にこいちマフラー
ぶるっと身震いした。
厚着をしたつもりだったが寒いものは寒い。
隣を歩く彼女も同じらしく震えている。
空から白いフワッとした花びらがひらひらと降りて来る。
今日は12月24日、クリスマスイヴ。
綺麗に装飾された街路樹の間を2人で歩いていた。
「明日だっけ?」
彼女に確認するとうん、と答えた。
2人で暫く歩き大きなツリーがある広場に到着。
やはり周りはカップルが多い。
「毎日メールか電話するから。」
「あぁ、何時でもして来いよ。」
ツリーを見上げながら話す。
電飾がとても綺麗だ。
彼女があのさ、と呟く。
「浮気したら許さないから。」
「するかよ。お前こそ変なのに引っかかるなよな。」
「もう引っかかってるから。」
チョップを彼女の頭に当てる。
彼女があうち、と鳴いた。
「これ美味しいね。」
予約していたレストランは満足して貰えたようだ。
俺も美味いと思う。
ゆっくり2人で色々な話しをした。
明日が過ぎればこうして会って話す機会なんてそう無いだろう。
彼女が引っ越す先は熊本。
東京からではちょっとそこまでと気軽に会いに行けない。
店員の声を背で聞きながら2人は外に出た。
「今日はもうすぐ終わりかぁ。」
体をぶるっと震わせて彼女が言う。
首が寒そうだったので自分のマフラーを巻いてやった。
「おぉー、温かいね。」
「そりゃなぁ。」
今度は自分が寒かった。
カッコつけ過ぎたか。
俺が体を震わせたのを目敏く見つけた彼女は巻いたマフラーの一端を長くして俺の首に回した。
「体冷やしちゃだめ。」
そう言って俺によりぎゅっとくっついた。
彼女はとても温かかった。
駅に向かう途中反対からもカップルらしき2人が歩いてきた。
2人とも顔もスタイルも良く、仲も良好そうだ。
実は彼女と俺の身長差は数cmしか無くてこれが結構コンプレックス。
だからそのカップルを目で追ってしまった。
「…ちょっとぉ、人の目の前で浮気?」
はっとして彼女をみたらむすっとして不機嫌そうだった。
「違う違う。ほら、俺達身長差なさ過ぎだからさ、あの位身長差あったら良いよなぁ、と。」
むすっとした顔は直ぐ戻った。
「えぇー、今くらいが良いよ。」
そうは言っても男としては彼女よりある程度背が高い方が良い。
「だってさ、こうして「にこいちマフラー」出来るし…。えいっ。」
ちゅっ、と唇で弾ける音が軽くした。
「キスし易いし?」
俺は「お、おぉ」としか返事出来なかった。
不意打ちでびっくりしたのだ。
彼女はしてやったりという顔。
「ははっ、びっくりしてる。じゃ、今日はここまでで良いよ。もう駅見えるし。」
気付くと俺のアパートと駅の分かれ道。
走ってく彼女に明日見送ると声を掛けると、彼女は走りながらこっちをむいて手を振った。
この作品では2人で1つのマフラー巻くのを『にこいちマフラー』という名前で呼んでます。