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1話 村の塵芥の王









―――――――――――――――







「あれは……?」


少女―――古戦場火が遠くに見えた村を指差す。


「あれは我輩の村だ」


男―――塵塚怪王は答える。


「むら?」


「人が集う場所である。あそこには多くの人が集い、生活をしておる。汝も今日からあそこで暮らすと良い。一人でできるようになるまでは我輩が面倒を見よう」


と塵塚怪王は古戦場火の頭を撫でる。


「そうであるな。汝に真名を与えねばならぬな」


「まな?」


「真名とはその者のもう一つの名。人の世での風習ぞ。親しき者との間でしか呼べぬ名だ」


塵塚怪王は古戦場火に教える。


まるで親が子に物事を教えるかのように……。


「我輩が付けてやろう。そうだな…………灯火あかりでどうだ?」


「………あかり」


「うむ。汝に似合いの名であろう」


ガシャガシャと音を鳴らし、歩く塵塚怪王。


そして古戦場火も後へと続いた。







「今帰ったぞ」


「あ。怪王さんなの」


塵塚怪王が村の門を潜るとそばかすと眼鏡が特徴の少女が気づいてこちらにやって来た。


「おかえり~、なの。って、あぁ!また怪王さん、拐ってきたのぉ~」


少女は怪王の後ろに隠れていた古戦場火を見るとわざとらしく言う。


「真桜ちゃんに言いつけちゃうの~」


と走っていった。


「相も変わらず騒がしい女子おなごであるな」


「あれは……?」


古戦場火が走っていった少女を指差す。


「あれは于禁という。この村で義勇軍をしているものだ」


そういうと塵塚怪王は構わずに歩いていく。


その後をトテトテと古戦場火がついていく。










「ホンマや、また怪王が女の子拐ってきとるやないか!」


と次に現れたのは工具を腰に下げた少女だった。


「汝らはどうしても我輩を人拐いにしたいのようだな?」


「ちょ、顔近いて、怪王」


現れた少女にずい~と近づく、少女の鼻先に段ボールの顔がある。


「そう。我が名は塵塚怪王である!人などをかどわかすなど、万に一つもありえはせぬわ!」


「わ、分かったから、ちょいと離れてや」


「うむ。分かればよいのだ」


少女から離れ、満足そうに頷く塵塚怪王。


若干少女の顔が赤かった。


―――クイクイ。


そこで古戦場火が塵塚怪王の腕を引く。


「ん?おぉ、すまぬな。こやつは李典だ。この者は新たな我が眷族、古戦場火だ」


「あぁ、またその設定かいな」


呆れたようにものをいう李典。


それもそのはず塵塚怪王は見た目胡散臭いが古戦場火は見た目ただの少女なのだ。


「それでその子も怪王が育てるんか?」


「当たり前であるな。我輩は我が眷族が一人立ちするまで見守る義務がある。それが人ならざる者を統べ―――」


「はいはい。ご高説痛み入りますわぁ」


「ふぬぅあぁぁぁぁ!!」


「ちょ、叫びながら追いかけんといてぇな!めっちゃ怖いて!」


段ボール男が李典を追いかける。


とてもシュールな光景だが、村ではこれが日常の風景であった。








「あ、かいおーだ」


「ほんとだあそんで、あそんで」


塵塚怪王が村を歩けば子供たちがバラバラと寄ってくる。


「うぬぬ。腕を引っ張るでない、小僧」


そして瞬く間に囲まれる。


「あはは。また怪王さんが子供たちに遊ばれてるの」


それを遠くから見ている于禁。


「あれで村の人気者やからな」


その隣で李典も言う。


「それもそうだろ。子供だけではなく大人たちも怪王さんを頼りにしているぐらいだ」


そして傷の目立つ少女―――楽進も頷く。


「畑仕事に大工仕事、何でも頼めばやってくれる便利屋さんなの」


「こら、沙和。それは誉めているのか?」


「最高の誉め言葉なの」


「聞こえているぞ、そこの三人」


『ひゃい!?』


ぐるりと首だけが回って三人に向く塵塚怪王。


「汝らだけ仕事もせずにお喋りか。よいご身分のようだな」


ガタガタと体を揺らして怒りを表している塵塚怪王。


「よぉし、小僧らよ。汝らもあの娘らと遊ぼうではないか」


『わぁい』


「ちょ、ちょっと待つの。沙和たちはまだ仕事が……」


「問答無用である!」


と子供たちと首が反対に向いた塵塚怪王と三人娘の追いかけっこが始まった。


これもこの村ではよくある風景であった。










――――トントン。


月の昇る夜。


塵塚怪王が塀の補修を行っていた。


「いつも精が出るな、自分」


「……ふん、真桜か」


塵塚怪王は振り返らずに言う。


「ほら、夜食作ってきたで」


「汝がか?」


「そ、そうやで」


「嘘がバレバレであるな。汝が料理ができるなど聞いたことがないわ」


「なら聞かんといてや」


「うむ。では料理屋の女将に感謝し頂くとしよう」


と段ボールの被り物の下から食べ物を入れる塵塚怪王。






「なぁ、何で怪王はこの村に居るんや?」


「異なことを聞くのだな、真桜よ」


「そないおかしなことやろか。ウチの村はお世辞にも潤っとるとは言えんよ。村を出てったやつは多いで。残っとるんはじいさんたちに女子供、それにウチら義勇兵の連中や」


そう。この村で働く手は殆どが義勇兵と兼業している。


そして塵塚怪王は義勇兵には入ってはいなかった。


「我輩は義勇兵にはならぬぞ。我輩はことわりから外れし者だ。人の喧嘩には介入できぬな」


「ちゃうちゃう、そうやないで。ただあの子らを養うんならもっといい所があるんとちゃうかって思うんや」


「構わぬよ」


そう言って塵塚怪王は李典へ向く。


「我らは人ならざる者。人の理では計れはせぬよ。潤沢な生活などは我らは望まぬ。我らが望むは…………」


「すぅすぅ」


「人の話の途中で寝るやつがあるか……」


隣で寝息を立てる李典にため息を吐く塵塚怪王であった。


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