#4 激運
僕はとにかく運が悪い。
くじびきではハズレ以外ひいた事もないし、道を歩けばどこからか現われた暴れ牛に跳ねられる。
買ったポーションがいきなり爆発したこともあるし、スリに遭う機会も常人の比ではない。
だけど、こんな僕でも最近は運が巡ってきた気がする。
あの、赤髪の魔剣士、セリカと組んでから、そういったことも少なくなったのだ。
彼女は冒険者として名を馳せることを夢見て、故郷の村を飛び出してきたらしい。
ひょんなことから、彼女と組むことになったのだが…。ふむ…、彼女は世に言うアゲ〇ンってやつだろう。
誤解の無いように言っとくけど、別に彼女とアレがアレでムフフな関係になったわけじゃない。
まあ僕クラスのイケメンにかかれば、向こうからキャー抱いてうふふなことを言われるのも時間の問題だけどね。
さて、今僕はカジノに来ている。
あのしゃらくせー魔族を倒した際にドロップした指輪をうっぱらって金貨10枚を手に入れた僕は、もういても立ってもいられなくなってしまった。
辛抱たまらんという奴だ。この金貨20枚を倍以上に増やして見せちゃうよ?
まあセリカには適当に言い分けつけて、「今日も負けちゃった☆てへぺろーい」とでも言えば万事オッケーだろう。
ちなみに人間の国の通貨はどこの国でも共通で、一番価値の低いものから銅貨、大銅貨、銀貨、金貨の順にある。
銅貨100枚で大銅貨、大銅貨10枚で銀貨、銀貨10枚で金貨と価値が等しい。
国民の平均月収は金貨1枚程度で、一日に銅貨50枚もあれば食事の面だけで言えば満足に取れる。
宿(朝夕飯つき)を取るなら、大銅貨2枚程度か。
で、勇者は国から給料が出るわけなんだけど、D級だったら金貨1枚と銀貨5枚だったかな。
国民平均の1、5倍くらいか。
A級の僕は金貨10枚くらいもらってるんだけど、何故か手元に残らないんだよね。
ま、宵越しの銭は持たないのが僕の主義なのさ。
話は反れたけど、今日はスロットをうっている。
一番レートが高い奴だ。銀貨1枚で一回回すことが出来る。
銀貨1枚ってのは5日分の宿代と同じだね。
やっぱり、男ならチマチマと小銭を増やさず、ドカンといかんとな。ばっはっは。
とまあ、いつもなら、運がくっそ悪い僕は一回の当たりすらひけず、カジノにガンガン貢いでいくことになるわけだが、今日は少し様子が違った。
スロットを始めて10回目くらいのレバーオンで、なんといきなり7図柄がリーチしたのだ。
ガコン、ガコン、と1、2リールが停止。デカデカと、赤い7図柄が中央に止まる。
スロット台に取り付けられた魔石(魔力を貯めることが出来る石。この石には『ライト』の魔法がこめられている)がチカチカと点灯を始め、リーチであることを告げる。
いやいや、そんなまさか。この僕がスリーセブンを引けるわけないよな…。
スリーセブンをひくと一気に500枚もの銀貨が吐き出される。金貨にして50枚。ちょっとした家を買うことさえ出来る、大金だ。
ゆっくりと唾を嚥下する。レバーを握り締める右手がじっとりと滲む。
周りの客が、7テンパイの音を聞きつけてざわざわと集まってくる。
その野次馬たちの声聞こえなくなるほど強く、僕の心臓はドクンッ、ドクンッ、と暴発している。
……第3リールの回転が徐々にゆっくりになる…。
そこだけ世界が止まってしまったかの様に静かに、ゆっくりと…。
ガコンッ…。
第3リールは、7の図柄を中央に据えて、粛々と停止した。
一瞬の静寂…。後に、台から王の凱旋を称えるかのようなファンファーレが鳴り響き、大量の銀貨があふれ出した。
そして、この日は僕にとって、人生で最高の一日となる………はずだったのになぁ…。