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18話 ぶらぶらと歩く。時には曲がる編







―――――――――――――――








「うぬ?」


塵塚怪王が歩いていると何やら音が聞こえた。


それは鉄と鉄のぶつかり合う音だった。


「まだ戦は始まっておらぬよな………」


と周りを見渡す塵塚怪王。


「……うむ。まぁ、我輩には関わりないか………」


と塵塚怪王は魏の陣に向けて歩く。









「うむ。……………ここはどこである?」


塵塚怪王の目の前には“劉”の旗が靡く天幕があった。


「…………迷った、のであるか?」


首を捻り、腕を組む塵塚怪王。


「そこの者!ここで何をしている!?」


塵塚怪王の後ろから声が掛かる。


といいますかデジャヴな感じがしてならない。


「おや?随分と変わったご仁だな」


違ったのは相手が二人であったことだろうか。


「うむ、すまないのである。少し道に迷ってしまったようでな」


前回の反省を活かして、対応をする塵塚怪王。


相手は長い綺麗な黒髪の少女と際どい服を着た水色の髪の少女だった。両者とも立ち振舞いから武官であることが分かる。


「我輩は塵塚怪王という。曹操の所で厄介になっている者だ」


「そ、そうでしたか。失礼しました」


と黒髪の少女が頭を下げる。


「いや、我輩の方に非がある。謝らずともよい」


「私は平原の劉備様の臣下で、関羽と申します」


「同じく趙雲と申します」


「うむ。では汝らよ、曹操の陣営がどこにあるか知っておるか?」


「いえ、すみません。分かりません」


「なにせ、この場には野心ある諸侯がひしめいておりますからな」


「………そのようであるな」


塵塚怪王は趙雲の言葉に辺りを見渡す。


何匹か“ねずみ”が確認できる。


「だが、なにやら軍議は長引いておるようだが?」


「それはですな、怪王殿。手柄は欲しいが、泥は被りたくない者が多いのですよ」


「こら、星!?」


「良いではないか、愛紗よ。別に隠すことでもあるまい?」


「うむ。汝の言う通りであるな。別段、はばかる必要もあるまいよ」


「は、はぁ………」


まだ弱小である自分達が他の諸侯を悪く言っていいものなのかと考える関羽。


「ところで怪王殿。貴方は武官なのですかな?」


「うぬ?何故そのようなことを訊くのであるか、趙雲よ」


「それはあの名高き曹操殿の所にいる怪王殿だ。さぞ腕が立つに違いない、と思ったまでですよ」


と趙雲が己の槍を示す。


「否。我輩は武官ではないぞ」


「ほう、これは意外な。ではその成りで文官ですかな?」


「それも否であるな。我輩は武官でも文官でもない」


「………では何だと?」


「うむ。汝らの分かる言葉で言うならば………」


と塵塚怪王は趙雲の槍を見る。


「………矛である」


「矛?」


「そうである。我輩はあの者の得物である。力を貸すが使い方は示さぬ。我輩の力をどう使うかはその者次第」


と塵塚怪王は言う。


「あの者が望むなら天をも落としてみせるぞ?」


『…………』


塵塚怪王の言葉に二人が黙る。


それは冗談なのだろうが、何故か二人にはそれが本気に聞こえた。


塵塚怪王の雰囲気にはそう思わせる何かがあった。


それは人としての本能か…………。


「うむ、長居をしても悪かろう。我輩は行くとしよう」


「み、道は分かるのですか?」


「ふむ。歩いておればいずれ着くであろうよ」


とガシャガシャと体を鳴らして歩くのだった。









「――――それで、何故汝は我輩に付いて来るのであるか?」


塵塚怪王は自分の一歩後ろを歩く趙雲を見る。


「いやなに、私もこちらに用があるのですよ」


「我輩には面白味などないぞ」


「何も言うておりませんが?」


そう言う趙雲の顔はなにやら笑みを含んでいた。


それはイタズラを思い付いた子供のように………。


「まぁ、構わぬがな………」


そしてガシャガシャと歩く塵塚怪王。その後ろを趙雲が付いていく。









「うむ。ここも違うのである」


塵塚怪王が見上げる先には“袁”の旗が靡いている。


ただそれは金色ではなく、銀色だった。


「ここは………おそらく袁術殿の陣でしょうな」


「ふむ………」


腕を組む塵塚怪王。


「と言いますか、怪王殿。何か目印になるような物は覚えておらんのですか?」


「ふむ。曹の旗が靡いておった」


「それはそうでしょう。他には?」


「……………」


「……………」


「………何である?」


塵塚怪王の言葉に呆れながらも笑みを浮かべる趙雲。


「いや、やはり変わったご仁だな、と思っていただけですよ。もし桃香様に出会う前に怪王殿に会っていたら仕官していたかもしれませんな」


「――――それは否である」


グルリと趙雲の方を向く塵塚怪王。


「汝らはいく通りのもの運命というの道を選び、進む。その選択の数だけ可能性は広がっている」


だが、と塵塚怪王は言う。


「我輩がヒトの道に交わることは無いのだよ」


「………それはおかしな話ですな」


趙雲は少し不機嫌そうに言う。


「怪王殿は曹操殿に力を貸していると言っていたではありませんか。それは道が交わっているのでは?」


「ふむ。そう見えるやもしれないな。だが、実際は違う。あの者は我輩の力を進む為には使わぬのだよ」


曹操が塵塚怪王に命じたのは警羅と張三姉妹の世話役、そして護衛の任だけだ。


それはどれも前に進むことではなく、現状の維持を目的としていた。


言うならば曹操の歩んだ道の上に塵塚怪王は“置かれている”だけだった。


「では今、私と関わり合っていることはどうなのですかな?」


「それはただのすれ違いであるよ。交わっているわけではない」


「………その考えには賛同できませんな」


「汝が何故不機嫌となるのだ?まぁ良い。汝らはそれで良いのだ。汝ら、人の子は進み行くが良い。我輩たちは存在の在り方を決めたらそれから動けぬのであるからな………」


と再び“袁”の旗を見る塵塚怪王。


「何じゃ、妾の陣に何か用かの?」


と又もや後ろから声がかかる。


「うむ?……あぁ、すまぬな。少し道に迷うてな。少し訊ねたいのだが良いか?」


塵塚怪王が後ろを向くと今度は三人であった。


一人は長い金髪の少女。豪勢な着物に身を包んでいて、いかにも富豪の娘といった感じだった。


もう一人は金髪の少女に付き添うような位地に立つ。濃い藍色の髪の少女。腕には“袁”の字の入った腕章を着けていた。


そして最後の一人は桃色の髪に褐色の肌をした女性。目がまるで獰猛な虎のようだった。


「知らぬ。妾は今、忙しいのじゃ。孫策、お主が相手をせよ。七乃、早う蜂蜜水を持ってきてたも」


「は~い、お嬢様。それじゃあ、後はよろしくお願いしますね~、孫策さん」


と金髪の少女と藍色の少女は陣内に入っていった。


「はいはい、と。……それで、貴方たちはどこへ行きたいの?」


褐色の女性はそれにテキトウに答え、塵塚怪王たちの方に向く。


「曹操の陣営の所である」


「曹操?えぇと、どこだっけかな?そういうのは全部冥琳に任せてるのよね」


と女性は頭を捻る。


「ふむ。別に構わぬよ。どうせ、歩いていればいずれ着くであろうからな」


「あ、ちょっと待ちなさいよ。ウチの陣営に行けば分かるかもしれないわ」


歩き出そうとした塵塚怪王を女性が止める。


「いや、そこまで手間を取らせるわけには………」


「別に遠慮することないわよ。困った時はお互い様だし」


と笑いかけてくる女性。


「“困った時は”、であるか………」


「そうそう♪」


「………ふむ。では世話になるとしよう。汝はどうするのであるか?我輩はもう戻れそうではあるが……」


趙雲を見る塵塚怪王。


「私もご同行させてもらおう」


「そうであるか。では、改めて……。我輩は塵塚怪王である」


「趙子龍と申します」


「私は孫策。字は伯符よ♪」


それぞれ自己紹介を終えて、塵塚怪王は孫策の後を付いて、孫策の陣へ向かうのだった。


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