表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

4

生贄がシラカミさまに捧げられるまでの15年、耐えれば後は繁栄が約束された幸福な生活が待っているのだから、と親から聞かされていたとしても。いつ、「空腹だから」と言う理由で、生贄の食卓に並ぶか分からない恐怖と闘わなければならない神奈木一族の弟妹達の精神は磨り減り、この悪習が終焉を迎える事を何処かで願っていた。

明治時代に入り、西洋文化が一族の元にも入ってきた時。誰ともなく口にした。


『弟妹と明確な差を付ける、と言う文言を。


―――弟妹が背負うものでは無く、長子当人が背負うものにしたならば良いのでは無いか?』


一族の長老には悟られない様に、1部の者達は、生贄として生まれた子どもに今まで家族や弟妹が背負ったものを押し付けた。


神奈木夫妻は、「平成にもなって馬鹿らしい」と口にしながら、()()()ヨースケが生まれた時に「シラカミさま」が現れた事で彼を守る手段を考えた。

確か、腹を痛めて生んだ我が子が「生贄」だとシラカミさまに告げられた時の「代わりの者」を用意すればヨースケをシラカミさまの生贄にする事無く済む代用品の存在が、口伝で聞いた事がある。


「寿々歌」


それは、代用品として生贄に捧げられる者の為に与えられる名前。遠いむかしの、シラカミさまの妻の名前だ。

犬や猫、馬と言った動物でも代用品としては利用可能だが、出来る事ならば人間が良い。長子と同じ日、同じ時間に生まれた者を長子代理として育てれば良い、とあった。


丁度良く、神奈木夫妻の周りには出産を終えた女性がいた。里帰りで此方に戻って来ていた夫の妹である。

都合よく、ヨースケと同じ日、同じ時間に生まれたその赤ん坊を彼女から奪い取り文句を言えない様に夫妻は産後の疲れで動けない脚の筋を斬り喉を焼いた。「シラカミさまが幸せにしてくれる」と笑いながら。


子を奪われた女は呪詛を吐いた。


「全て無くなってしまえ」、と。


女が呪詛を口にする度に、1番縁遠い一族から徐々に衰退し、やがて潰えた。寿々歌が誕生日を迎える度、一族に不幸が舞い込んだ。それでも


「たった15年の辛抱だから」


と夫妻は笑っていた。15年経てば、シラカミさまが繁栄を約束してくれている。最早この家だけになった一族もまたすぐに繁栄するだろうとタカをくくっていた。


―――八重子は一族の悪習から受け継いだ、シラカミさまに1番近い神通力を持っていた。


八重子の呪詛が、寿々歌の15の誕生日に満願叶う事になると、夫妻は気付いていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ