〜私たちが見て、聞き、触って、感じているこの世界は本当は存在していないのではないか。脳みそが勝手に作り出した嘘の世界なのではないか。それは誰も証明することは出来ない〜
現実と夢の違いはなんだろうか。
僕は眠りながらふとそんなことを考えていた。別に夢だって現実とさほど変わらない。怖いこともあるし、楽しいこともつらいこともある。ただ楽しいだけの夢みたいな世界なんて夢でもそうそうない。
現実だってそうだ、成功する人間なんて生まれたときから決まってる。
そして人並みの幸せを手に入れることすらできないものにはただ孤独が待っている。
僕はずっと孤独だった小さい頃から父親はパチンコ母親はふらふらと出歩き、基本ひとりぼっちの生活だった。
幼少期の親との関係がその後の情動の獲得に大切とか言うけど僕はそんなことを考えたくもない。
小学校に上がってもクラスに馴染むことなんかできずに保健室にこもり、ただ本を読んでは寝るだけの生活をしていた。
とても窮屈で悲しく思えるが僕にとってはとても幸せなことだった。
本を読んでいると本の中の人々が僕の灰色の人生に鮮やかな色をつけてくれるようで。そんな6年間だった。
世間の中学校は思春期に入って親に強く当たったり不安定になる頃、僕の心にもいくらかの変化があった。
今まで読むことにしか価値を見いだしていなかった本を書きたいと思った。
もうあらかた自分の興味のある本は読み尽くしていて読みたい本を読むには書くしかない。
そうして僕は小説を1本書いた。
小説を書いている間は自分の不幸も忘れてただ自分の読みたい文を綴った。
その本には二人しか人がいない。
片方は自分でもう一人は自分の作り出した片桐梓という女の子。
片桐は昔から僕の夢の中にいた人物で、片桐の出てくる夢はとても鮮明で今もはっきりと覚えている。
そしてふとした時にその嘘の記憶は蘇る。
僕が小説の一節を書くために勇気を出して近くの神社の祭りにいった時のこと。
想像以上の人の多さに頭が痛くなり人の流れに押されながら石段を降りている時。
ふと後ろを振り向いた。
そこに誰かがいた気がしたのだ。
僕はそんなことないだろうと頭を振って否定する。
でも確かにそこにいた気がするのだ。
記憶の中にある匂い、歩き方。全て覚えている。
その時僕の中をある種の予感のようなものが通り過ぎた。
気づけば走り出していた。夢中で追いかけているといつの間にか周りの人の姿もまばらになっていき。
「ねぇ!君、何処かで……っ!」
振り向いたのは僕の記憶によくある、しかし本物など見たことない片桐梓が立っていた。
「どうしたの?」
僕は何も言えなくなっていた