#6 ぬすっと探索
虚ろな目をして何かブツブツ呟くショウを引き摺って、セリカは自宅まで戻った。
とりあえずショウを木椅子に座らせた後、セリカも腰掛け、暖炉に火を点けた後、考える。
野次馬たちの話によれば、あの先導していた男には誰も見覚えが無いらしい。
普段はカジノにくるような男では無いようだ。
家に戻るがてら、ギルドに寄って賞金首の手配書を見てきたが、賞金がかけられている盗賊でも無いようだ。つまり、今回が初犯なのか、それともよっぽど足がつかずに犯罪を繰り返してきた凄腕なんだろう。
これは取り返すの、難しいかも…。
もはやため息を吐くのにも馴れてきた気がする。
冒険者を夢見て村を飛び出し、修行を重ね、そこそこ名が知れるようになったセリカは、ある日、父が魔族に殺されたことを知らされた。
その魔族を討伐する時に同行したのが、ここにいる廃人なのだが、結局その魔族は討伐できず、逃げられてしまったのだ。
魔王の側近であるその魔族は、傷ついた体を休めるべく、魔大陸の魔王の居城に戻っていった。
父の仇をとるために、すぐにでも街を出たかったセリカだが、肝心の勇者が重い腰を全くあげない。給料は全部スロットにつっこむし、たまに勝ったかと思えばすぐに盗まれるし、どっかに落とすし…。旅の資金を貯めるどころか生活費すらままなってないみたいだ。ショウの主食は食パンの耳だ。
とはいえ、セリカの給料はちゃんと払ってくれている上、実家にも仕送りをしているらしいし、勇者としての職務も―――嫌々とはいえ、他の勇者以上にこなす彼に対して、そうそう強く言えない。いや、言ってるけど心の中ではちょっぴり負い目みたいなのを感じているのだ。
そんなどうしようもないスロッカスでだらしが無くて厚顔無恥の塊が、魔王を倒す旅に出ようと自分から言ってくれたのは本当に嬉しかった。例えギャンブルで大勝ちして気が大きくなってるだけだったとしても、少しでも魔王を倒すことを―――セリカの仇討ちのことを考えてくれてるんだとわかって、思わず張り詰めていたものが解けたような気持ちになった。
まぁ、無くなったものは仕方ないよね―――こいつが貯金できない人間なら、あたしが貯金して資金を貯めよう。月に金貨3枚もらってるから、家賃込みで月銀貨5枚で生活すれば5ヶ月くらいで資金が溜まるな。あ、でも最近レザーアーマーがへたってきたから修理に出さないといけないし―――あーそういえばこの前武器屋に売ってた剣につける可愛いストラップも欲しいな。それから道具屋の――――
などと、セリカの思考があらぬ方向に迷走している時、真っ白な灰のようになったショウがバッと起き上がった。
その様子に『な、なに!?』とビクッとしたセリカであったが、ショウの瞳は何も写っていない。
ただ何も無い虚空を見つめ、耳まで裂けそうな勢いでニヤリと口を歪めた。
「あの盗賊を………殺す」
ショウは静かに呟いた。若者がギャーギャーわめきながら口にするような『殺す』ではない。その言葉には恐ろしいほどのリアリティと、漆黒の意志が内包されていた。
もはやさっきまでの魂の抜け落ちた廃人の姿はそこになく、異様なほどに負のオーラをもやもやと放つショウに対して、セリカは慌ててストップをかけた。
「いや、殺しちゃダメでしょ殺しちゃ!!てゆーか、あの男を捜すことできんの?」
セリカの尤もな発言に対して、ショウはマントをサッと脱ぎ去り、あの男に叩かれたあたりを指差した。
「あの男はね、おそらく『バシスの軟膏』を僕に塗りつけたんだ。もともとは闘牛のさかんな地域で使われる、牛にしか効果の無い興奮剤なんだが、このあたりでは珍しいものだ。これを売った薬師を探せば、自ずと犯人に行き着くはずだよ。―――こんな足のつきやすい薬を使うくらいだから、おそらく相手は、初心者のクソさっぶいコソ泥だろうね。ふふふ…僕の『糸』で、あいつをグズグズの豚バラ肉みたいにしてやる………。うふ…うふふふふふふふふふふふふふふふ」
ショウは「生まれてきたことを後悔させてやる!!」と叫びながら、セリカの家の窓ガラスをバリーンッ!!と突き破って、凄い勢いで駆け出していった。
え……窓から出る必要があったの………?
セリカはそう思いながらも、ガラスの破片を片付け、暖炉の火を消し、戸締りをしてから、暴走するショウを止めるべくあとを追った。
いざとなれば転移呪文ですぐにショウの元へは駆けつけれるので、セリカは一人暴走するショウと平行して、軟膏を売った薬師を探すことにした。