─第1章─27話「勝利宣言」
【由比ヶ浜ケイの受難】
いよいよ準決勝。
会場のボルテージは最高潮に達し、空気は張り詰めていた。
ここからの戦いは、文字通り「次元」が違う。
■第1試合
神野愛理VS御空ユミ
■第2試合
城ヶ崎莉杏VS由比ヶ浜ケイ
控え室へと続く長い廊下。
これから始まる死闘を前に、静寂が支配するその空間で、二つの影が交差した。
「……神野、愛理……」
「おっ、ユミちゃんじゃん! よっ!」
腕を組み、仁王立ちで待ち構えていた御空ユミに対し、神野愛理はまるでコンビニで友人に会ったかのような気軽さで片手を挙げた。
御空は腕を組んだまま、鋭く愛理を睨みつける。
その瞳には、かつての劣等感ではなく、研ぎ澄まされた刃のような敵意が宿っていた。
「……次の対戦相手を前にして、随分と余裕だね」
しかし、愛理はそんな御空の殺気を柳に風と受け流す。
「まぁそう言わず、気楽にやろうよ! お祭りなんだし!」
「……ふざけないで」
御空が一歩、愛理に歩み寄る。
「もう、前のあたしとは違う。坂本さんのレッスン、そしてケイとの時間……全てを糧にしてきた」
御空は、愛理の瞳を真っ直ぐに見据えて宣言した。
「今日こそ、あなたの領域にも踏み込んでみせる」
それは、「神の領域」への侵入宣言。
だが。
そんな御空の言葉が気に入らなかったのか、愛理の表情からスッと「温度」が消えた。
「…………」
愛理の口元に、冷徹な笑みが浮かぶ。
それは太陽の暖かさなど微塵もない、絶対強者の嘲笑。
「……まぁ、今のあなたじゃ踏み込むのが限界じゃない?」
「……ッ!? 何を……!!」
御空の肩が跳ねる。
『お前はあたしの領域に爪先を踏み入れるのが精いっぱい。絶対に、あたしには勝てはしない』
という、慈悲なき勝利宣言。
御空は動揺しながらも組んでいた手を下ろし、ギリッと奥歯を噛み締めて愛理を睨みつける。
愛理はふっといつもの調子に戻り、ケラケラと笑った。
「ま、宣戦布告は受け取ったよ〜。あとはステージで証明しなされ〜」
余裕綽々な態度で背を向ける。
その背中は、あまりにも大きく、そして遠い。
「そんなわけで……」
愛理は振り返らず、ひらひらと手を振った。
「バイバイ、御空ユミちゃん!」
そのまま、自分の控室へと消えていく神野愛理。
まるで、勝負の結果など見るまでもないと言わんばかりに。
「……くっ……!」
廊下に一人取り残された御空は、屈辱と怒りで震える拳を壁に叩きつけそうになり――寸前で止めた。
この感情は、こんな所で発散させるべきではない。
(見てなよ……神野愛理……!!)
御空ユミは、煮えたぎるマグマのような激情を胸に秘め、静かに、しかし力強くステージへと向かうのだった。




