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─第3章─12話「可愛いの空間と忍び寄る破壊者」

【由比ヶ浜ケイの受難】


第一試合は、1年生対決。

練習試合といっても、形式上は互いにパフォーマンスを見せ合うだけの交流会であり、明確な点数や勝敗はつけない。


だが、この場にいる全員が理解していた。

ここで無様な姿を晒せば、両校のトップランカーたちの前で「敗北者」の烙印を押されることになる。それは実質的な「公開処刑」に近い。


ステージとなる体育館。

出番を待つ城ヶ崎杏樹は、ガチガチに緊張して震えていた。

それも無理はない。目の前には師匠であるケイや、太陽・神野愛理、そしてあの不知火アザミといった両校の怪物たちがズラリと審査席に並んでいるのだ。


(ふふっ、震えてる震えてるぅ。可哀想にぃ……)

その様子を見て、吉野カナメは内心で舌を出した。

彼女は気遣うような優しい声で「緊張してますぅ? じゃあ、私が先に場を温めますねっ♪」と先攻を申し出た。

優しさではない。これは、後に控える杏樹にプレッシャーを与え、引導を渡すための狡猾な計算だ。


「先攻、吉野カナメ」

瀬谷先生の厳粛なコールが響く。


カナメがステージ中央に立った。

普段の大勢の観客がいるライブなら、「みなさぁーーん!!」とアイドル全開で場を煽るところだ。

だが、彼女はクレバーだった。

今回は審査員(先輩たち)だけの少人数。ならば、と彼女は瞬時に戦法を変えた。


流れ出したのは、ローテンポな、可愛らしくも落ち着いた楽曲。

彼女は大きな瞳をキュルっと潤ませ、観客一人一人に丁寧に「目配せ(レス)」を送っていく。

くるっと優雅でキュートなターン。

重力を感じさせない軽やかなステップ。

そして、砂糖菓子のように甘く、可愛らしい歌声。


(……やるわね)

ケイは素直に感心した。

彼女の作り出す空気は、すべてを包み込む「可愛いの空間」。

あの常に不機嫌そうな女王・不知火アザミでさえ、頬杖をつきながら柔らかな表情を浮かべている。

体育館全体に、春の日差しのような和やかな雰囲気が漂っていた。

「……すごいなぁ、カナメちゃん。完璧な空気作りだ」

神野愛理が小さく拍手を送る。

だが、その表情はどこか引きつっていた。

愛理だけでなく、朝陽ノ高校のメンバー全員が、この後に起こる大惨事を予感して遠い目をしていた。


「後攻、城ヶ崎杏樹」

カナメが満足げに舞台袖に戻り、入れ替わりで杏樹が登場する。

そして、照明が彼女の姿を照らした瞬間。

命雲学園の関係者全員に、電流のような衝撃が走った。


「…………え?」

そこに現れたのは、先ほどの「震える小動物」ではなかった。

黒を基調とした、露出の多い攻撃的な衣装。

チョーカー、網タイツ、重厚なブーツ。

そして何より――カナメの作ったふわふわな空気を物理的に切り裂くような、バキバキに鍛え上げられた腹筋シックスパック。 

「なに……あれ……?」

不知火アザミの目が点になる。


だが、一番驚愕していたのは、舞台袖で勝ち誇っていた吉野カナメだった。

(は、はいぃぃ!?)

彼女は、杏樹を「自分と同じタイプ(か弱くて可愛い系)」だと分析し、自分の下位互換としてスマートに処理しようとしていた。

だが、目の前に現れたのは、どう見ても「格闘タイプ」の女戦士バーサーカー

フリルとレースで武装したカナメに対し、杏樹は筋肉とレザーで武装しているのだ。

(……聞いてないんですけどぉ!?)

カナメの完璧な計算が音を立てて崩壊していく中。


杏樹はステージ中央で仁王立ちになり、マイクを逆さに持って真横に突き出した。

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