私は東雲荘の人々と交流しました~久遠~
おじいちゃん、ごめんなさい。
この東雲荘の第一印象、ボロになりました。ごめんなさい。
でも、本当にボロボロです。
窓ガラスは所々ヒビがあって屋根はいまにも吹き飛ばされそう。
けど、部屋の中は汚くはなさそうです。
流石、綺麗好きのおじいちゃん。
荷物がとても重たいです。
なかなかこの荘に入る勇気がありません。
ぶっちゃけ緊張しています。
手のひらに人を三回書きました。飲みました。グッジョブです。
失礼します、東雲荘。
「すいません…」
ゆーっくりとドアを開けて足を一歩踏み入れる。
なんか肌寒いです。
というか廃墟じゃないですか。
おじいちゃんが死んでからまだ数日しか経っていないのに。
真っ暗です。正直、怖いです。
お母さん。私には無理かもしれません。
~回想~
「浅葱、一生のお願いがあるの」
お母さんはお葬式の服のまま私に真剣な目で言ってきました。
「お父さんの遺言を見て」
「はい…?」
パラリ。と遺言書を開きました。
そこに書いてあったのはずいぶん前に書かれたとみられるおじいちゃんの小さな字でした。
『久遠、もうワシは先が長くないということは自分でも理解している。
いつ死ぬかはわからない。それが明日かもしれない、
だが、ワシが死んだら東雲荘の住人はどうなる?
一生のお願いだ久遠。ワシの代わりに東雲荘の管理人をしてくれ。
若いお前に託す。
そしたらワシは安らかに死を迎えることができるだろう』
この言葉を見たとき、頭が真っ白になりました。
小さい頃から人と関わるのが嫌な私にとって大勢の人が暮らすところの管理人だなんて…。
けど、これはおじいちゃんの最後の願いだから。
小さな頃から優しくしてくれたおじいちゃんの願いだから―
そんなことを思い出していました。
おじいちゃんの心がこもっているこの場所だからでしょうか?
…ってボーっとしていたら誰か来ました。
初エンカウントですね。
「・ ・ ・」
「あの…」
やってきた人に話しかけようとしたら見事にスルーされました。
私が見知らぬ人間だからでしょうか?
もう一度声をかけようと振り返りました。
そして、思わず驚きました。
男の人でした。大学生くらいの。
長身で頭になにか被っているのが分かりました。
外は明け方ですが中は廃墟の如く暗い所なので顔立ちはあまり分かりません。
けど、一瞬鋭い眼光が見えました。
そして私が驚いた原因。
ゴミ袋。
大量のゴミ袋です。
しかも中身はカップラーメンやおにぎりの袋などコンビニの物ばかりです。
男の人はそのままスルーすると出て行ってしまいました。
ここの住人なのは分かりましたけど…。
「ふわぁー…眠たいなぁ…」
「…!」
次はサンダルの音が先に何があるか分からない真っ暗な廊下から聞こえてきました。
声は女の子の声です。
「ん…誰ですか…?新しい入居者?」
暗闇の中から歩いてきたのは可愛らしい高校生くらいの女の子でした。
といっても私もまだ高校卒業したばかりですが。
ウェーブのかかった茶髪でパステルカラーのパジャマを着ていました。
寝起きでしょうか。
なんだかまともそうな人ですね(失礼ですね。ごめんなさい)
とりあえずこの人に自己紹介でもしましょうか…。
前言撤回です。
そうでもないようです。
着替えてきたその子は超・現代っ子でした。片手でi●h●eという機械を弄りながら話を聞いてきました。
「じゃ、久遠が新しい管理人なんだね!へぇー」
いきなり呼び捨てですか。構いませんけど。
着替えてきたこの子は3個くらい髪飾りをつけていて茶色の髪を後ろで結んでいました。
そして服は普通な感じなんですけどアクセサリーをたくさんつけていて正直、眩しいです。
「ここ、女の子で暮らしているのあたしも入れて2人しかいなくってさー」
「え…!」
声に出して驚きました。こんな広いアパートなのに女性が2人って…。
「だから管理人さんが入居してくれて嬉しいなぁ♪よろしくね!」
入居者扱いされました。
あ…名前聞いてませんでした。
「あ!名前言ってなかったね。あたしの名前は岡本舞!高校1年!」
ビシッとポーズ決めてくれました。
「舞さん…ですか。いい名前ですね」
舞なんて名前をあまり私の周りの人物で聞いたことがないので綺麗な響きの名前だと思いました。
もちろん微笑しながらです。
しかし、
「それ…本当に思ってる?」
「え…」
舞さんはいきなり真剣な表情になると私の肩を掴む。
「だ、だって顔怖いもん!なのにいい名前ですねって…」
怖い?
私、笑っていましたよ?
「あの…笑顔で言っているんですけど…」
「鏡見てみて!」
舞さんはポケットの中から手鏡を取り出してきました。
そして、自分の顔を覗き込みました。
絶句しました。
無表情じゃないですか。ちなみにまだ微笑を浮かべているつもりです。
一旦保存です