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継ぎ接ぎだらけのボロボロの麻の着物と、赤切れだらけの小さな手。水のたくさん入った重い木桶を運んでいるその娘はフラフラと焦点のつかない目で歩いていた。

確かこの辺りの名士の娘が、嫁入り前に破落戸(ならず者)に手篭めにされて望まれずに生まれた子どもだったかと思う。


足が縺れて倒れそうになった寿々歌(その娘)を気まぐれで助けた結果、懐かれてしまった。

川魚を与えたり、村人が供物として持って来た野菜や米、麦、粟、稗、大豆を与えてみたりしただけなのに。


そうしたら、「寿々歌が盗みを働いている」って話になっちゃってさ。


数え年で10にもならない子ども相手に、一応は身内である神奈木家が主導で寿々歌の事をボロ雑巾みたいにしたのを見て面白く無かったからさ。


―――思い付きで、言ってみた。


「寿々歌は僕の嫁にする」


「寿々歌の子が生まれたら、神奈木の家で育てる事」


「神奈木の家はこれから、僕の伝える方法で供物を持って来る事」


そうして伝えた方法で、僕は神奈木の一族を人でありながら人でない化け物へと変化させていった。勿論、寿々歌の子孫は供物にならない様に弾いていたよ?


なのに、さ。


アイツらは有り得ない嗅覚で何度か寿々歌の子孫を供物として差し出してきたんだよね。


猫、犬、馬、その他諸々の動物。


え。どうして寿々歌の子孫に人間以外が存在するのか、って?そりゃ、寿々歌を僕の友達と仲良く分け合ったからだけど。バラバラにして、口にして。蕩ける様な甘いその血肉を取り入れて、眷属として生み出したもの達が寿々歌の子だよ。


ほら、好きな子って食べちゃいたくなるでしょ。「食べちゃいたいくらい可愛い」って、良く人間は言うでしょ?それと同じ。


今回の寿々歌は神奈木八重子の娘。八重子は表向きは寿々歌の父親役だった男の妹。実際は子ども達が大人になる頃に供物を捧げる時期が来るからと、彼らの父親が実の妹に生ませた「寿々歌を生む為だけの母体」。

八重子は悪習を嫌い都会へと逃げ出したけれど、―――整形をして顔を変え、正体を隠して恋人になった実の弟によって兄の子が生まれる時期に出産する様に仕向けられた。


同じ日、同じ時間に生まれるなんてどういうカラクリか?


あの日、ふたりの妊婦は自宅で腹を割かれて子どもを産み落としたんだ。


他の寿々歌は偶然の産物だった訳だけれど、一族の繁栄の為にそこまでするのは少し感心してしまうよね。


八重子は寿々歌を供物にすまいと、今なお呪詛を吐いている。


母の愛か、あの夫婦とその子ども達がいないものとして扱っていた寿々歌は存在しない、「あの家族の一員として育てられた」記憶で自分の心を守っていた。

子ども達が面白半分で差し出す泥団子をおにぎりだと認識し、夫婦が「精進料理」と差し出す野菜屑を口にしてこの15年を生きてきた。


本来なら死んでいてもおかしくない状態で生きているのは、あの家にいる限りは供物として、僕と、それから八重子の神通力で守られていたからだ。


僕は人喰いの、鬼神で、禍神(マガツカミ)だけれど。


懸命に、生きようとするいのちを「美しい」と思う感性くらいは持っている。


ただ、供物として口にするにはかなり、人間性が欠落しているから、暫くは最初の寿々歌の時と同じ様に僕の手元で面倒を見ようと思っている。

供物を人間として扱いながら思考を持たせない様に伝えていたのは、自分が特別な存在だと信じている供物が、60年に1度の僕の食事として生涯を終えると理解した時の、あの何とも言えない、心の内側が満たされる様な感覚が、背筋がゾクゾクする程に好きだからだ。



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