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ベストフレンズ  作者: 菊池まりな


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第72話 言えなかった言葉

 夕方の河川敷。


 まだ夏の名残がある風が、 二人の間を通り過ぎていく。


 紗奈は少し瘦せた横顔で、 水面を見つめていた。


 悠真は隣に座り、 しばらく何も言えずにいた。




「つらいとき、 つらいって言えなくて、 余計につらかったね」


 悠真がようやく口を開く。


「気付いてあげられなくて、 ごめん」


 紗奈は視線を落としたまま、 小さく首を振った。


「悠真のせいじゃない」


「ずっと、 『大丈夫』って言い続けてたの、 私だから」




 沈黙。


 川の音だけが、 二人の間を埋めていく。


 紗奈がぽつりと続ける。


「大丈夫って言えば、 誰も心配しなくて済むと思ってた」


「でも、 本当は──」


 言葉が途切れる。


 悠真は急かさず、 ただ待った。




「本当は、 気付いてほしかった」


「『大丈夫』の裏側、 見つけてほしかった」


 紗奈の声が震える。


「でも、 それを望むこと自体が、 わがままな気がして」


「だから、 余計に言えなくなった」



 悠真は膝の上で、 拳を握る。


「わがままじゃないよ」


「弱いって言うことは、 わがままじゃない」


「俺が、 それを知らなかっただけだ」




 紗奈が初めて、 悠真の方を見る。


 目に涙が滲んでいた。


「知らなくて、 いいの」


「知らなくても──」


「隣にいてくれれば、 それでいいの」




 風が止む。


 二人の間に、 静かな時間が流れる。


 悠真はゆっくりと、 紗奈の手に自分の手を重ねる。


 何も言わずに。


 ただ、 そこにいることだけを、 伝えるように。




 しばらくして、 紗奈が小さく笑う。


「……変わらないね、 ここ」


「うん」


「変わらないところも、 いいんだね」


 紗奈の声には、 わずかだけれど、 以前とは違う柔らかさがあった。




 日が沈み始め、 川面がオレンジ色に染まっていく。


 悠真は思う。


 支えるということは、 きっと、 正しい言葉を探すことじゃない。


 分からないまま、 それでも隣に座り続けることなのだと。




 紗奈がふと呟く。


「私、 また少しずつ、 悠真の写真、 見たいな」


「今度は──」


「ちゃんと、 見える気がする」




 悠真は頷く。


 言葉にはしなかったけれど、 その一言が、 何よりの光だった。




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