12話 小さな火種の大冒険
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――――トテトテトテ。
一人の少女が廊下を走っていた。
赤い髪に毛先だけが橙がゆらゆらと揺れる。古戦場火である。
――――トテトテ。キョロキョロ。
少し走って辺りを見渡す。そしてまた走って辺りを見渡す。それを繰り返す古戦場火。
まるで小動物のようである。
「………?」
何かを探しているのか、見渡しては首を傾げる古戦場火。
「うん?何故、このような所に子どもが居るのだ?」
とそこで廊下の曲がり角でばったり夏侯惇に会う。
「ッ!?」
夏侯惇の姿を見るや否や、脱兎の如く逃げ出す古戦場火。基本的に人見知りをするのだった。
「………何なのだ?」
夏侯惇はそれをただ見てるしかなかった。
―――――おろおろおろ。
今度はおろおろと焦り始める古戦場火。
どうやら走ってしまったせいで帰り道を見失ってしまったようだった。
ここには知り合いは塵塚怪王しかいない古戦場火にとってこんなに心細いことはないだろう。
段々と目の端に大粒の涙が溜まり始めた。
「おやおや?珍しいね、こんな所に怪火が居るんだゾ」
とそんな時、古戦場火の上から声がした。
古戦場火が上を見上げると…………。
「やぁ、小さな怪火ちゃん。ボクは鼕て……いや、今は鬼一口と名乗らなくちゃね」
そこには天井にぶら下がる少年がいた。
「……古戦場、火」
古戦場火は本能的に目の前の少年が自分と同じ、人成らざるものだと理解した。それと同時に自分では及びもしない程の強者だと理解した。
「まぁ、そんな怖がることはないゾ、古戦場火ちゃん。ボクは別に恐怖を糧に生きてないからね」
ヒョイッと天井から降りてくる鬼一口。
背は古戦場火と同じであるはずなのに何倍もの存在感を感じて、縮こまってしまう。
「うん?あぁ………」
その様子を見て、鬼一口は何やら納得した顔をする。
「飴でも食べるかい?」
と袖口から一粒の飴を取り出す鬼一口。
「………(フルフル)」
それを首を振って、断る古戦場火。
塵塚怪王の知らない人から物を貰ってはいけない、を忠実に実行しているのだ。
「そっかぁー。………あ。あれ、なんだろね?」
と上に指を指して鬼一口が言う。
古戦場火はその指の先を追い、顔を上に向ける。そして自然と口は開いてしまう。
「そりゃ、今だ!」
鬼一口は開いた口に飴を放り入れる。
「………ッ!?」
慌てて口を閉じるが、既に遅かった。
「…………ふわぁ~」
口の中に広がる甘さに頬が緩む古戦場火。
「あはは。別に取って喰うわけじゃないよ。ボクは塵塚怪王の友だからね。彼の家族を傷つけはしないゾ」
ポンッと古戦場火の頭に手を置く鬼一口。
なんだが、塵塚怪王にされているように心地がよく目を細める古戦場火。
「うん。それでよしだゾ。それじゃあボクはこの辺で………」
鬼一口がその場を立ち去ろうとすると……。
「………あ、あのぉ」
と古戦場火が呼び止める。
「あ、あの人がどこに居るか知りませんか………」
「あの人?………あぁ、塵塚怪王のことかい?うぅん………知らないねぇ。今日はまだ会ってないよ」
「そ、そうですか………」
鬼一口の答えを聞いて肩を落とす古戦場火。
「ふむ。そうだね、古戦場火ちゃん中庭には行ってみたかい?」
「………(フルフル)」
「じゃあ、行ってみるといいゾ」
当てもないので、鬼一口の言っていた通りに中庭まで行く古戦場火。
――――キョロキョロ。
中庭に来て、周りを見渡す古戦場火。
だがそこには誰も居なかった。
辺りを探すことにした古戦場火。
「あら、貴女は…………」
暫く探してみると、中庭から奥に入った場所に木の間にハンモックをかけて、そこに座り、読書をしている曹操を見つけたのだった。
「………あ、あ」
「確か、古戦場火、だったわよね?」
「………(コク)」
「そんなに硬くならなくていいわよ。ほら、こちらへいらっしゃい」
と優しく微笑み、ハンモックへと誘う。
それに恐々ながらも曹操の方へ歩いていく古戦場火。
(本当に可愛いわね。春蘭たちや季衣も良いのだけれど、これはこれで中々良いものね)
「………ッ!?………??」
曹操の妄想を敏感に感じとる古戦場火であった。
それが更に曹操の食指を反応させる。
「おいでなさい、古戦場火」
とハンモックの上に古戦場火を誘う曹操。
ただ場所を空けるのではなく、足を開いて、足の間へと誘っているのだが………。
「どうかしたのかしら?」
有無を言わさない覇王の覇気。
覇王スキルの無駄遣いである。
ここで古戦場火、人生の最大のピンチか!?
「………あ、ああ、あの人を知りませんか?」
必死に勇気を振り絞る古戦場火。
「…………」
「あ、あの………?」
「……え?あ、あぁ、ごめんなさい。(なんて破壊力なの……)」
古戦場火の上目遣いに完全に意識を飛ばされた曹操だった。
「あの人とは怪王のことよね?ごめんなさい、知らないわ。そうね………町はどうかしら?もしかすれば警羅でもしてるんじゃないかしらね」
「………」
それを聞いて、町に向かう古戦場火。
しかし何か思い出したのか、曹操の所に戻ってくる古戦場火。
「まだ何か聞きたいことがあるのかしら?」
「………(フルフル)」
曹操の問いに首を横に振り、否定する。
「………あ、ありがとう」
小さくではあるがしっかりとそう口にする古戦場火。
そして顔を真っ赤にして、町へと走っていくのだった。
塵塚怪王の他者によくしてもらったら礼を言う、を素直に実行しているのだ。
「…………」
――――ポスンッ。
ハンモックに仰向けに倒れ込む曹操。
「…………あれは反則よね」
古戦場火。傾国の美幼女の素質、大いにアリ。
町に来た古戦場火。
「……………」
町は人見知りの古戦場火にとって正に戦場であった。
「でも………」
ギュッと拳を握り、覚悟を決める古戦場火。
そして再び、トテトテと塵塚怪王を探す古戦場火。
「………ぐすん」
やはり体の小さな古戦場火が町の人混みの中で人を探すのは無理があった。
李典たちの村なら未だしも、曹操の治める地の町である。行き交う人は比べ物にならない。
心なしか毛先の橙も小さくなっている。
「あれ?古戦場火ちゃんなの~」
とそこで聞き覚えのある声が聞こえた。
キョロキョロと辺りを見渡す古戦場火。
するとそこには于禁たち三羽烏が居たのだった。
「どないしたんや、こないなとこに居るなんて珍しいやん。買い物なんか?」
と李典が視線を合わせて話しかける。
「………(フルフル)。あの人を知りませんか?」
「あの人?怪王さんのことなの?」
「今日は怪王さんは警羅の当番ではないからな、私たちは知らないな。すまない」
申し訳なさそうにする楽進。
「中庭とかは見たんか?」
「………(コク)」
李典の問いに頷く古戦場火。
「じゃあ、厨房なの!きっとお腹が空いたからふらふらと………なの!」
「いや、沙和。季衣様じゃないんだから、それはないだろ」
「凪、意外と言うやないか………」
「………厨房」
三人がワイワイやっている中、新たな目的地を決める古戦場火だった。
「え、怪王さん?知らないよ?」
厨房に居た許緒に聞いてみたが、いい返事はなかった。
「うぅん、天和ちゃんたちの楽屋はどうかな?確か、正式に世話役を命じられたみたいだし………って古戦場火ちゃん?」
どうやら許緒の言葉半分で既に厨房から出ていってしまったみたいだった。
「……………」
窓から楽屋の中を見ている古戦場火。
張角たちとは面識が薄いため中々訊く勇気が出ない。その為、窓から覗いてるわけだが…………。
「………いない」
中には探し人は居らず。
「………うぅ、ぐすん」
段々と心細くなる古戦場火。
「ちょっと、二人とも外に火の玉が!?」
どうやら情緒が不安定となり、怪火が溢れてしまったみたいだ。
「ちぃ姉さん、休憩したいなら普通に言えばいいわよ」
「ちょ、なんでそうなるのよ!?本当なんだってばッ」
「ちぃちゃん。確かいいお医者さんがね………」
「天和姉さんにまで心配された!?だから私は正常なのよぉ!そんな可哀想な子を見る目でちぃを見るなぁ!!」
と楽屋から聞こえていたのだが、その時には既に古戦場火はどこかへ行ってしまっていた。
一人、川の畔で縮こまる古戦場火。
そんな古戦場火に後ろから声をかけるものがいた。
「何をしているのであるか?」
「………ッ!?」
それは今日一日ずっと探していた人の声だ。
「今日は随分と遠出をしたのであるな」
ポスッと古戦場火の頭に手を置く、塵塚怪王。
「………うん」
「それに多くの者と話し、関わり合ったのだな」
「………うん」
「うむ。それは重畳である。我輩たちは人間と共に在るのだ。関心を持ち、関係を築く。互いに歩み寄らねばならぬ」
そう言って古戦場火の顔を見る塵塚怪王。
「ふむ。健やかに成長せよ、古戦場火よ」
それはまるで本当の父娘のようであった。




