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─第4章─2話「Bブロック予選」

【由比ヶ浜ケイの受難】


9月上旬、朝陽ノフォールカップ当日。

今大会では30名の参加者が2つの会場に分かれて予選を行う。由比ヶ浜ケイは、そのうちのBブロックに属していた。


Bブロックの予選会場となるステージ。

その前の審査員席には、アイドル科の厳格な教師4名が険しい表情で鎮座している。


「……ふぅ」

控え室で、由比ヶ浜ケイは静かに集中を高めていた。

彼女が掲げた本日の理想的なゴール、それは――『全力を出し切った上で、5位になってギリギリ予選敗退すること』。


「ケイちゃん、頑張ってね!」

「えぇ……(ほどほどにね……)」


能天気な瓦からのエールに、ケイは内心でそう付け加えながら生返事をした。


15人の精鋭たちによるサバイバルが開幕する。


トップバッター、1番手。

いきなり絶対王者・神野愛理が登場したのだ。


「みんなー! 思いっきり楽しもうッ!!」


彼女が歌い出した瞬間、審査基準そのものが物理的に破壊された。

圧倒的な歌唱力、爆発的なオーラ。厳格な審査員たちはただ圧倒されるしかなかった。


結果:【388点】

いきなりのハイスコア。会場のボルテージは最高潮に達し、後に続く者たちの心をへし折るには十分すぎた。


続いて登場したのは、2番手・御空ユミ。

愛理が作った灼熱の空気を、彼女は持ち前の「剛のクール」で一気に塗り替えた。

音圧で会場を震わせ、ロックなパフォーマンスで熱狂させる。


結果:【355点】

文句なしの高得点だ。だが、愛理との間には「約30点」という絶望的な壁がある。これがトップと、それを追う者の差なのか。


そして、会場の空気が再び一変したのは8番手。

城ヶ崎莉杏。

妹・杏樹の異常な覚醒に触発されたのか、今日の彼女は明らかに「異質」だった。

元々「神の領域」と呼ばれていた幽玄の動き。それがさらに研ぎ澄まされ、重力を完全に無視したかのような浮遊感と、ゾッとするほどの妖艶さを帯びている。


結果:【385点】

会場がどよめいた。絶対王者・神野愛理に肉薄する異常なスコア。

これで、Bブロックは「愛理と莉杏の二強」と「その他」に明確に分断された。


そして、終盤の14番手。ついにケイの出番がやってきた。

上位3枠(愛理・莉杏・御空)はすでにほぼ確定している。

残る決勝進出枠は「あと1つ」。


(……やるしかない)

ケイはステージに飛び出した。

武器は、愛想笑いを完全に封印した「笑わないアイドル」。

ユミのような「剛」の力強さと、莉杏を研究して取り入れた「柔」のしなやかさ。

その二つを理詰めで完璧に使い分け、どこまでもクールに、スタイリッシュに舞う。


「───ッ」

ケイは最後まで気を抜かず、一つのほころびもない完璧な「仕事」を遂行した。

全15人のパフォーマンスが終了し、モニターに最終結果が表示された。

ケイは祈るように画面を見上げた。


(頼む、5位であれ……!)


【Bブロック 最終結果】

1位:神野 愛理 【388点】(通過)

2位:城ヶ崎 莉杏 【385点】(通過)

3位:御空 ユミ 【355点】(通過)

4位:由比ヶ浜 ケイ 【351点】(通過)

5位:藤堂 翔子 【350点】(敗退)


「…………あ」


たった、1点差。

ケイはギリギリの4位に滑り込み、あろうことか地獄の決勝トーナメント行きが決定してしまったのだ。


「…………ッ!!」

結果を見て、膝から崩れ落ちそうになっていた少女が一人。

5位で敗退した藤堂とうどう翔子しょうこだ。

黒髪のロングヘアを振り乱し、彼女は鬼の形相でケイの元へ駆け寄ってきた。


「ハァ、ハァ……!」

口元に艶っぽいほくろがある、THE・日本美人といった顔立ち。

しかし今は、悔しさでその整った顔が激しく歪んでいる。


「なんで……なんで、あと1点……!」

彼女はケイを強く睨みつけた。

ケイが喉から手が出るほど欲しくてたまらなかった「5位」の座を、ケイ自身が実力で奪い取ってしまったのだ。翔子からすれば、ケイは「あと一歩で夢(決勝)を砕いた憎きライバル」に他ならない。


「次は……次は絶対に負けないわ、由比ヶ浜ケイ!!」

藤堂翔子は血を吐くような捨て台詞を吐くと、悔し涙を拭いながら走り去っていった。

こうして由比ヶ浜ケイは、望まぬ勝利を手にし、新たなライバルを作り、強烈な胃痛を抱えたまま、本物の怪物たちが待つ決勝トーナメントへと強制連行されるのだった。

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