─第3章─5話「練習試合」
【由比ヶ浜ケイの受難】
ちゅらビーチロケから数日後の事
「入れ、由比ヶ浜ケイ」
「……失礼します」
重苦しい空気の漂うアイドル棟の職員室。
そこに呼び出された由比ヶ浜ケイは、チクチクと痛む胃を堪えながら重いドアをくぐった。
彼女を呼び出したのは、朝陽ノ高校アイドル科を長年束ねる鉄のベテラン教師・瀬谷涼子。
一切の妥協を許さない冷徹な指導と、射抜くような鋭い眼光で生徒たちから恐れられている存在だ。
本来、普通科のケイにとっては関わりのない相手のはずだったが、直近の大会での大立ち回りが、ついに学校上層部の目にとまってしまったらしい。
瀬谷は手元の資料からゆっくりと顔を上げた。
「単刀直入に言う。愛知県にある名門・命雲学園アイドル科との『練習試合』が決まった」
「……練習試合、ですか?」
ケイは思わず聞き返した。
(練習試合……? アイドルなのにスポーツみたいな言い方。対バンとかジョイントライブとかではなく……?)
「そうだ。向こうの選抜メンバーと、本校の選抜メンバーで実戦形式のパフォーマンス対決を行う。……日程は来月、一泊二日の愛知遠征だ」
「で、でも、スケジュールが……」
過密極まる夏休みの予定を思い出し、ケイが反論しようとした瞬間。
「心配するな。スケジュールの休日2日に予定を入れておいた」
「…………」
絶望で言葉を失うケイをよそに、瀬谷は淡々と説明を続ける。
「本校から送るメンバーは、校内のアイドル部門・成績上位者4名。それに加え、育成枠として1年生から成績上位者1名を帯同させる」
「あ、あの、瀬谷先生。私は普通科の生徒なんですが……」
「関係ない。対象はアイドル科に限らず、普通科も含めた全生徒だ。これまでの大会データと日々の実績から、学校側が厳正に選出した」
瀬谷は手元のバインダーをバンッ!と叩き、無慈悲にその4名の名を読み上げた。
「選ばれた上位4名は以下の通りだ。
神野愛理。
御空ユミ。
川那部ナツメ。
……そして、由比ヶ浜ケイ。以上だ」
「…………」
ケイは無表情を保ちながら、内心で頭を抱えた。
(……錚々たる面々………)
「そして、もう1つ」
瀬谷はケイの心情などお構いなしに、さらに鋭い視線を向ける。
「育成枠である『1年生の1名』だが、現在候補が2人に絞られている。遠征までの期間、お前たち成績上位者4名には、この2人を直接審査し、どちらを愛知へ連れて行くか決めてもらう」
「私たちが、審査を……?」
「そうだ。候補者は以下の2名」
瀬谷は2枚の生徒証のコピーを机に並べた。
「1人目は、1年生の成績トップ。大富豪の令嬢であり、幼少から英才教育を受けてきたエリート、西園寺ミリア」
見せられた写真には、完璧に巻かれた縦ロールの金髪と、自信に満ち溢れた勝ち気な瞳を持つ美少女が写っていた。
「そして2人目。直近の大会で急激に実力を伸ばし、特例でアイドル科への転入を果たしたダークホース……」
瀬谷が指差したもう1枚の写真。
それを見た瞬間、ケイは息を呑んだ。
「……!」
そこには、ケイにとって見慣れた、そして絶対に見捨ててはおけない銀髪の少女が写っていた。
「城ヶ崎杏樹。……この2人だ」




