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─第3章─16話「大和撫子と太陽の輝き」

【由比ヶ浜ケイの受難】


「第4試合。……先攻、高嶺アイ」

瀬谷のコールを受け、命雲学園No.2・高嶺アイが静かにステージへ上がる。 

彼女が纏う空気は、さきほどのローズのような底抜けの「陽」でも、御空ユミのような鋭い「冷気」でもなかった。

すべてを優しく包み込み、そして強制的に沈黙させる、圧倒的な「大和撫子の威圧感」。 


「……聴いてください」

アイが静かに目を伏せる。

流れ出したのは、琴や尺八の音色を現代風にアレンジした『和風アンビエント・バラード』。

彼女がマイクを通してふわりと歌い出した瞬間、体育館の空気が一気に浄化された。


究極のヒーリングボイス。

雅やかで、どこまでも透き通るような高音。派手なダンスは一切ない。ただ中央に立ち尽くし、優しく微笑みながら歌うだけで、観客の意識を「聴くこと」のみに強制的に集中させる。

それは極上の癒やしであると同時に、一切のざわめきを許さない「静寂による支配」だった。


(……すごい。身体が動かせない)

審査席のケイは、まるで金縛りにでもあったかのように身動きが取れなくなっていた。心地よさの中に潜む、絶対的な実力に息を呑む。


「後攻、川那部ナツメ」

アイが深いお辞儀と共に引いた後、静まり返ったステージに川那部ナツメが躍り出る。

曲が始まった。

選んだのは、疾走感のある、しかし大人びたスタイリッシュなダンスナンバー。


動き出したナツメのパフォーマンスに、“無駄”は一切なかった。

普段のガサツで騒がしい挙動からは到底想像もつかない、指先まで神経が行き届いた洗練されたダンス。

持ち前の長い手足を活かしたシルエットはあまりに美しく、そして文句なしにカッコいい。


夏のツインスターカップで見せた、あのパワー任せで荒削りな豪快さとは別次元の仕上がりだった。

そして何より――「笑顔」だ。


(――――ッ!!)

どんなに激しいステップを踏んでも、どれほどテクニカルなターンを決めても、彼女の表情は常に「太陽のように晴れやかな笑顔」で固定されていた。

苦しい顔ひとつ見せない。力みすら感じさせない。


ただひたすらに楽しそうに、しかしプロフェッショナルとして完璧に計算された動きで、アイが作り上げた強固な「静寂」を、最高に心地よい「リズム」へと次々に書き換えていく。

降り注ぐ陽光のように、防ぎようのない「圧倒的なポジティブの奔流」。

雑音などひとつもない。すべてがクリアで、見る者を理屈抜きに魅了する太陽の輝き。


(……そうだった)

ケイはハッと思い出した。

この人は、あの絶対王者・神野愛理とユニットとして並び立った「もう一つの太陽」なのだ。

普段がバスの2列目で酢昆布を食べて騒いでいるくらいうるさすぎるため、つい忘れてしまいそうになるが、彼女もまた、朝陽ノ高校が誇る紛れもない怪物の一人なのだと。


「サンキュー!!!」

曲の最後。ナツメは汗ひとつかかず、今日一番のビッグスマイルとピースサインでキメた。

その姿は、誰もが憧れる「カッコいいアイドル」そのものだった。


ステージから戻ってきたナツメに対し、高嶺アイは「ふう」と小さく溜息をつき、困ったように微笑んだ。

「……流石ですね。普段の騒がしさを微塵も感じさせない演技……お見事でした」

「なっはっは! アイちゃんからの最高の褒め言葉として受け取っとくわ!」

豪快に笑うナツメ。

大和撫子による絶対的な封殺を、太陽の輝きが実力で突破した瞬間だった。


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