↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベストフレンズ  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/95

第70話 小さく見えた

 病室のベッドに横たわる紗奈は、悠真が知っている紗奈より、ずっと小さく見えた。


 点滴の管が腕に繋がれ、規則的な機械音だけが静かに響いていた。カーテン越しの光が、紗奈の顔を淡く照らしている。目は閉じられたままだった。


 悠真は、そっとベッドの脇の椅子に腰を下ろした。何か言葉をかけるべきだと思ったが、どんな言葉も、この場にふさわしくないような気がした。


 しばらくして、紗奈の瞼が微かに動いた。ゆっくりと目を開ける。焦点が定まるまで、少し時間がかかった。


「……悠真」


 かすれた声だった。以前の紗奈の声とは、どこか違って聞こえた。


「うん、いるよ」


 悠真はそれだけを言った。紗奈は何かを言おうとするように口を開いたが、言葉は出てこなかった。代わりに、視線がゆっくりと逸れていった。窓の外、あるいはどこでもない場所を見つめているようだった。


 沈黙が続いた。悠真は、その沈黙を埋めようとしなかった。何か気の利いた言葉、励ましの言葉──そういうものを探そうとする自分に気づいて、それを止めた。今、紗奈が必要としているのは、そういう言葉ではない気がした。


「手、握ってもいい?」


 悠真がそう聞くと、紗奈は小さく頷いた。悠真は紗奈の手を、そっと両手で包んだ。冷たかった。以前握った時よりも、ずっと。


「……ごめん」


 紗奈が、ようやく口を開いた。


「謝らなくていい」


 悠真は即座にそう返した。だが、その言葉が紗奈に届いているのか、悠真自身にも分からなかった。


「心配、かけたよね」


「それは、謝ることじゃないよ」


 紗奈は、それ以上何も言わなかった。ただ、目にじわりと涙が滲み、頬を伝って枕に落ちていった。声を出さずに泣く紗奈を、悠真はただ見ていることしかできなかった。


 その日、二人はそれ以上、多くを話さなかった。悠真は、紗奈の手を握ったまま、ただそこに座り続けた。何を言えばいいのか、本当に分からなかった。「頑張れ」も、「大丈夫?」も、今は口にしてはいけない言葉のような気がした。


 面会時間が終わりに近づく頃、紗奈が再び口を開いた。


「……ずっと、隣にいてもらってたのに」


「うん」


「気づいてもらえなかったのは、悠真のせいじゃないよ」


 紗奈の声は、ひどく静かだった。


「私が、言えなかったの。ずっと」


 悠真は、その言葉に何も返せなかった。それが本当かどうか、今の悠真には分からなかった。ただ、紗奈がそう言葉にできたこと自体が、何か小さな一歩のように感じられた。


「今日は、もう休んで」


 悠真がそう言うと、紗奈は小さく頷いた。


 病室を出る前、悠真はもう一度紗奈の顔を見た。目を閉じた紗奈は、眠っているのか、ただ目を閉じているだけなのか、分からなかった。


 廊下に出た悠真は、しばらくその場に立ち尽くしていた。窓の外は、もう夕方の光に変わっていた。


(これから、どうすればいいんだろう)


 答えの出ない問いだけが、悠真の中に静かに残っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。