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苦手な方はご注意ください。

短編『ミッキーの娘』※日本初!蒸気船ウィリー版ミッキーマウスのパブリックドメインホラー小説

作者: 江川知弘

【責任放棄表明】

この小説はディズニーとは一切関係はありません。ちなみに、ミッキーが初登場する短編アニメ『蒸気船ウイリー』のパブリックドメインホラー映画『マッド・マウス~ミッキーとミニー』とも一切関係はないことはありません。実は監督ジェイミー・ベイリー氏に脚本の件で直接物申したく、また筆者自身が構想したオリジナル脚本を送りつけ連絡したが、完全にスルーされるわけでもなく、むしる本作を読んでくれて費までしてくれた。今では怒りも収まり『マッド・マウス〜ミッキーとミニー」と監習には敬意すら抱いています。

ちなみに、本作はジョージ・ルーカスとも関係はありません。


【コメント】

“素晴らしいアイデア!素晴らしい想像力だ”

  ジェイミー・ベイリー(映画監督)

  『マッド・マウス〜ミッキーとミニー』

1. エマ



ある日、学校で一人ぼっちの女の子エマがいた。ここはアメリカのとある州の田舎町。この町で寂しく暮らすエマは、昨年に両親が離婚し、お母さんと二人で暮らしている。エマはお父さんのことが大好きだったが、今はもう強制的に離れ離れとなってしまっている……。

大好きだったお父さんがいない毎日は、とても、とても寂しい。だけど、お父さんが昔、誕生日にエマにプレゼントした短編アニメ『蒸気船ウィリー』に登場するモノクロで目が小さな楕円形のミッキーの人形を、エマは今でも肌身離さず大事にしている。それはエマにとってイマジナリーフレンドだったが、お父さんと離れてしまってからはもうお父さんとの幸せだった思い出の形としてエマと共に存在している。

だがある時、ミッキーの人形は家から姿を消した。そしてそれはたった1ドルのお金にかわっていた。お母さんがお父さんと思い出を次々に売り払ってしまったのだ。

エマの家はお金がなかった。お父さんと離れてしまってからは家庭の収入が激減。とても貧しい生活を強いられている状況なのだ。でも、ミッキーとだけは……ずっと一緒にいたかった……離れたくなかった。

そんな事がエマの身に起きようと世間は判ってはくれない。学校では、エマは他の子たちから急に仲間外れにされるようになった。なぜなら学校の社会科見学でみんなと一緒に隣の州にある巨大テーマパーク、通称『夢の国』に行くはずだったが、エマだけ家が貧乏だったのでお母さんからお金を出してもらえず、遂には行くことが叶わなくなったのだ……。

おかげで学校のカースト制度トップのお金持ちの娘アシュリーやチアリーダー部の花形レイチェルから「家なし貧乏」というあだ名がつけられ、それが周りの子たちにも広がり、さらには親友のアレックスにまで広がりっていき、遂には「エマとは関わらないほうがいい」という酷いレッテルまで貼られたのが仲間はずれの原因。

エマは、ずっと夢に見ていた憧れの夢の国にもちろん行きたかったし、そこへ逃げ込みたかった。夢の国に行けば辛い現実から目を背けることができる。しかもそこにはエマがまだ一度も生で見たことも出会えたことのない、昔からずっと、ずっと会いたかった大好きなミッキーがいるのだ。ミッキーに会えたらエマにとってどんなに救いになることか。

だが、そんなエマのことも気にもかけずお母さんは貧しいくせに毎日アルコールばかり飲んでいるし、時にエマに向かって苛立ちから暴力や怒号を浴びせてくるのだ。お父さんが去った日もこんな感じだった。

エマに対するお母さんからの行為は日に日にエスカレート。学校から家に帰ってもエマは落ち着けることも出来ず、お母さんの様子をただ怯えるように隅から伺う。家でもエマはどこにも行き場がない。酷く痛く傷ついてしまったエマの孤独な心。

「こんな現実イヤだよ……だれか、だれか助けてよ……」













2. ミッキー



いつか夢の国に行きたいと、そして大好きなミッキーに会いたいと儚い夢を見るエマ。学校にも居場所はなく、家にも居場所はない。そんな孤独なエマのことを隣の家から見つめる一人の男。

彼の名はミッキー・フィリップス。ミッキーという名前の由来は、おそらく父親が俳優ミッキー・ロークのファンだったからだと思われる。妻子を捨てボクサーになるために家を出て行く時もハーレーダビッドソンに乗って出て行ったから……。

現在、ミッキーは40歳の独身で、自分の顔にコンプレックスがあり、そしてコミュニケーションに障害がある。懸命に努力し頑張ったが、仕事場では人間関係が上手くいかず、仲間たちから遠ざけられてしまう。

「キモい」「変人」「ダメ社員」「40歳の童貞男」という散々な言われっぷり。ミッキーは、遂には心を病んでしまった。精神科に行き、そこでの診断結果は、現在働いている職場において「適応障害」。

それは仕事場での人間関係に限ってのことだと診療科のドクタータナカは言ってはくれたが、それはミッキーの中では社会に対しても適応できていないのと同じことのようにどうしても思えてしまう。ミッキーは、仕事場でも居場所はなく、社会でも居場所を見失い、現在家に引きこもってしまっている状態。時々精神的にキツくなるとどうしていいかわからず涙を抑えきれなくなってしまう。

そんなミッキーが、家先で一人夜風に当たりながら俯いていると、隣の家から怒号と共に家を飛び出し、家先で一人孤独に泣くエマの姿が見えた。この光景を見るのは何度目だろうか。悲しむエマを何度も見るうちにミッキーは、エマの事情を察することができた。ミッキーもかつて子供の頃、エマと同じく辛い時はよく家先で一人孤独に泣いていたからだ。大人になった今でも変わらないままの自分にやるせなさを感じるミッキー。変わりたいと思えど何も変われなかった現実。

すると、エマは夜空を見上げ、瞬く星たちに向かって儚い願いを託す。

「ミッキー……あなたに会いたかったわ……私ね、一度でいいから夢の国に行ってみたかったの……本当は来週学校のみんなと社会科見学で行くはずだったのよ。だけどもう行けなくなっちゃった……」

 エマは、俯くと再び涙した。それを見つめるミッキーは、エマに声をかけようと助けてあげようと思った。だが、コミュニケーション障害せいか、先日診断された人間関係に対する適応障害のせいか……いや、本当は弱い自分のせいで勇気が出なかった。

無性にやるせない。そんな自分にがっかりし、また自分を傷つけてしまう。何とか救ってあげたい……でも、その権利は彼にはない。知り合いでも、友達でも、親戚でも、お父さんでもないからだ。

再び落ち込むミッキーは、トボトボと家の中へ戻っていってしまった。


社会科見学前日、学校の帰り道をトボトボと歩くエマ。

すると次の瞬間、エマは目の前で衝撃の光景を目撃してしまう。なんと、あのミッキーの姿がそこにあった。しかも、エマの大事にしているお父さんからもらった『蒸気船ウィリー』の、モノクロで目が小さな楕円形のミッキーの人形と同じ顔のミッキー。顔は明らかにラテックス製のマスクで、服装はジャージに黒い手袋を着用している。だが、エマにとってそれは紛れもなくミッキーだった。

ミッキー? いや、エマにとってのそのミッキーは、何やらエマに話しかけようとしたいみたいだが、さっきから頭を抱えモジモジしている。すると、エマの方から駆け寄ってきて、ミッキーに抱きついた。

「本当にミッキーだ! 私のために会いに来てくれたんだね!」

 泣いて喜ぶエマは、ミッキーに会えて本当に嬉しかったのだ。夢の国から会いに来たのだとそう信じていた。

動揺するミッキー。初めて人に抱きしめられ、そして泣いて喜ばれた。こんな温かい気持ち、生まれて初めてだ。

その後、エマは母親の事や学校で仲間外れにされていること、明日の社会科見学で夢の国に行くことが叶わなかったことなど自分の辛い現状をミッキーに泣きながら全て打ち明けた。

すると、ミッキーの中に何かが目覚めた。(この子を絶対に救うんだ!)

顔をマスクで覆っているせいか、不思議と自信がみなぎってくる。

  × ×

インターネットのショッピングサイトで『ミッキーのマスク』を検索するミッキー。

「あ、あった……意外に安いんだな」

数日後、ミッキーのマスクが届いた。

商品の説明書にはこうかかれている。

「この商品は、ミッキーが初登場した短編アニメ『蒸気船ウィリー』のキャラクターデザインを模したマスクです。同作品は1928年公開のため、ミッキーやミニー、作品そのものの著作権保護期間が2023年末で終了しました。『パブリックドメイン』になると、作品の劇場公開や動画配信といった商業利用やキャラクターを使った新しい本や映画などの二次創作が可能となる……(以下省略)」

ミッキーはマスクを被った。

  × ×

確かに自信はみなぎる……だが、口で上手く想いを伝えることは難しい……こればかりはどうしようもできない。だからエマに対し、ミッキーはひたむきにジェスチャーを頑張る。

(ボクは君の力になりたい! 助けてあげたい!)

変な奴に思われるかもしれない。でも、エマにミッキーの気持ちは伝わっていた。

「ありがとう。嬉しいわ。ミッキー、私にはどこにも居場所がないの……だからミッキー、あなたについて行ってもいい?」

 

翌朝、エマとミッキーの旅は始まった。

 車を運転するミッキー、助手席で風に髪をなびかせるエマ。二人は田舎町を抜け、州を越えて行く。目指すは『夢の国』だ。

 運転するミッキーをチラチラとみつめ、微笑むエマは、ふと昔のことを思い出していた。お父さんと一緒に遠くまでドライブしたこと。その時のお父さんの逞しい姿。

エマは、自然とお父さんとミッキーを重ね合わせていた。顔も姿形も違えど、今のエマの孤独な心を埋めてくれる。笑顔にしてくれる。逞しく側にいてくれる。希望となってくれている。

 荒野のハイウェイをしばらく走り続けていると、前方にスクールバスが現れた。

「あっ、学校のバスだ……」

 バスにはエマを仲間外れにした子たちがワイワイ楽しそうにしているのが見えた。学校のカースト制度のトップに君臨するお金持ちの娘アシュリーやチアリーダー部の花形レイチェル、そしてエマを見捨てた親友アレックス。このバスで夢の国に行けるこの子たちはみんなが勝ち組。エマだけは負け組だった。だから今、勝ちたい! という衝動に襲われているエマの気持ちを判ってくれているミッキーは、後部座席のリュックサックを開け、ショットガンを取り出した。

 アメリカの真っ直ぐなハイウェイ、ハンドルはそのまま手を放し、ミッキーはショットガンを車の窓から構えるとスクールバスのタイヤを次々に撃ち抜いた。凄い音を立て、スクールバスは円を描くように回転しながらハイウェイから大きく外れたところで停まった。車体の回転と衝撃によって多くの子たちのリュックサックから水筒の水がほぼ全部ビチョビチョに漏れてしまっていた。さらには車内のクーラー設備が破損。40度近い気温の中、次々とバスを降り始める子たち。ここは何もない荒野の、しかもハイウェイから外れたところ。交通量は少なく、携帯電話の電波も入らない。水はビチョビチョに溢れてほぼ無い。あるのは各自持ってきたスナック菓子くらい……。

「フ◯ック!!!」

 エマは助手席の窓に乗り出し、困り果てた子たちに向かってそう叫ぶと、両手を高く広げた。

「ファッ……(俺はファックをしたことがない……)」

 しょんぼりと情けなくなるミッキー。

 ミッキーとエマは、バックミラーごしに小さく遠のいて行く子たちが見えると、互いに顔を見合わせて次第に笑顔になっていった。

 途中用事を済ませてきたので到着予定がだいぶ遅れてしまっている。あと一息のところまできたが、エマとミッキーは近くのレストランで昼食をとることにした。

エマは大きなチーズステーキドッグを食べている。一方、ミッキーはストローを使ってオレンジジュースをマスクの隙間から摂取するのみ。周りからの目は気になったが、それでも誰かとこうしてレストランで一緒に食事をとることはかなり久しぶりのことだったから、エマにとっては、まるで親子のような時間で温かく嬉しかった。

エマがチーズステーキドッグを食べ終える頃、目の前でミッキーはウトウト眠りそうにしていた。きっと長旅の運転だし、前の日も色々と準備もあって忙しくて疲れたのかもしれないとエマは思った。だが、ミッキーには悪いが、そのマスクの下が一瞬気になった。

好奇心からエマはそぉーっと手を伸ばしてマスクを剥がそうとしたその瞬間、ミッキーはエマの腕を掴んで顔を見せるのを拒んだ。

「ごめんなさいっ、私ったらなんてことを……」

(…………)

 ミッキーは、本当はマスクの下の正体を明かしたかった。だが、顔を明かすとエマから嫌われるのでは……仕事場みたいにコミュニケーションが上手くできないから変な人のレッテルを貼られ、挙げ句の果てにがっかりさせてしまうのでは……また同じ轍を踏む羽目になるのではという恐怖が脳裏から離れなかった。

(…………ごめん……ごめん)

「私こそ……ごめんなさい」

謝るエマ、だがミッキーはマスクの下からボソッと言葉を漏らす。

「(小声)……でも……いつか……約束する」

 エマはミッキーの顔を見て笑顔で答える。

「うん! いつかきっと!」

 二人は、目的地へ車を走らせた。しばらく走り続けると、エマはミッキーの肩に寄りかかって幸せそうに眠っていた。エマにとってミッキーはお父さんのような安心感がある。本当に心地よく幸せそうに眠るエマだった。





3. マジカルエンド



エマが目を覚ますと、そこはあのテレビや本でしか見たことがなかった巨大テーマパーク、通称『夢の国』の玄関口だった。

とうとう来てしまった。初めて訪れる夢の国、だが側にミッキーの姿がない。

「あれ? ミッキー? ミッキー?」

 どこにもいない。来場者の数が多すぎて探し出せない。もしかしたら、ミッキーは夢の国に戻っていったのかもしれない。

 エマが眠ってしまっていたのはパークの玄関口が見えるベンチ。そのベンチに一緒に置かれているリュックサック。

「これ、ミッキーの車にあったものだ」

 エマは、リュックサックを開けると、ショットガンの代わりになんと、大量の札束とパークの年間フリーパスと、そしてミッキーのカチューシャが入っていた。

 エマは、リュックサックを背負い、ミッキーのカチューシャを頭につけると、年間フリーパスを手に持って、ミッキーの後を追うように急いでパーク内へと駆け込んでいった。

「待ってミッキー、今そっちにいくから! 待っていてねー!」

 その後ろ姿を木陰から見守るミッキー。

エマの姿を見届けたミッキーはそのまま車に乗り込むと、来た道を真っ直ぐ戻り、田舎町の家まで帰っていった。


町に帰ると、なんとエマのお母さんが通報し集まった大勢の警察官らが銃を構え、ミッキーの車を囲うように待ち構えていた。まさにマウス・トラップだ。

道の真ん中で止まるミッキーの乗った車……太陽がジリジリと見つめる……光る銃口、光る汗……長らく緊張状態が続く……だが次の瞬間、静けさは一瞬でかき消される。


その頃、ミッキーのカチューシャを頭につけた、まるで小さなミッキーの娘のようなエマは、パーク内でスタッフに声を掛けられていた。

「ねぇ、そこのあなた!」

「えっ、私?」

「あなた一人でいるけど大丈夫? もしかして親とはぐれちゃったの?」

「えっ、いや……」

スタッフはエマを迷子だと思い、心配している様子。

「あなた、お母さんは?」

「い、いません……」

「それじゃあ、お父さんは?」

「お父さんは……います」

「じゃあ、お父さんの名前は?」

「名前は……ミッキー、ミッキーマ……」

  × ×

ハチの巣と化す車体、フロントガラスに飛び散った血。そして無数の弾痕。

車内は今、静けさを取り戻した。

だが、しばらくして警察官らがハチの巣になった車の中を覗く……。

「おい、奴の姿がないぞ……ウァァ!!!」

「あそこだ! 撃て! 撃てー!!」

「なんだあいつ……一体なんなんだ!!!」

「ウッ!!!!!!」

 警察官らを次々と襲うモノクロの狂気(マッドネス)。モノクロを越してノワール。人の顔が叩かれた虫ケラのように一瞬で破裂し、血の水面に落ちていく。史上かつてないほどのバイオレンス。あまりにもゴアだ。

 ピチャピチャと水音だけが残る。気づくとその場に残っているのは通報したエマのお母さんただ一人……ショットガンの引き金を引く音。お母さんはゆっくりと後ろを振り返った……。



          THE END


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