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喪失と芽生え

暖かい光が差し込む朝、いつものように三人で学校に行く。

「今日体育あったっけ?」

「あるよ、シャトルラン」

「こうちゃん運動できないから終わったね」

「運動できますー、舐めるな」

「じゃあ前の時の回数は?」

「35回」

「ダメダメじゃねえか」

自慢ではないが、俺は運動が大の苦手だ。

高く結ばれたポニーテールの杏奈は明るさを取り戻していき、こんな雑談もできるようになった。これまではまるで生気がなく、いつ自害してもおかしくない状態だった。ま、こうやって学校に行けてるんだし、いいかなと思った。


教室はざわざわしていて、結構うるさい。俺は気にせず席につき、顔を伏せる。...まるで、会話に混ざらない俺かっけーみたいな思考の陰キャに見える。実際、陰キャという点は否めないが。

どうやらこの騒ぎは、今日で食堂の特製カレーが終わるということらしい。期間限定とは言われていたが、長く続いていたので、みんな悲しみに満ちていた。あの特製カレーは隼人のお気に入りだったので、恐らく膝から崩れ落ちているだろう。

教室の外から気持ちの悪いほど甲高い叫び声が聞こえた。こんな声を出すやつは、隼人しかいないだろう。

「どおおしてえええ!!」

「うっさいぞ隼人、こっちまで聞こえてきたわ、教室だいぶ離れてるのに」

「だっってさああああ!」

膝から崩れ落ちるレベルじゃなかった。大切なものを失ったときくらいの絶望顔だ。

「まあまあ、他に好きなメニュー探せばいいじゃん、切り替え切り替え」

異常なほどに落ち込んだ隼人を慰め、教室に戻る。隼人は食に関してはうるさい方だから、どれも「これじゃない」で終わるだろうなあと思いつつ。



シャトルランに潰された俺は、やつれて萎んだ顔で教室に戻る。ほんと、こんな種目を考えた人を殴りたくなった。シャトルランではしゃいでいる陽キャたちは、恐らくマサイ族かなんかなのだろう。陽キャというのは不思議なものだ。なにかあっても次の日にはそんなことなかったかのように振舞えるし、初対面の人に対してもすらすら喋れるなんて、正直意味が分からない。隼人はどちらかというと陽キャよりだし、今度鍛えてもらおうかな。


「元気だせって」

「だって...カレー...」

「きつねうどんでも食ってみろよ」

隼人は俺のいいなりになって、食堂でしぶしぶきつねうどんを注文し、シャトルランで奪われた体力をうどんをすすり回復させる。

「...これじゃない」

予想は的中だった。隼人は別にうどん好きでもないから、当たり前っちゃ当たり前だった。俺も、うどんが好きというより、汁の上に浮かぶデカ油揚げが好きなのだ。

隼人のショックはあまりにも大きかったらしい。確かに、ずっとあると思っていたものが、いきなりなくなるというのは、確かに辛い。食べ物はべつにいいと思うが...。

「そんな暗い顔してたら、バイト先の先輩に嫌われるぞ?」

「...それも確かにな!よーし!調子あげてくぞ!」

...流石に切り替えが気持ち悪い。



「よ、杏奈」

「こうちゃん遅すぎ」

「成績不振で居残りさせられたわ。別に赤点取ってるわけじゃないからやんなくてもいいだろ...」

「頭悪い方がいけないでしょ、いつも授業中寝てるんでしょ?」

「窓の外見てるだけだし」

「変わらないよ」

いつもは成績はひどいわけではないが、前のテストでまさかの学年最下位をとってしまった。先生とのマンツーマンは、辛い以外言葉が出てこない。

「あ~イラつく...」

「欲求不満みたいだね」

「その言い方だとあっちの方だと思うわ」

「...久しぶりに、する?」

「頼む」




「ふふ、何その顔、情けない」

「腰抜けたわ」

「ま~、私が魅力的だからってことでしょ?」

「調子乗んなよ」

「えへへ、だっていつもよりがっつかれて嬉しかったんだもん」

艶のある杏奈の顔は、ついじっと見てしまう。

服を整え、日が落ちて、人気がなくなり、青黒く染まった街を見下ろす。

隼人がバイトから帰ってくる前に、そそくさと帰る。


もうすぐ夏休みに入る。特に予定があるわけでもないので、どうせ美少女ゲーを攻略してだらだらしてるだろう。

ぴろん、と俺、隼人、杏奈、沙良のグルチャに通知がくる。送信してきたのは、隼人。

「盛大に祝え」





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