─第3章─13話「銀色の弾丸」
【由比ヶ浜ケイの受難】
不敵な笑みとともに、重々しいメロディがスピーカーを震わせた。
ドゥン……ドゥン……
城ヶ崎杏樹が動き出す。
それは、先ほどのカナメが見せた軽やかなステップとは対極にあるものだった。
激しく手足を振り回しているのに、体幹という名の「軸」が一切ブレない鋼鉄のダンス。
それでいて、関節の可動域は姉・莉杏譲りの柔軟性を持ち、腕を振るたびに周囲の空間をぐにゃりと歪ませるような錯覚を引き起こす。
「――――ッ!!」
一切のブレがない、力強く響き渡る歌声。
可愛らしいカナメの歌声で満たされていた体育館の空気が、強引に上書きされていく。
そして、サビのクライマックス。
ドゥン! ドゥン!
重低音のビートに完璧に合わせ、杏樹がバク転を決める。
そこから、着地と同時に一瞬の「タメ」を作る。
普通のアイドルなら、ここでポーズを決めて終わりだ。だが、彼女は違った。
そのタメから爆発的なバネを使って、前方へ跳んだ。
前宙。
空中で小さく回転する銀色の弾丸。
ドゥン!!!
曲の締めくくりとなる最も重い低音とともに、彼女は両足で床を捉え、着地した。
ふらつきなど微塵もない。まるで床に根を張った大樹のように、ピタリと動きを止める。
微動だにしない、完璧な構え。
静寂。
全員が息を飲む中、彼女はパチリと目を開け、マイクを下ろした。
「ありがとうございましたっ!」
さっきまでの破壊神が嘘のような、可愛らしい透き通る声。
そのギャップに、見ている全員の脳処理が追いつかなかった。
舞台袖に戻ってきた杏樹は、汗を拭いながら充実した顔をしていた。
「ふぅ……! 緊張したぁ…!」
その無邪気な笑顔に向けられたのは、賞賛ではなく「恐怖」の視線だった。
出番を終えて待機していた吉野カナメは、震えながら後ずさりした。
(ひっ……!)
カナメの本能が警鐘を鳴らしていた。
同類だと思っていた『ソレ』は岩を拳で砕くような、バキバキの黒い破壊者だった。
もし、ここに大勢の観客がいれば、間違いなくスタンディングオベーションと拍手喝采が巻き起こっていただろう。
だが、ここは少人数の交流戦。
カナメが丁寧に耕し、花を咲かせた「和やかな会場」は、杏樹という爆撃機によって破壊し尽くされ、焼け野原になっていた。
あまりの衝撃に、拍手すらまばら。
場が温まるどころか、誰もが「とんでもないものを目撃した」というショックで呆然としている。
「……はぁ…仕方ない…次、あたしが行くわ」
「朝陽ノからは自分が出ます」
この重苦しくもカオスな空気を察して、次の演者が立ち上がった。
焼け野原の整地が必要だ。
命雲学園No.4・加賀美佳乃。
そして、朝陽ノ高校・御空ユミ。
実力派の二人が、破壊されたステージの仕切り直しへと向かう。




