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─第2章─6話「シックスパック」

いつも読んで頂き感謝です。

重ねてのお願いですが、面白かったら評価やブクマお願いします。

【由比ヶ浜ケイの受難】


6月上旬

「アンタがケイちゃん!? 美人さんやなー!!」

その声は、教室の空気をビリビリと震わせるようなボリュームだった。

目の前に現れたのは、ケイよりも頭一つ分背が高い、長身の女子生徒。


鮮やかなオレンジ色の派手な髪を、前髪ごとガバっと後ろに撫で付け、ラフなポニーテールにまとめている。

その目は細く、いわゆる「糸目」で、口元には人懐っこい、しかしどこか食えない笑みを浮かべていた。


彼女こそ、神野愛理のユニットパートナー、高校3年生の川那部かわなべナツメだ。


「……どうも(声でか……)」

ケイが若干引き気味に挨拶すると、隣にいた愛理がニカっと笑って紹介した。


「いやー、ナツメ先輩、来年卒業して海外行っちゃうからさー! 思い出作りに組んであげたの!!」

「組んであげたってなんやねん!! お前は大御所トップアイドルか!!」


ナツメが即座に、愛理の頭をスパーン! とハリセンのような勢いで叩く。


「年齢イコール芸歴で全国王者の大御所トップアイドルだもーん!!」

「やかましいわ! ほんま生意気な後輩やで!」


ギャハハハ! と笑い合う二人。

うるさい。鼓膜が痛い。

だが、その掛け合いのテンポは完璧で、まるで長年連れ添った漫才コンビのような阿吽の呼吸を感じさせた。

「ほな、よろしくなケイちゃん! お手柔らかに頼むで〜!」

「じゃあねーケイちゃん! ばいばーい!」

嵐のように現れ、嵐のように喋り倒し、二人は肩を組みながらアイドル科の棟へと戻っていった。


「……なんなの、あの人」

呆然とするケイに、マネージャーの瓦幸慈が補足説明を入れる。


「ナツメ先輩はね、去年の上半期はアイドル科でもトップクラスの成績だった実力者だよ。歌もダンスも超一流」

「上半期は? 下期は?」

「うん。登山ロケで滑落して、全身打撲でずっと入院してたから記録がないんだよね〜」

「……はい?」


ケイは耳を疑った。

登山ロケ? 滑落? 全身打撲?

アイドルの活動内容にしてはハードコアすぎる。

「なんでも、『伝説の山菜』を採りに行く企画だったらしいけど……。まぁ、とにかく体力とフィジカルは学園最強クラスだよ。愛理さんのパートナーなだけあって、手強そうだね」

(……愛理さんの相方は、やっぱり変人か)


あの能力カンストお化けの神野愛理がナツメと組むことで、どのような化学反応が起きるのか。

「思い出作り」と言っていたが、その実力は間違いなく優勝候補の一角だ。



放課後。レッスン室。

ケイは、ストレッチをしている城ヶ崎杏樹の姿を見て、息を呑んだ。


「……杏樹ちゃん、それ」

スポーツブラとジャージ姿の杏樹が、タオルで汗を拭うために上着をまくり上げた瞬間。

その白く華奢な腹部にうっすらと、しかし確かな陰影シックスパックが浮かび上がっていたのだ。


「え? あ、これですか? ……最近、ちょっと硬くなってきたんです」

杏樹は照れくさそうにお腹をさする。

この1カ月半。

彼女はとてつもなくストイックな生活を送っていた。

お菓子を断ち、脂質を制限し、ケイが課した地獄のランニングと筋トレを、一度もサボることなくこなし続けた。

運動神経ゼロの少女が、ただひたすら「姉の眼中に入りたい」という一心だけで、肉体を改造してしまったのだ。


(……努力の天才か、それとも執念か)

「よし、じゃあ歌のレッスンいくわよ」

「はいっ!」


発声練習の声も、以前の「蚊の鳴くような声」ではない。

腹筋という土台ができたことで、細いながらも芯のある、透き通るような美声がスタジオに響くようになっていた。


まだダンスは不格好だ。技術も足りない。

だが、この銀色の少女の腹筋には、エリートたちを食い破るだけの「何か」が宿り始めていた。


訂正:3話「共と個」にて「朝陽ノツインスターカップは6月」との台詞がありましたが7月でした。

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