─第2章─最終話「姉妹の絆」
【由比ヶ浜ケイの受難】
「……杏樹………」
「あ、お姉ちゃん!」
城ヶ崎家。
杏樹の部屋では、長らく失われていた『姉妹水入らずのお茶会』が、ひっそりと開催されようとしていた。
フローリングの床にクッションを投げ出し、そこへゴロンと寝っ転がるのは城ヶ崎莉杏。
彼女の手には、キラキラと輝くパッケージのチョコレート。
3月のアイドルトーナメントで由比ヶ浜ケイに敗北して以来、己に科していた『甘味断ち』。じつに5カ月ぶりとなるチョコの袋を、彼女はゆっくりと開けた。
「……杏樹……」
「……ん?」
姉の呼びかけに応えた妹・杏樹の口の周りには、塩の粉がついている。
彼女もまた、由比ヶ浜ケイの元を訪ねて地獄の特訓を開始した『あの日』以来、実に3カ月ぶりとなるポップコーンを頬張っていた。
「…………次は、勝つ………」
天井を見つめたまま、莉杏は呟いた。
普段の途切れ途切れの幽霊のような喋り方ではない。彼女にしては珍しいほど、ハッキリと輪郭を持った力強い口調だった。
それは、妹の個人票が自分を上回ったことへの純粋な『悔しさ』。
かつて自分がリベンジを誓い、目の敵にしていたあの由比ヶ浜ケイでさえも、自分が輝くための「舞台装置」として利用し尽くした妹の底知れぬ力。
城ヶ崎莉杏が、自らの妹を初めて対等の『ライバル』として認めた瞬間だった。
しかし。
服の下にはシックスパックを隠し持ち、自分の真のポテンシャルをまだ全く把握しきれていない銀髪の少女は呑気に答える。
「えーっ! お姉ちゃんと次やったら、絶対わたしが負けちゃうじゃん! こないだだって、ユニットとしては負けちゃったし!」
緊張感など微塵もない。
莉杏の静かなる決意表明を、ただの姉妹のじゃれ合いだと思っているかのように、杏樹はポップコーンを無邪気に頬張り続ける。
「……………」
あまりにも拍子抜けな妹の反応に、莉杏は小さくため息をついた。
そして、照れ隠しのように手を伸ばし、杏樹の綺麗な銀髪をくしゃくしゃと撫で回した。
「あ、そうだお姉ちゃん!」
杏樹はポップコーンを飲み込むと、思い出したようにスマホを取り出し、ある画面を姉に見せた。
「このプロテイン知ってる? 味は最悪で泥みたいなんだけど、筋肉への効果は抜群って界隈で評判のやつ!」
姉はチョコを飲み込み、一切の表情を変えずに淡々と答えた。
「…………もう買ってる…………」
「えっ! さすがお姉ちゃん!」
甘いお菓子に囲まれながら、激マズプロテインの効能で盛り上がる姉妹。
城ヶ崎姉妹の絆は、強固に、そして少しだけ歪な形で、ここに完全復活を果たしたのだった。
由比ヶ浜ケイの受難─2章─完結しました!
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そして、ここで一旦完結としますが続編も予定しています。
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