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─第5章─2話「城ヶ崎杏樹の受難」

【城ヶ崎杏樹の受難】


9月中旬。

審査員である5人の業界の重鎮たちが目を光らせる中、全国の新人トップ層が集う『フレッシュアイドルカップ』の予選が開始された。


そして、その結果は衝撃的なものだった。


【Aグループ 最終結果】

1位:城ヶ崎杏樹(朝陽ノ高校)

得点:【481点(500点満点)】


「す、すごい……2位に50ポイント差だぞ!?」

「あの子だけ、完全にレベルが違う……!」


杏樹は、あの『超新星爆発スーパーノヴァ』の封印を解くことすらなく、基礎力とフィジカルの暴力だけでこの異常なハイスコアを叩き出したのだ。


激闘の朝陽ノフォールカップを経て、城ヶ崎杏樹はもはや「1年生」という枠に収まる器ではなくなっていた。

圧倒的なフィジカルと基礎力、そして姉譲りの空間支配能力。重鎮の審査員たちは彼女の恐るべき『飛躍』を確信し、惜しみない賛辞を送った。


一方、Bグループ。

こちらは上位陣が拮抗する混戦となったが、実力者が順当に勝ち抜く形となった。


【Bグループ 最終結果】

1位:小鳥遊たかなし英華えいか(美咲野高校)

得点:【452点】


2位:西園寺ミリア(朝陽ノ高校)

得点:【431点】


そして、数々の実力者がひしめく中、崖っぷちで滑り込んだのが――。


8位:吉野カナメ(命雲学園)

得点:【401点】


「あぶな……かったぁ……」

つぶらな瞳と愛らしいツインテールが特徴の小柄な少女・吉野カナメは、舞台裏でへたり込んでいた。

重圧からの焦りで、歌詞を飛ばすという痛恨のミス。持ち前のあざといリカバリーでなんとかポイントを稼ぎ、首の皮一枚でギリギリ通過したのだ。


そして、決勝トーナメントの組み合わせは非情である。

Bグループ8位通過である彼女の初戦の対戦相手は、Aグループをぶっちぎりの1位で通過した怪物――城ヶ崎杏樹に決まった。



時計の針を少し戻す。9月上旬、命雲学園。

朝陽ノフォールカップの記録映像を観ていた絶対女王・不知火アザミは、その顔に恍惚とした表情を浮かべていた。


「面白いわ……! 神野愛理、城ヶ崎莉杏……そして、城ヶ崎杏樹……!」


アザミの射抜くような瞳は、画面の中で暴れ回る杏樹の姿に完全に釘付けだった。

かつて目にした新星は、今や自分を食らいかねない超新星へと成長している。その強者の存在に、アザミは歓喜でゾクゾクと肩を震わせていた。


「…………」

その様子を、部屋の隅で吉野カナメがじっと見ていた。

以前なら、アザミは「あざと可愛い」カナメを気に入って可愛がってくれていたはずだ。

だが今は、視線すら合わない。完全に眼中にない。


(アザミ様……なんで、あんなヤツを……ッ! あざとさなら、私の方がずっと上なのにぃ……!)


得体の知れない焦りとドス黒い嫉妬が、カナメの心を黒く、どろどろに塗りつぶしていく。


そして現在。本戦直前の楽屋エリア。

カナメは、周囲を警戒しながら杏樹の楽屋の前に立っていた。

そっとドアを開ける。


「……失礼しますぅ……」

誰もいない。杏樹はどこかへ出歩いているようだ。

カナメはふと、鏡台の近くに置かれたステージ用のブーツに目を留めた。

杏樹のあの人外じみたアクロバットとステップを支える、特注の丈夫な厚底ブーツ。


(これを……これを何とかすれば……!)

衝動的に、自分のメイクポーチに入っていた小さなカッターナイフを取り出す。

まともな思考より先に、嫉妬に狂った手が動いた。


ガリッ、ギギッ。

厚底ブーツのソール(靴底)と本体の継ぎ目に刃をねじ込み、強引に剥がしていく。


「ハァ、ハァ……ざまぁみろ、ですぅ……!」

半分ほど剥がれかけたソールを見て、カナメは一瞬だけ留飲を下げた。

だが、その直後。彼女の顔からサーッと血の気が引いた。


(……待って。これ、もしあのアクロバット中に靴が壊れて、大怪我させちゃったら……? もし防犯カメラや何かでバレたら、私、退学……?)


猛烈な罪悪感と、取り返しのつかない事をしてしまったという恐怖が一気に押し寄せる。

カナメはガタガタと震える手で、自身のポーチに入っていたネイル用の強力瞬間接着剤を掴んだ。


「く、くっつけばいいんですぅ! 元通りになれば、バレない……!」


剥がした部分に慌てて接着剤を流し込み、力任せに強く押し付ける。

数分後。見た目上は、完全に元通りになった。


だが、一度物理的に剥がされたソールは、本来の強度が著しく落ちている。しかも、素人が接着剤で中途半端にくっつけた状態というのは、最もタチが悪い。

『過度な負荷がかかった瞬間に、突然剥がれる』という、時限爆弾と化してしまったのだ。


「よ、よし……これなら、絶対にバレない……」

自分が何を作り出してしまったのかも理解せぬまま、吉野カナメは逃げるように楽屋を後にした。

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