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ベストフレンズ  作者: 菊池まりな


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第29話 三年生の始まり

四月。


新しいクラス発表が貼り出された朝、悠真は人だかりの中で自分の名前を探した。


三年二組。


隣を見ると、紗奈も同じクラスだった。


「また一緒だ」


紗奈が言った。


「うん」


それだけで、悠真には十分だった。



恒一は三年四組になった。


「お前ら離れたことないな」と恒一が言い、「玲奈は?」と悠真が聞いた。


玲奈は三年一組だった。


四人でそれぞれのクラスを確認して、昇降口に集まった。


「まあ、廊下で会えるしな」と恒一が言った。


玲奈が「そうですね」と言った。


紗奈が「お昼は一緒に食べよう」と言った。


その言葉が、悠真には少し眩しかった。


冬の紗奈には、そういう言葉が出てこなかったから。




新しい教室。


紗奈の席は窓際の真ん中あたりだった。悠真の席は通路側で、二列離れていた。


授業の合間、悠真はときどき紗奈の方を見た。


ノートを取っていた。先生の話を聞いていた。


ただそれだけのことが、悠真には今年は違う重さを持っていた。



放課後。


四人で桜を見に行った。


川沿いの桜が、ちょうど満開だった。


「きれいだね」と紗奈が言った。


「毎年見てるけど、毎年きれいだな」と恒一が言った。


玲奈がスマホで写真を撮っていた。


悠真はカメラを持ってきていた。


桜を撮った。川面に映る桜を撮った。


それから、気づいたら三人の後ろ姿を撮っていた。



帰り道、紗奈が隣に来た。


「今日、楽しかった」


悠真は紗奈を見た。


「うん」


「ちゃんと楽しいって思えた。久しぶりに」


悠真は何も言わなかった。


言葉より先に、胸の奥が動いた。


「それ、俺に言ってくれてありがとう」


紗奈は少し首を傾けた。


「なんで?」


「嬉しかったから」


紗奈は少し考えてから、笑った。


「悠真って、たまにそういうこと言うよね」


「そういうこと?」


「素直なこと」


「普通だろ」


「普通じゃないよ」



夜。


悠真は今日撮った写真を見返した。


桜の写真。川面の写真。


三人の後ろ姿の写真。


その中に一枚、紗奈が川を見ている横顔があった。


撮ったつもりのない一枚だった。


でも紗奈はそこに、ちゃんといた。


冬とは違う顔で、川を見ていた。


悠真はその写真を、しばらく眺めた。




クリニックは、三年生になっても続いていた。


今は月に一度になっていた。


「先生に、楽しいって思えた日があったって話した」と紗奈がメッセージで教えてくれた。


「先生、良かったねって言ってくれた」


悠真は「それは良かった」と返した。


「まだ波があるけど」と紗奈が続けた。


「うん」


「でも、波があることを知ってるだけで、少し違う」


悠真は画面を見つめた。


「波が来たとき、また言って」


「言う」


「約束?」


「約束」




春が来ていた。


完全に冬が終わったわけじゃない。


まだ寒い朝もある。紗奈の波が消えたわけでもない。


でも、川沿いの桜は満開で、紗奈は今日「楽しかった」と言えた。


それが今年の春の、始まりだった。




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