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─第1章─4話「最強のレッスン」

【由比ヶ浜ケイの受難】


「愛理さん、怪我の調子はどう?」

昼休み、由比ヶ浜ケイの教室。

松葉杖をついた少女に尋ねると、彼女は太陽のような笑顔で即答した。

「全治3カ月! 大怪我!」

「……元気ね」

そう答える彼女こそ、『ビッグバン』神野愛理。

由比ヶ浜ケイを光り輝くステージへと引きずり上げた元凶にして、高校生最強のアイドルだ。

その右足はガチガチに固定されているが、本人のオーラは微塵も陰っていない。

「ケイちゃんごめん! あの時は『代役』なんて冗談のつもりだったんだけど、まさかホントにステージ出ちゃうとは……ケイちゃんの度胸、見直したよ!」

「はぁ……」

ケイは深いため息をついた。

冗談で人生を変えられてたまるかと内心毒づく。

「おかげ様で、日曜日にはまたライブよ……」

「えーー! ケイちゃんライブ出るの!?」

愛理が目を輝かせて食いついてきた。松葉杖が危なっかしく揺れる。

「いやー、才能あると思ってたけど、こんなすぐライブの予定取り付けるとか凄いよ! 曲とか衣装はどうすんの? 既存曲のカバー?」

「全部、マネージャーのおかげ……。曲や衣装も、あの人が用意してくれるわ」

血走った目でスマホに何かを打ち込んでいる瓦幸慈に目をやるケイ。

「えっ? 新曲と新衣装ってこと? この短期間で?」

さすがの愛理も目を丸くした。プロの世界を知る彼女だからこそ、その異常さが分かるのだろう。

「あの人の実家、奇しくも衣装デザイナーだったのよ」

「なるほど、だから衣装はなんとかなるとして……曲は?」

「その実家経由のコネクションを使って作曲家と接触し、私を猛PRして『出世払い』での作曲を取り付けたらしいわ」

「……ケイちゃんのマネージャーさん、すっごいね……」

愛理が珍しくドン引きしていた。

「才能への投資」とはいえ、海のものとも山のものともつかぬ素人のために、プロに曲を書かせるとは。


「でも……」

愛理の表情が、スッと真剣なものに変わった。アイドルの顔だ。

「歌や踊りは大丈夫なの? 小さい会場とはいえ、オリジナル曲を披露するんでしょ? お客さんの前で恥はかけないよ?」

「うっ……」

図星を突かれ、ケイは渋い顔になった。

文化祭は「勢い」と「愛理の代役という物語」があったから許された。

だが、次のステージは違う。一人のアイドルとして評価されるのだ。

今の由比ヶ浜ケイにあるのは、神野愛理のダンスをコピーした記憶力だけ。基礎も技術もない。

愛理はしばらく考えたあと、ポンと手を打った。

「じゃあ、あたしが教えたげる! 今日、仕事オフだから!」

「え……いいの?」

「うん! ケイちゃんには苦労かけたしね! 責任とって、あたし直伝の基礎を叩き込んであげる!」

ニカッと笑うビッグバン。

元々この人のせいなのだが、高校生最強アイドルからの直接指導。今のケイにとって、これ以上ない蜘蛛の糸だった。

「……助かるわ。よろしくね、愛理さん」

こうして、日陰者と宇宙大爆発による共同レッスンが始まった。

それは、ケイの中に眠る「アイドル」の目を覚ますための、最初の一歩だった。


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