─第2章─5話「最凶タッグ」
【由比ヶ浜ケイの受難】
ある日の昼休み。
水筒を自宅に忘れた由比ヶ浜ケイは、喉の渇きを潤すために渡り廊下の自販機コーナーへと向かった。
「……はぁ」
そこで、この世の終わりみたいな深いため息をついている人物を見つけた。
御空ユミだ。
いつもは背筋をピンと伸ばしている彼女が、ベンチに座り込み、スポーツドリンクを握りしめて項垂れている。
「……珍しいわね。ユミがそんなに元気ないなんて」
「あ……ケイ……」
御空は顔を上げた。
ケイは隣に座り、コーヒーのプルタブを開けながら尋ねた。
「何かあったの? ユニットの相手が見つからないとか?」
「……逆だよ。決まったの」
「へぇ、誰と?」
「…………城ヶ崎莉杏先輩」
「…………ぶふっ!!」
ケイはコーヒーを吹き出しそうになった。
最悪の相手だ、あの「幽玄」の怪物。
「嘘でしょ……? どうしてそんなことに」
「……向こうから、誘われたの」
御空がポツリと語る。
ある日突然、莉杏が現れ、こう言ったらしい。
『……ユミ………私と、組んで………』
そして、二つの選択肢を提示された。
『……「共」か……「影」か………』
「……で、あたしは『影』を選んだ」
「!?」
ケイは驚愕した。プライドの高い御空ユミが、自ら脇役を選んだのか。
御空は自販機の明かりを見つめながら、静かに、しかし熱く語った。
「……悔しいけど、今のあたしじゃ真正面から戦っても莉杏先輩には勝てない。あそこはまだ『神の領域』…」
「でも、一番近くで踊れば、その技術、呼吸、魔力の正体を盗めるかもしれない」
それは敗北宣言ではない。貪欲な向上心。
泥をすすることになっても、強くなるための糧にするという覚悟だ。
「それに……あの人を『完璧に引き立てて』優勝すれば、それは御空ユミの勝利でもある。……見てなよ。あたしが最高の影になって、あの怪物を制御してみせるから」
「……そっか(ユミらしいな……)」
「ただ……あの人、本当に変人だから……苦労が絶えないんだけど……」
「あはは……」
お互い、パートナーには苦労させられているようだ。
しかし、ケイの内心は穏やかではなかった。
『城ヶ崎莉杏(怪物)』×『御空ユミ(怪物)』。
これは、反則級の「チートデッキ」だ。
正直、素人(杏樹)を抱えた今の自分たちに、勝ち目は万に一つもない。
「……はぁ」
ケイは絶望的なため息をつきながら、教室へと戻った。
放課後。
ケイがレッスン室を覗くと、そこにはすでに先客がいた。
「ワン、ツー、スリー……! うっ……!」
城ヶ崎杏樹だ。
まだケイが来る時間ではないのに、一人で黙々とステップの練習を繰り返している。
不格好だ。リズム感も悪い。
何度も足がもつれ、転びそうになりながら、それでも必死に鏡の中の自分と向き合っている。
『……お姉ちゃんの眼中に入りたいんです』
その姿を見て、ケイの脳裏に昼間の絶望感がよぎる。
相手は、幽玄の姉と、その最強のサポート役・御空ユミ。
勝てるわけがない。無謀だ。やめておいた方がいい。
(……でも)
ケイは、汗だくで練習する杏樹の背中から目を離せなかった。
才能はない。でも、この子は「誰かのために」必死になれる。
(……勝たせてあげたい)
理屈や勝率じゃない。
この不器用で健気な少女の願いを、叶えてあげたいと思ってしまった。
「……悪いけど、スパルタで行くわよ」
ケイは覚悟を決め、ドアを開けた。
「あ! ケイさん!」
「……さぁ、次のステップ行くわよ」
「はいっ!!」
たとえ相手が神だろうと悪魔だろうと関係ない。
由比ヶ浜ケイは、城ヶ崎杏樹の手を引き、茨の道を突き進むことを決心した。
すみません、書き溜めてた分の2章を少し書き直すので更新頻度下がります(たぶん)。
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