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─第3章─8話「失神」

【由比ヶ浜ケイの受難】


勝敗は、誰の目にも明らかだった。

重低音の余韻が残る体育館。

審査席に並んだトップランカー4人は、顔を見合わせた。そこに議論の余地など一切ない。


「……城ヶ崎杏樹。ええな?」


沈黙を破った川那部ナツメのひと言に、ケイ、愛理、御空の3人は無言で深く頷いた。


満場一致。

ミリアの作り上げた世界観も確かに素晴らしかった。だが、杏樹が放ったそれは、もはや理屈を超えた物理的な『暴力』だった。

技術、表現力、そして何より「会場を破壊し尽くした圧倒的なインパクト」。審査会議とは名ばかりの、即決であった。


だが、問題はそこからだった。

「私が……負け……?」

結果を通達された西園寺ミリアは、生まれて初めて味わう「完全敗北」の味に呆然と立ち尽くしていた。


目の前で見せつけられた、完膚なきまでの暴力的なパフォーマンス。

自分の作り上げた美しく完璧な箱庭を、ダンプカーで容赦なく踏み荒らされたような衝撃が、彼女の精神的キャパシティを完全に超えてしまったらしい。


「あ……ぅ………」

ガクッ。

ミリアは白目を剥き、糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。

「きゃあぁぁ!! ミリア様!?」

「おい、しっかりしろ! 保健室だ!」

現場は一瞬にしてパニックに陥った。

慌てて駆け寄る専属のマネージャーと、手際よく担架を手配する瀬谷先生によって、あわれな令嬢はそのまま保健室へと搬送されていった。


嵐が去った後の体育館。

残された審査員たちの視線が、一斉に由比ヶ浜ケイへと向けられた。

「……ねぇ、ケイちゃん」

神野愛理が、頬を引きつらせて問う。


「あれ、ケイちゃんの弟子でしょ? ヤバいよ、一体何を教えたの…?」

「えっ、いや、私はただ基礎的なステップと歌のロジックを……」

「基礎であんな動きにならないでしょ!? どこの特殊部隊の訓練よ!」

「ホンマやでケイちゃん……」


愛理に続き、ナツメもドン引きした顔でケイを見ている。

「あの子、ディスコファンクのリズムに完璧に合わせてバク宙しとったぞ。アイドルの審査で『殺気』感じたんは初めてやわ……」

「……とんでもないのを育てたね、ケイ」

御空ユミまでもが、腕を組んだまま冷ややかな目で告げてきた。


(違う……! 私はただ、お姉さんに追いつきたいという彼女の願いを叶えるために、ちょっと理詰めで指導しただけで……!)

いくら過酷なロケやストイックなトレーニングで基礎能力を上げたとはいえ、まさかあんな化学反応を起こして物理特化の怪物アイドルに進化するなど、由比ヶ浜ケイの完璧な計算式にも一切含まれていなかったのだ。


そして翌日。

朝陽ノ高校の校内には、早くも新たな噂が駆け巡っていた。


『──城ヶ崎杏樹が、あの西園寺ミリアを失神させたらしい』


「…………」

ケイは廊下の片隅で、深く頭を抱えた。

弟子の成長は喜ばしいはずだ。しかし、今の彼女には喜悦を通り越して「恐怖」すら感じていた。

由比ヶ浜ケイが育ててしまったのは、アイドル界の常識を覆す規格外の狂戦士バーサーカーだった。


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