─第3章─14話「洗練と圧倒」
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【由比ヶ浜ケイの受難】
命雲学園の面々が杏樹の残した物理的インパクトに呆然とする中、瀬谷先生のコールが次なる試合の開始を告げる。
「第二試合。……先攻、加賀美佳乃」
「ふぅ……」
名前を呼ばれた佳乃は、スタイリッシュでありながらもフリルがあしらわれた、黒と白の『王道のアイドル衣装』に身を包んでステージへと現れた。
彼女は小さく一息をつくと、中央でスッと構えに入る。
直後、BPMの速いアップテンポなダンスナンバー――洗練されたビートと鋭いシンセサイザーが絡み合う『エレクトロ・ポップ』が会場を駆け抜ける。
イントロが流れた瞬間。先ほどまでケイを気遣っていた面倒見の良い彼女の表情が、一瞬にして隙のない『プロ』のそれに切り替わった。
正確無比なリズムキープ。
指先の角度、髪の毛の揺れにいたるまで完璧に計算されたシャープなダンス。
そして、どれほど激しい動きの中でも決してブレることのない、圧倒的に安定したボーカル。
(……上手い)
審査員席のケイは、思わず前のめりになった。
先ほどの杏樹が見せたような、空間をねじ伏せる規格外の「衝撃」や「暴力」ではない。
しかし、基礎を極限まで磨き上げ、王道を極めたような『確かな技術』が、水が浸透するように体育館の空気を支配していく。
ダァンッ!
曲の終わりと共に、指先のミリ単位まで研ぎ澄まされた完璧なフィニッシュが決まる。
城ヶ崎杏樹によって踏み荒らされ、焦土と化していた会場の空気は、佳乃の洗練されたパフォーマンスによって、一瞬にして美しくフラットに『舗装』されたのだった。
「後攻、御空ユミ」
佳乃によって美しく『舗装』されたステージ。
和洋折衷のシックな出で立ちをした御空ユミが、一切の表情を崩すことなく、静かに構えに入った。
ギュイィィィンッ……!!
空間を切り裂くような鋭いシンセサイザーと、腹の底を打つ激しいビート。選んだ楽曲は『デジタル・ロック』。
直後、御空は息を呑むほどキレのある美しいターンを決め、一気にステージ前方へと躍り出た。
(……速い、そして重い!)
審査席のケイは目を見張った。
佳乃のダンスが「正確無比」であるなら、御空のダンスは「圧倒的な出力」を伴っている。
激しい曲の音圧に一切負けない、ビリビリと空気を震わせるような痺れる歌声。
指先どころか、振り乱す髪の毛の一本一本にまで意志が宿っているかのように研ぎ澄まされた、力強くキレのあるステップ。
夏のツインスターカップでの激闘を経て、御空ユミの最大の武器である『剛のクール』は、間違いなくさらなる高みへと進化を遂げていた。
佳乃が築き上げた王道のフィールドを、決して小細工は使わず、正面からの純粋な「実力」だけで制圧していく。
「凄い音圧……流石は1年生大会の覇者ですね……」
命雲学園の陣営から、思わず感嘆の声を漏らしたのは、3年生の高嶺アイだった。
あの女王・不知火アザミでさえ、腕を組んだまま不敵な笑みを消し、射抜くような真剣な眼差しをステージに向けている。
ジャァァァンッ!!
そして、最後の一音。
御空ユミは空気を両断するような鋭いモーションで、力強く、そしてこの上なくクールにフィニッシュのポーズを決めた。
乱れた息を微塵も表に出さず、氷のように冷たく熱い視線を客席へと向ける。
佳乃の『洗練』に対する、ユミの『圧倒』。
互いの「クール」のベクトルが真っ向から衝突した第二試合もまた、両校のプライドが激突する凄まじい名勝負となったのだった。
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