよしなさい、貴方!」


「うぬ?……あぁ、言い方が悪かったな。天に愛されている、そういう意味である」


「なんですの、そういうことならそうと初めからおっしゃいな。そんなことは当たり前ですわ。なんせわたくしは名門、袁家の袁本初なのですから。おーほっほっほ」


と高笑いをする袁紹。


「ご機嫌取りが上手いわね、怪王」


「ご機嫌取りではないよ、華琳。あの者に金霊が取り憑いているのは確かである」


「その金霊ってのは?」


「金の精とでも言えば分かりやすいか?謂わば金を呼び込むものである。普通ならば家や蔵に取り憑くのだが………。我輩も人に取り憑いた例は知らぬよ。正に天の采配であろうな」


塵塚怪王はそう言うと興味深そうに袁紹を見るのだった。


「貴方、みすぼらしいわりには中々見る目がありましてよ。それに免じて軍議への参加を許可して差し上げますわ」


高笑いをしながら袁紹が言うのだった。


そして軍議は再開された。とはいえ、震々の取り憑いた場では建設的な話し合いなど行われるわけもなく、塵塚怪王の参入前となんら変わらない茶番が続くだけだった。


(これは不味いであるな。出来るならば早めに洛陽へ入りたいのだが………)


どうやら状況は塵塚怪王が思っていた以上に深刻だった。


「では改めて聞きますわよ?誰が総大将に相応ふさわしいかを………」


これでもう十数回目になる袁紹の言葉だけが天幕に響く。


だが、この消極的な場にそれに応えるものはいなかった。


「………汝はやらぬのか、天に愛されし者よ?」


いや、一人だけ居たのだった。


「なんですの、怪王さん?わたくしを推挙いたしますの?」


塵塚怪王の言葉に頬を緩ませる袁紹。


「いや、我輩にはそんな権限はないよ。ただ天に愛されし者ならば自ら手を挙げるのではないか、そう思ったまでである」


塵塚怪王は袁紹を見る。


「う………た、確かにそうですわね。誰も立候補が居ないと言うのならばわたくしがやってあげてもよろしくてよ」


とまんまと塵塚怪王の口車に乗り、総大将が決まったのだった。


「よくやったわね、怪王」


「なんのことである?」


曹操の言葉にしらを切る塵塚怪王。


(あまり時間をかけるのは得策ではないか………)


そして塵塚怪王は既に次について考えていた。


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