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主人の提案で意中の相手と結婚しました

作者: Deadline

おひさしぶりです。

「アンナ、結婚してくれない?」


 乳姉妹であり、我がドバン王国の王女、ミレーネからの突然のプロポーズに私は持っていたグラスを落とした。


「え、ちょ、どうしたのよ」


 ミレーネの青色の目は驚きで大きく開かれる。


「急にプロポーズされたら誰だって驚くよ」


「プロポーズ?」


「え?違うの?婚約者がいるミレーネと私の禁断の恋の物語かと…」


「何いってんの…。違うわよ。この国で浮気は御法度でしょ」


「え、じゃぁさっきのはどう言う意味?『アンナ、結婚してくれない?』って、完全にプロポーズでしょ」


 ミレーネは一度パチクリと目を瞬かせ、納得したように話し始めた。


「あぁ、たしかに、私が悪いわね。正確には、アンナ、ジェイクと結婚してくれない?だわ」


「ミレーネの婚約者の無愛想な護衛の?」


「えぇ、そのジェイクよ」


 ミレーネはやれやれとため息をつく。


「え?私はジェイクと結婚しなくても別にランバル王国までついていくよ?」


 ミレーネが嫁ぐランバル王国は少し前まで独裁政治を執り行う王が国民を苦しめていた。その王を打倒し、新しく政権を取ったのが王の息子でミレーネの婚約者のアレックスだ。


 クーデターは成功し、ミレーネとの婚約も結婚の段階へそろそろ移行する。

 そして、その結婚に私はミレーネに断られようともついていくつもりだ。私とジェイクが結婚する必要は特にない。


「いつか、乳母になってほしいのよ。私とアレックスの子の。アレックスと話したの、子供ができた時に1番信用できる一家に頼みたいって」


「相手の合意があれば、かな?」


「いいの?」


「こども、大好きだしね。私に愛がなくても、彼にとって義務だとしても、好きな人との子どもが授かれるならそれは嬉しいなって。そして、流石に乳姉妹でも国王夫妻の子どもは面倒見れないかなって思ってたから、ミレーネの子の面倒を見れるなら、それは願ったり叶ったりだし。私のミレーネ愛をみくびってもらっちゃ困るわよ」


 ミレーネが呆れと嬉しさを含むような、そんな目で私を見てる気がするが、気のせいだろう。


 そんなこんなで隣国に嫁ぐ準備を始めた。二ヶ月後。ミレーネとアレックスの結婚式が執り行われた。

 ミレーネはこの世で1番綺麗な花嫁だと思う。綺麗すぎて涙が出てきたくらいだった。


 式が終わり、ジェイクと共にミレーネとアレックスを部屋まで送っていると、ふくよかでアクセサリーをじゃらじゃらと付けた趣味の悪い中年の男が話しかけてきた。たしか、前王時代の宰相、デブールだ。


「これはこれは国王陛下、この度はおめでとうございます。王妃様も以後よろしくお願いいたします」


 彼がミレーネを見る視線は値踏みするようた嫌なものだ。


「おやおや王妃殿下は恥ずかしがり屋なようですね。この程度で引きこもっておられますと、将来の外交は心配ですがな」


「ご心配なく、彼女はただ疲れているだけですので。アンナ、ミレーネを部屋まで連れて行け」


「かしこまりました。失礼させていただきます」


 アレックス様、ないす。と思いながら、私は体調の悪い演出のため、ミレーネを少し支えるようにして、その場をさった。



 次の日、私とジェイクの結婚式が行われた。結婚式なぞ必要ない、と言う私たちの意見を押し切り、結婚式で疲れているであろうアレックスとミレーネが主催してくれたのだ。なんで、わざわざ次の日にとも思ったが、ミレーネの結婚を祝いに来てた私の両親も参加しやすいようにと言うミレーネの配慮なのだろう。


 その日の夜、私はジェイクの家にいた。一応これから我が家なのだが、なんとなく、慣れない。

 どこに居ればいいかもわからず、寝室のソファの隅っこにで座っていると、ガチャッとドアが開く音がして、仕事を終えたジェイクが部屋に入ってくる。


 お疲れ、とでも言おうかと口を開く前に、ジェイクの心地よい低い声が聞こえた。


「この話、なぜ断らなかった」


 彼はおそらく私に恋心など抱いてない、だから、気まずくさせないためにも、この気持ちは隠し通す。


「敬愛する主人の頼みを断れる部下なんかいないわよ。ジェイクは?」


 嘘はついてないが、大きな本音を隠して答えた。


「似たようなもんだ」


「ふーん」


 ジェイクは本当にアレックスからの頼みが断れなかったんだろうな…。少し悲しみを覚えたが、幸いなことにすぐ仕事の話へと移行した。


「明日の王妃様の街の視察の護衛なんだが…」


 ミレーネは街を復興に今まで尽力きてきた王女だ。まず一般の客として向かい、そのあと身分を明らかにして向かうことが多い。明日は、前王のせいで廃れたこの国の街の復興のために、この国に初めて来た商人として王都の街に出向く予定なのだ。


「ジェイクって聞いたよ、頼りにしてるね」


 私はよろしく、と言う思いを込めて笑顔をジェイクに向けるが、彼はバツが悪そうに頭をかき答える。


「あぁ、任せろ、と言いたいところなんだが、厄介な仕事を押し付けられて、俺はいけなくなった…すまない」


「あ、そうなんだ。了解」


 ジェイクから危ない道や注意事項などを聞き、その後私は眠りについた。


 翌日早朝、ジェイクが鍛錬に向かったのを見届けると、自分の身支度を済ませ、ミレーネのもとへ向かう。


コンコンコン。


 ミレーネの部屋をノックすると、ばんっとドアが開き、


「アンナ!」


 とキラキラした目でミレーネが私を出迎える。どうやらアレックスは先に出ているようだ。


「ミレーネ、私じゃなかったらどうするのよ。ほら中に入って」


「今のノックの仕方は確実にアンナだったわよ」


「はいはい」


 ミレーネの美しさが隠れ町娘に見えるように、美しいストロベリーブロンドの髪を黒く染め、化粧を施した。


「完成しましたよ」


「ありがとう、さすがアンナね」


 ミレーネはとびきり可愛い笑顔で笑った。




 視察は滞りなく進んだ。そろそろ視察が終わりに近づき、最後の店を出たその時、どこからともなくミレーネに向かって手が伸びてきた。

 私は咄嗟にミレーネと位置を入れ替え、自分が身代わりになった。


 ちゃんとしてよ、護衛の人たち…。


 薬を嗅がされたらしく、私の意識はそこで途切れた。




「もう一人いたけど結局どっちの女だったんだ?」


「しらねぇよ、依頼主からの情報提供が少なすぎたんだ。どっちだってばれやしねぇよ」


「んんっ」


 聴き馴染みのない声で意識が覚醒する。


「おい、起きたぞ」


「ここは?」


 私は両手と両足が固定された状態で椅子に座っていた。


「俺らも詳しくはしらねぇよ、ここにお前を連れてきたら金をもらえるって聞いただけだしな」


「誰からの依頼なの?」


「そろそろ来るんじゃねぇか?依頼主」


その言葉とほぼ同じタイミングで入ってきた男には見覚えがあった。


「よくやったな」


「前宰相、デブール…。なんのために…?」


「冥土の土産に教えてあけますか。君を殺して、君の母国との国家間の争いに火をつける。そこに君を殺そうとしたごろつきを倒した私が登場して交渉に向かう。交渉が成功すれば私の権力が取り戻せる。お前は私の権力を取り戻す礎となれ」


 くだらない…。確かに、ドバン王国の国民は王家を尊んでいる。王女一人でも他国で、しかも故意に殺されようものなら戦争なる可能性は十分にある。

 しかし、そんなことのためにミレーネを殺そうとしていただなんて信じられない。昨日こいつにミレーネの顔を見られなくて良かった。あと、こいつがアホで良かった。私を多分ミレーネだと信じ込んでいる。


 私のミッションは、証拠を残すことだ。

 自分が死んだとしてもこの男がアホである証拠を残す。今後この国でのミレーネの生活の安心に繋がるはずだから。

 私がどうするべきか頭をフル回転させていると、


「で、あんたはお偉いさんなんかしんねぇけど、俺らへの報酬は…ぐはっっ」


 ごろつきの一人が報酬をもらってさっさと逃げようと思ったのだろう、デブールに話しかける。が、その声は途中で途切れた。さっきまで話していた男はすでに事切れていた。


「は?てめ、なに、ぐっっ」


 デブールは自分が雇ったごろつきのもう一人を顔色ひとつ変えず刺し殺した。


「私が依頼人だと知った奴らなんか、この世に残せるわけがないだろ、愚か者め」


 あんたも十分愚か者だけどね。


「ねぇ、あんた、ほんとに自分が世界の覇権取れるとでも思ってんの?」


「は?」


「あんたみたいなアホが覇権なんか取れるかって聞いてんの」


「アホ、誰がアホだと?」


「あんた以外いないでしょ。そもそも私を殺したとて国際戦争は起きないよ?」


「なんだと?」


「だって私ミレーネじゃなくて、その乳姉妹のアンナだからね。そんなのにも気付けないだなんて、あほだねぇ、実にアホだねぇ」


 ガンっという音がした。何かと思ったらどうやら殴られたらしい。そのままの勢いで私は椅子ごと倒れた。


「うっ…」


 その瞬間、ばんっと私がいる部屋のドアが開いた。正確には蹴破られた。


「アンナ!!」


 入ってきたのは血相を変えたジェイクだった。


「どうしたの、そんなに焦って」


彼を見て安心したのか、私はそれだけ言うと、そのまま意識を手放した。





 うっすらと目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。ジェイクに救われたのは私の願望だったのでは?と思ったが、その仮説はミレーネの鳴き声で吹き飛んだ。


「アンナああああああああ」


 目の前にはすごい顔で泣きじゃくっているミレーネと、その隣に寄り添うアレックス、そして少し後ろでひかえているジェイクだ。


「ミレーネ、一国の王妃としてあるまじき顔してるよ、顔洗ってきな」


 私はミレーネの顔に苦笑しながら、体を起こし頭を撫でる。


「私のせいで、ごめんね、私のせいで」


 頭を撫でるとさらに涙を流し、私に抱きついてきたミレーネを抱きしめる。


「謝ることないよ、有事の時にミレーネの身代わりになるのも私の仕事だしね」


 私がさも当たり前かのようにいうと、


「アンナが死んだら私も死ぬから。アンナはもっと自分を大切にして!」


 ミレーネが私を怒る。初めて聞いた少し語気の強いミレーネの言葉に私は体が固まった。

 そんな様子を見て、ミレーネの肩を抱き、真剣な面持ちでアレックスが私とミレーネを落ち着かせるような口調で話す。


「ミレーネは少し落ち着いて。今回、デブールは突発的にあの計画を決めたようだ。もっと早くにあいつを処罰していればこんなことにはならなかった。危険な目に合わせてしまい、本当にすまない。証拠確保のために助けることが遅くなったことも重ねて申し訳ない。そして、妻を守ってくれてありがとう。ただ、君が無茶したら心配する人がいることを忘れないでね。ジェイクなんか、君が殴られた音がした瞬間、まだ待機命令出してたのに突入しちゃったんだから」


「え?」


 ジェイクの方にめをやるが、ジェイクは澄ました顔をしている。


「突撃命令が出たと勘違いしただけだ」


 王の護衛がしていい勘違いではないのでは…?


「嘘つけ、何かを叩いたような音とアンナの呻き声が聞こえた瞬間、僕の制止振り切っじゃないか、勝手に。しかもあんな分厚いドアを蹴破るって人間技じゃなかったよ」


「うるさい、アレックス」


 ジェイクはこれでもかと言うほど盛大にしかめっつらだ。


「あの時、ジェイクがいってなかった、私がドアに突進していましたよ。そろそろ待ての命令に堪忍袋の尾が切れるところだったわ。というか、もうキレてるわ。怪我をさせたのはアレックスのせいでもあるんだからね!私許してないから」


 ミレーネは手をブンブンと振り回し、細い腕で、力こぶを作ろうとした。が、悲しいことに筋肉不足でできてない。


「ごめんね。立場的に状況証拠だけでは動けないんだよ。決定的な証拠がないと…。あのままじゃ、デブールはアンナをさらった奴を殺して助けようとしていた、と言う発言で逃げ切られてしまう可能性もあったし…。ミレーネが行こうとした瞬間、僕が行くだろうし、あまり変わらなかったね。そういえば、ジェイク、君あんなに怒れたんだね。愛の力だねぇ」


「おい、アレックス!!」


「え、もしや、まだ話してないの?臆病にも程があるでしょ」


 アレックスはわざとらしく肩をすくめる。


「あら、じゃぁ私たちは邪魔者ね。お若い二人でごゆっくり。アンナも自分だけって思わないことね」


 そう言うと、二人はさっさと部屋から出て行ってしまった。

 少しの沈黙の後、ジェイクが口を開いた。


「怪我大丈夫か?」


「ん?これくらい平気だよ。私が意識失った後どうしたの?」


「ただ、デブールに何をしたか聞いたら、聞いてないことばっか話しただけだ。汚職だ、王に薬と称して水銀飲ませて操ってた、とかだったか?アレックスが全部録音してたから一件落着だ」


「へ、へぇ」


 急展開に私は驚きが隠せない。


「無事で良かった。すまない、ついていけなくて。怪我をさせてしまって。お前が誘拐されたと聞いて心臓が止まるかと思った」


「しょうがないよ、仕事だし」


「今度からは絶対俺がついていくから」


 ジェイクが今回の件に罪悪感を感じてくれているのは申し訳ないが、自分を心配してくれているのは伝わってきて嬉しかった。


「ありがと。でも無理しないでね」


 私はうれしくて、笑顔で答えた。ジェイクは少し顔を逸らした。なんか発言したかな?と思ったが、その後すぐに私の思考はフリーズした。


「お前の護衛なら無理してでもいくよ。じゃ、ゆっくり休めよ」


 ジェイクは見たこともないような笑顔で私の頭を撫で、そのまま部屋を出て行ったのだ。

 私の顔の赤みはしばらく引かなかった

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また別のお話で、あなたとお会いできたら嬉しいです

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