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11話 対価









―――――――――――――――







「ガツガツガツ」


とある食堂に異色の二人が居た。


一人は段ボールを頭に被り、全身を廃材で包む大男。どこからどう見ても不審人物だった。


もう一人は小さな子ども。頭の上にピョコンと一本の髪が生えている。それだけならただの子どもなのだが、その小さな体躯に入りきらない程の量の食事を食べ続けていた。


まぁ、塵塚怪王と鬼一口なのであるが……。







「よく食べるのであるな、鬼一口よ」


「うん?まぁね、ボクはこれだけの為に生きてると言っても過言じゃないからね」


塵塚怪王の言葉に鬼一口は肉を骨の付いたままバリバリと食べていく。


「それにこれはキミがボクと約束したことだろ?それを非難するのは駄目だゾ」


ビシッと箸で塵塚怪王を指す鬼一口。ただし、もう片方の箸で食べ物を口に入れながらであるが………。まさかの両刀であった。


「いや、我輩は約束をたがえるつもりはない。だがな、ここの食材にも限度があろうよ」


食材を食い尽くすのではないかと、厨房から料理人が出てくるくらい、鬼一口は食べていた。


「じゃあ、食べ物がないなら皿を食べればいいんだゾ」


と本気か冗談か分からない鬼一口。


「それは流石に駄目であろうよ」


「あははっ。知ってるよ、それくらい」


と箸でつまんだ皿を置く鬼一口。


とその時…………。


「―――ちょ!?それは無茶やで!?」


塵塚怪王の聞き慣れた声が聞こえた。


声の聞こえた方―――店の端を見るとそこには李典と見知らぬ三人組が居た。


「何をしておるのであるか、真桜は………」


塵塚怪王はため息を吐く。


「うん?知り合いかい?」


と鬼一口も同じ方向を見る。


「あれ?あれは…………」








李典は困っていた。


曹操から目の前の三人の世話をするように言われて、しているのだが…………。


目の前の三人を見る李典。


三人とは何を隠そう、黄巾党の首魁、張角とその姉妹、張宝、張梁だった。


しかし話を聞く限り悪い人間ではないと判断をして、命を受けたのだが………。


「お姉ちゃんは焼売と拉麺を追加ね」


「ちぃは肉まんかな」


「杏仁豆腐をお願いします」


我が儘であった。


しかもそんなに食べて大丈夫なのかと聞けば…………。


「大丈夫だよぉ。だって―――」





『世話役の人が出してくれるから』





と三人は声を揃えて言う。


李典は確かに今では将軍職に就いてはいてもまだまだ駆け出し、それに李典の趣味、絡繰弄りでその給金も雀の涙程度しか残ってはいない。


(どないしよぉ。この店、ツケできればエエんやけど)


李典が悩んでいると………。


「じゃあ、ボクはこの品書きに書いてあるのを端から端までがいいゾ」


「うむ。ならば我輩はこの激辛麻婆茄子とやらを貰うとしよう」


今まで目の前には三人だったはずが、今は五人になっていた。


「………って何してんねん、怪王!?」


「ふむ。我輩たちは食事をしていたのだが、こちらで聞き慣れた声がしたものでな」


「で、なんで怪王まで料理頼んでんねんな」


「そういうノリであろう?」


案外、お堅くない塵塚怪王であった。







「こうして姿を見せるのは初めてであるな」


塵塚怪王は張三姉妹の方を向く。


「アンタ、どっかで会ったっけ?」


それに張宝が眉を潜める。


「まぁ、覚えてないのも無理ないゾ、地和。あん時は姿を隠してたからな。だけど、声ぐらいなら覚えてないかい?」


「声って…………ッ!?」


鬼一口の言葉を聞き、張宝が何かに気づく。


そしてそれは張梁も同じようだった。


「もしかして華琳様たちが攻めてくる前に聞こえた声のこと?」


「ピンポン♪ピンポン♪大正解だよ、人和。この春巻きをあげよう」


「あぁ~!それはお姉ちゃんのだよぉ!」


鬼一口がヒョイッと適当な皿から春巻きを張梁の皿に乗せると張角がそう言うのだった。


「じゃあ、天和にはこの肉まんをあげよう」


と鬼一口が宥めていた。


「確かに………って、何でアンタが知ってるのよ!?あの時ちぃたちしか居なかったはずなのに」


「ん?ひどいゾ、地和は。あんなに力を貸してあげたのにな」


「汝も姿は見せておらぬであろう」









「え、貴方、太平要術に入ってたの?」


「そうだゾ」


大体を説明する鬼一口。


「そして今はこの塵塚怪王の友なんだゾ」


「うむ」


「なんや、また怪王、拾ってきたんかいな」


呆れたように李典が言う。


「………あ!そうや」


と李典が何かを思い付いたように言う。


「なんや知らんけど、知り合いみたいやし………後は任せた!」


全てを塵塚怪王を投げ出す李典。


「うぬ?何を言って………もう居らぬし」


塵塚怪王が説明を求めるが李典は既にその場に居なかった。


「ぬぬ?………説明を求めるが、出来るか汝ら」


「多分、私たちの世話役を任せたんだと思いますよ」


と張梁が眼鏡に手を当てて、言う。


「世話役?」


「とりあえずここのお勘定お願いね~」


と張角が言うと…………。


「うぬ?我輩は持っておらぬぞ?」


と鬼一口を見る。


「ボクはキミに奢ってもらうために来たんだゾ?」


と張角たちを見る。


「持ってるわけないじゃない」


張宝が答える。


『――――え?』


三人が固まる。


「あ、お姉さん。ボク、春巻き追加で~」


「なんでこの状況で追加できるのよ!?」


「仕方あるまい………」


塵塚怪王は席を立ち、店の奥へ行く。








暫くすると帰ってきた塵塚怪王。


「話は着けてきたぞ。存分に食べて良いそうだ」


「え?ホントに?」


「うむ、我輩は嘘は吐かぬのだ」


「やったぁー。じゃあ、お姉ちゃんねぇ…………」


と次々に品を頼み始める五人。


(くくく。我輩に何かを押し付けるなら、対価を払う覚悟が必要であるぞ、真桜よ)










「真桜、これは一体どう言うことかしら?」


曹操の執務室に呼び出された李典は目の前の領収書を見せられて驚愕する。


それは先日、張角たちを塵塚怪王に押し付けた店からのものだったのだが…………。


「貴女、何をしたらこれだけ使えるのよ」


その額があり得なかった。李典の給金の約三倍程の額だった。


「確かに天和たちの世話は貴女に一任したけど、これは使いすぎじゃないかしら?」


曹操としては絡繰に通じている李典なら張角たちの舞台の役に立つだろうと世話役を命じたのだが………。


「え、あ、それはそのですね………」


まさか曹操の命令を投げ出したとは言えず、それから約二時間程の説教を受けた李典だった。








「くくく。真桜め、堪えておるようだ」


「ボク、最近気づいたけど……。キミっていい性格してるんだね……」


窓越しに説教されている李典を見て、ほくそ笑み塵塚怪王にそう呟く鬼一口。


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